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60話 思い出の品。

修復屋の扉を開けたのは1人の女性だった。


その女性は20代前半のようであり、扉を開けて酷く悩む蛍、舞火、轟太、境矢の4人を目にして固まった。


今、入って良かったのか。


そう、女性は言っているような表情をしていることを察した境矢は蛍の肩をソッと押した。


それは蛍に接客をしろ、というメッセージであった。


「け、剣持さん…!?」


境矢のメッセージをうまく受け取ることができなかった蛍は目を丸くし、小さな声で境矢にその行動の意味を尋ねたが、境矢はそれに口を閉ざした。


なぜ、境矢は何も答えないのか。


蛍はその意味を自身に問い始めた時、痺れを切らした舞火が女性の前に立った。


「い……いらっしゃいませ……。ご、ご用件は?」


慣れない接客の態度に蛍と境矢は冷や汗をかいたが、それ以上に女性の次の言葉に緊張した。


もしも、目の前にいる女性がマグカップの依頼者だったとしたら、それは終わりを示している。


ここにいる4人の責任であることに違いはないが、何より麦の顔に泥を塗ることになる。


それだけは避けたい、と蛍と舞火と轟太の3人は思っているからこそ緊張の視線を女性に集めた。


「はい。前にマグカップの修理を頼んだ者なんですが……マグカップは治して頂けましたでしょうか?」


呼吸をすることを忘れるほどの衝撃が店内に走った。


女性が4人にマグカップのことを尋ねると轟太は素早く割れたマグカップを隠した。


皮肉にも轟太の大きな体がマグカップをうまく隠している。


「えーと……マグカップは……」


女性の前に立つ舞火は目を泳がせている。


明らかにマグカップに何かがあったことは明確であり、それを感じた女性は曇った表情で舞火を見つめた。


このままではまずい。


そう、感じた境矢は素早く舞火をどかして舞火の代わりに女性の前に立つと胸を張って口を開いた。


「申し訳ございません。まだ修復が終わっていなく……」


「あっ、そうなんですか。あとどれぐらいかかりますか?」


「そうですね……もう、少しお待ち頂ければマグカップをお渡しすることができます」


境矢には決して悪気はない。


少しでも時間を稼いでマグカップを治す時間を作ることに努めているし、女性が自宅に引き返すことを自然と促そうとしている。


しかし、修復屋に預けられたマグカップは女性にとって大切なものなのだ。


「じゃ、ここで待たせてもらって良いですか?」


だからこそ、貪欲にも図々しくもなるのだ。


大切なものだからこそ、この手で繋いでいたいと強く思うのだ。


女性のその言葉には力があり、その強い力に押されるがまま境矢は首を縦に振ってしまった。


「えぇ……どうぞ……」


「ありがとうございます」


境矢に許可をもらった女性は4人の顔を見て軽く頭を下げるとゆっくりと店内へ足を運ぶ、店の奥のテーブル席へと腰を下ろした。


これほど絶望的な状況はない。


女性に店で待つことを許可した境矢を舞火と蛍と轟太は強く睨み付けた。


これにはさすがの境矢も引目を感じたのか3人と目を合わせなかった。


「ま、これは仕方がなかったんですよ」


「なに!?てぇのせいで状況は悪くなってるんだよ!」


轟太は激しく興奮して境矢を睨み付けているが、今はそんなことをしている場合でないことは口に出さなくてもわかる。


その為、轟太に噛み付かれても境矢は言い返すことはせずに女性に目を向けた。


「どうする?」


一瞬の静寂の後に舞火が不安そうな声をあげて蛍を見つめた。


舞火に視線をぶつけられた蛍は何も言うことができなかった。


なぜなら、ここまできたら謝るしか方法はない、と考えていたからである。


「蛍……」


黙る蛍を追い詰めるように舞火は蛍の名を口にした。


舞火に名を呼ばれた蛍は腹を決めたのか、舞火を見て深く頷くとカウンターへと向かい1杯、コーヒーを入れるとそれを持って女性のほうへと向かった。


「どうやら、水野さんが時間を稼いでくれる見たいですね。僕らでマグカップをなんとかしましょう」


3人がマグカップの修復について頭を抱え始めた頃、蛍は女性のテーブルへと到着していた。


「もう、しばらく修復に時間がかかりそうなので良かったらコーヒーでもどうぞ」


「ありがとうございます」


女性にコーヒーを差し出した蛍はコーヒーをテーブルに置くと同時に自然と女性の目の前に腰を下ろした。


「美味しいです……」


コーヒーを口にした女性は柔らかい笑みを溢して見せた。


店に来てから思い詰めた表情をしていた女性が柔らかい笑みを見せた為に蛍は少しだけ安心した。


「ありがとうございます。あの…あのマグカップは思い出の品なんですか?」


「はい。あのマグカップは彼との思い出が詰まった大切なものなんです」


女性の柔らかい笑みから繰り出される強い想いと切ない恋模様が蛍の胸を捻らせた。


それ以上、踏み込めば自分も相手も追い詰めることになることはわかっていたが、蛍はそれでも口を開いてしまった。


「聞かせてくれませんか?恋人さんとの思い出を」


女性はふと、優しい顔を見せた…。

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→蜜柑高校1年1組。父親を探している。

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

月並 零花→病気が完治。

嵐山 轟太→学校の問題児?

嵐山 雪子→轟太の6つ下の妹。

青野 温子→ゴミ屋敷の住人。

青野 槙子→ゴミ屋敷の幽霊。

剣持 境矢→??

謎の女?→浄化。

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