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54話 証。

女は感情的になっていることを麦は理解していた。


ソッと口を開いたが、その言葉や表情、行動は女の目には見えない感情を表しているようである。


「ワタシハ…人間になりたい…ダケダ、生キタイ…だけだ。コノ…世界に生まれてから…自分ガ…がなんなのか。ソレを探して、探して今マデ…食ってきた……」


食ってきた。


女の異形の姿を見れば何を食ってきたかは聞かなくてもわかる。


だが、それなのに麦は口を開いて疑問を女に投げつけた。


「食ってきた?それは人間をか…?」


口を開いた麦に恐怖心がなかった訳ではない。


恐怖心があったことは確かだが、女に確認したかった。


それは期待でもあったのかも知れない。


女は“得体の知れない存在”であるが、だからと言って人に害を与えるかどうかはわからない。


絶対的な悪ではない限り、女は絶対的な善でもあるのだ。


「そうだ。ワタシは沢山の人間ヲ食って……ココマデ…成長して来たんだ。だから、ワタシは閉じ込められた…。ズット、ズット……」


女の答えは麦の期待を簡単に打つ砕いた。


しかし、そんな失望感と共に麦の中では新たな疑問が生まれていた。


「閉じ込められた?」


「あぁ…ソウダ。ワタシはずっと閉じ込められていた」


「人間を食べたから?」


疑問に答えた女は麦の聞き直しに対して顔を下に向けた。


その目はどこか後悔しているようで、悔やんでいるようで痛々しいものである。


だからこそ、麦は女が自分から口を開くのを待った。


待つことなのだ。


相手が人間でなくても心に傷は負うし、誰かを愛すこともある。


それは命があるからこそ行われる行為であり、生命の神秘なのだ。


だから、麦はジッと女を見つめて待った。


麦の視線に気づいた女はハッと顔をあげて麦と目を合わせると少し笑みを溢して見せた。


「食ベルコトをプログラムされているんだ。“ワタシ達”はイツからか、自我ヲ…持って人間になることを目指す。ソレは人間が他の生物を…食ラウのと同じなんだよ。だから…生キル為に食う、と言っても間違いじゃない」


女の言葉に説得力があり、割り切ったような印象を麦は受けたが、それが錯覚だとすぐにわかった。


なぜならば、女の瞳から涙が溢れているから。


それはさっきから女が感情的になっているからこそ、場の空気に呑まれて流れている涙なのかも知れない。


だが、それは、それこそが“人間の証”である。


場の空気に呑まれて涙を流すこと。


それはつまり場に感情を支配されてコントロールできない状態であることを示す。


それは心がある人間ならば誰しも経験することであり、特別なことではない。


とても一般的な出来事であり、不思議なことなんてないのだ。


「そっか、聞きたいことは沢山あるけど……」


麦は女を見つめて好奇心をグッと飲み込んだ。


それが最善であると麦は思ったからこそ、そうしたのだ。


「沢山、傷ついてきたんだね。ごめん」


そして、麦は女に向かって頭を下げて見せた。


それは女に命乞いをしている訳ではないし、降参している訳でもない。


麦は本気で女に寄り添いたいと思ったのだ。


人と怪物、この2者が手を繋げないなんてことは誰も言っていないし、心があるのならば繋がる。


そのことを麦は知っている。


「ナゼ、お前が…ワタシに謝る!?」


そう怒り口調で声をあげた女は大きな声を出すと麦を指差して睨み付けた。


そして、不幸をぶちまけた。


「イツもそうだ……。お前ら人間はエサなんだよ!ソノ癖に口は達者で優しさヲ振り撒いてワタシ達ヲ翻弄する。ソノ度にワタシ達もソノ力を自分のものにして、お前達を騙シテ食わなくてはならなくナル。1度、愛シタラ……ドレダケ辛いか……。それでも、激しく食いたくなるんだよ、お前らが。ダカラ、お前らを食わなくていいように……“賢者”にならないといけないんだよ」


麦には女の言っていることが半分程度しか理解できなかった。


だが、その涙いっぱいに口を開ける女はまさしく、人間であることに違いない、と麦は確信していた。


人間はいつだって完璧の形を求めて、それ以外のものを拒絶する。


それは身体的な特徴の場合もあれば、心の特徴の場合もある。


異端者と呼び、人は人を拒絶するのだ。


だが、もしも、この世界で拒絶することをしない者がいたとしたらどうだろうか。


その者が多くの人の救いになるには大きな力が必要になるだろう。


それほど、人間に根付いた先入観を拭うのは難しいのだ。


だが、今、女の目の前にいるのは麦である。


女の話を理解できなくとも麦は女の心の中にある傷を理解できている。


ジレンマによって日々、抉られる傷。


それは麦の力ではどうにもできないかも知れない。


それでも、麦は声を掛けないという選択肢を選択することができなかった。


「オレが少しでも楽にしてあげるよ。おいで」


優しい声に拐われるように女は涙を流しながら、麦へと向かっていった。


人間と化物でも心が交わればしっかりと手を繋げる。


それが今、証明されようとしているのかも知れない…。

次回の更新は12月9日(土)です!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→蜜柑高校1年1組。父親を探している。

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

月並 零花→病気が完治。

嵐山 轟太→学校の問題児?

嵐山 雪子→轟太の6つ下の妹。

青野 温子→ゴミ屋敷の住人。

青野 槙子→ゴミ屋敷の幽霊。

剣持 境矢→??

謎の女?→人間なのか…?

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