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61話 乙女の衝動。

女性が見せた優しい笑顔から女性とその彼との関係が良好であることはよくわかる。


しかしだからこそ、蛍は鳥肌を立てた。


マグカップを割ってしまった罪悪感がそうさせていることに違いがないが、女性が1人で修復屋へやって来たことに違和感を感じていた。


きっと、そこは触れてはいけないことなのだろう。


恋人との思い出は開けてはいけない蓋なのだろう。


「そうですね……彼と会ったのは2年前です」


女性はテーブルに置かれているコーヒーのカップに手をかけて指をソワソワと動かしながら口を開いた。


その行動は恥ずかしさを隠すような行動であり、胸が高鳴っているようにも見える。


蛍はそんな女性に相づちをうって、話を促した。


「私達は大学のサークルで出会ったんです。はじめはお互いを意識してなかったんですが……」


「意識し始めたんですか?」


「えぇ…」


蛍の問い掛けに答えた女性は頬を赤くして蛍から目をそらした。


決して、女性が蛍に対して嫌悪感を抱いた訳ではない。


ただただ、恥ずかしかったのだ。


「あの人の優しさと純粋さに惹かれたんです。それから、お付き合いが始まって……とても、私は嬉しかったんです」


あまりにも切なく、別れを告げたような言い方である。


蛍はその言葉に息を詰まらせて、次の言葉に迷った。


もしも、ここで間違えれば女性の傷を抉るかも知れない。


しかしながら、話の流れから蛍が女性の恋人について聞く流れになっている。


その為、ここで話を変えれば逆におかしな空気になることは明白である。


蛍はグッと息を吸い込むと口を開いた。


「彼氏さんは……彼氏さんは今、なにを?」


蛍が口を開いた瞬間、女性が曇った顔を作ったのを見た蛍は思わず焦りを行動に出してしまった。


「す、すみません。余計なことを聞いてしまって。わ、忘れて下さい!」


蛍は珍しくパニックになり、上下を左右にして女性の視線を独り占めした。


焦る蛍を見た女性は口元に手を近づけるとクスッと笑って、先程と同じように優しい笑みを溢した。


パニックなった蛍は女性の優しい笑みに気づくと落ち着きを取り戻して首を傾げた。


「どうしました?」


「いいえ、なんか可愛いなって思ってしまって」


思いもよらない女性の可愛い、に蛍は思わず頬を赤くした。


今まで蛍はその雰囲気と整った顔立ちからクールだとは言われた経験があったが可愛いとは言われたことはなかった。


むしろ、可愛いというのは自分には縁のないものだと思っていたのだ。


だが、女性の可愛い、という一言に蛍は縁を感じたのだ。


いや、率直に嬉しかったのだ。


「あ…ありがとうございます……」


蛍は柄にもなく手で頬を掻いて嬉しさと恥ずかしさを誤魔化して見せたが、やはりそこら辺は女子高生である。


その表情や態度では嬉しさや恥ずかしさは隠しきれていない。


「なんか、ここへ来るまでは“修復屋”って言うと堅い人がやっているのかなって思ってたけど、数日前にここへ来た時、あの男の人を見てなんか気が抜けちゃって」


「男の人?……ムギさんですか?」


「そう、そう」


麦の名前が話題に出て来て嬉しそうに声をあげた蛍を見た女性はまたさっきと同じようにクスッと笑った。


あまりにも純粋な好意が女性には伝わってくるのだ。


それと同時に蛍が麦をどれだけ大切に思っているのかも女性は感じていた。


それだけ、麦が魅力的なのだろう。


「あの人はなんか、私のイメージと真逆で。柔らかいって言うか……なんと言うか……」


「ですよね。私も初めてここへ来た時は聞き慣れない店名に警戒心を強めていましたが、ムギさんに会ってそれはなくなりました」


蛍の1回、1回の笑みが女性の心の芯にまで響く。


それは女性が自身の愛しい人を想っているからであり、蛍のその気持ちに共感できるからである。


誰かの幸せが誰かを不幸にすることは珍しくはない。


しかし、その逆も珍しいことではないのだ。


誰かの幸せが誰かを幸せにすることも珍しくないのだ。


幸せを妬む。


確かにそれは生きていればあるだろう。


だが、世界は、人間という生き物はそこまで欲深い生き物ではないのかも知れない。


本当の愛を見つけた人間はそこまで欲深く生きれなくなるのかも知れない。


「ここで働いている人に言うのも変だけど…あなたは修復屋さんのことを好きなの?」


女性は蛍の確信をつく質問を投げた。


「えっ!?……そんなことは……」


蛍は女性に麦への気持ちを否定しようとしたが、それ以上、先からは言葉が出てこなかった。


実際、蛍は自身の気持ちを頭が完全に理解できていないのが本音だが、それでも心はわかっている。


自分の本当の気持ちに。


「あっ、やっぱり、そうなのかな?」


女性の追撃に蛍は顔を赤くして口を閉ざすことしかできなかった。


一気に立場が逆転してしまっている。


もうすでに接客の枠を越えて“恋バナ”の領域にまで2人は来ている。


だが、それは仕方がないこと。


恋する乙女の衝動なのだから…。

次回の更新は2019年1月2日(水)です!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→蜜柑高校1年1組。父親を探している。

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

月並 零花→病気が完治。

嵐山 轟太→学校の問題児?

嵐山 雪子→轟太の6つ下の妹。

青野 温子→ゴミ屋敷の住人。

青野 槙子→ゴミ屋敷の幽霊。

剣持 境矢→??

謎の女?→浄化。

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