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53話 願い事。

「水野さんはここに残って下さい!」


舞火が拐われた現実はその場にいた轟太の心を抉ると同時に親友である蛍の心も抉った。


その中で優先しなければならないのは舞火の安全である。


その為、今、この場に感情は必要ないのだ。


「いえ、私が舞火を助けます」


境矢の提案に首を横に振った蛍は割れた窓に足を掛けた。


その蛍につられるように轟太も窓へと足を運んだ。


「駄目だ。君と不良君はここへ残るんだ」


「それはできねぇ。これは俺の責任なんだよ……」


「それは関係ない。今、優先すべきは春下さんの安全であり、君達の感情じゃない。それに僕なら絶対に救える」


絶対に救える。


その根拠はどこにあるのか、蛍と轟太にはわからなかったが境矢の言うことは最もである。


今、優先すべきは自分の感情ではない。


それを反省してか蛍と轟太は視線を落として口を閉ざした。


「さっきも言ったように2人はここへ残るんだ」


割れた窓に身を乗り出した境矢はそう蛍と轟太に言うと窓から身を投げ出し、見事な受け身を取って森の中へと走っていった。


境矢が部屋を出てから時間にして3分。


境矢の合理的判断能力が高いことがこの無駄のない動きから理解できるが、それは麦も同じである。


もしも、あのまま舞火を襲った女を見ているだけならば舞火は戻って来なかっただろう。


「待て!!」


暗い森を走る麦は息を激しく見出しながら声を出し続けていた。


麦の前を走る“下半身のない女”はガッシリと舞火を腕に巻き付けて逃走を続けている。


いや、走っているという表現はおかしい。


木から木へと物凄いスピードで飛び移っている。


それは明らかに人間ではない動きとスピードであり、常人ならばもうすでに女を見失っているだろう。


だが、今、女を追いかけているのは常人ではない。


麦は自身の体が酸素を欲して呼吸が乱れると同時に自身の体にその力を使用している。


それにより、体から疲れは消え去り常に全力疾走で走れているのだ。


しかし、女との距離は縮まるどころか遠くなっている。


「くっ…このままだと……」


麦は走りながら遠くなる女の背中を見て舌をうった。


麦が女を追い掛けてから舞火の声がしないのは恐らく、あまりの恐怖に気を失ったからだろう。


もしも、舞火の意識があったとすれば麦に有利に働いていたのかもしれない。


だが、それは結果論であり、現状、麦には走ることしかできない。


麦が走る中、少し前に手の平ほどの石を麦は発見した。


「これだ!」


麦はその石を拾うとその場で足を止めて投球動作を取った。


いくら、女を追い掛けていたとしてもその距離は20mは離れている。


それに加えて今、麦がいる場所は森であり、女は木から木へと飛び移っている。


その中で石を女にぶつけることは至難である。


「くらえ!!」


それでも麦は手に取った石を女に投げつけた。


石を投げた麦には大きな自信があった。


それは麦にスポーツ経験があったからではない。


麦は自分の力の使い方を今になってマスターしたからである。


“治す”という行為は欠陥がある場合に限る。


もしも、完全なものに力を与えれば活性化という形でそれは返ってくるのだ。


そして、麦の自信の通り麦の投げた石は女の頭部へ当たり、激しく出血をしながら宙から地面に落ちた。


しかし、これも麦の予想通りであり、落ちた先には茂みがある。


茂みならば舞火へ生じるダメージも少なく済む、と思っての投擲(とうてき)であったのだ。


「マイカちゃん!大丈夫?マイカちゃん!」


茂みに落ちた舞火に素早く近づいた麦は舞火の肩を激しく揺らした。


「う……」


麦に肩を揺らされた舞火は目は開けないものの、僅かに声をあげて体に力を入れた。


その様子を見た麦は深いため息を溢して安心して見せたが、これで全てが解決した訳ではない。


ここからが麦の正念場であり、命懸けの戦いの始まりなのだ。


「ナゼ…邪魔…スル?ワタシ…ハ“足”ガ欲シイダケ…ナノニ。ナゼ……?」


頭から血を流しながら麦を強く睨みつける女。


その目は血走っていて、殺気を感じるが不思議と麦は女が冷静であることを感じた。


“人間ではないが、人間である者”。


麦は女を見て改めてそれを感じると生唾を飲んで口を開いた。


「足!?あんたには足があるじゃないか」


麦は女の尻尾のように伸びた下半身を指差して口を開いた。


すると、女は目をさらに尖らせて両手で地面を叩いた。


「黙レ!!コレハ足デハナイ。オ前ニハワカラナイダロウ。コレカラ先、ドコヘ向カエバ救ワレルノカ、生マレタ場所サエモワカラナイ、ワタシノ気持チナンテ……」


女が叩いた地面は穴が空いている。


そんな穴に落ちていく雫。


そう、女の涙である。


よく見ればその顔は実に人間らしく、愛らしい顔つきをしている。


「君は…なんで足を欲しがるんだ?」


女は瞳から涙を流しながら麦を見つめた。


その目から殺意が消えていた。


そして、ソッと口を開いた…。

次回の更新は12月8日(土)です!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→蜜柑高校1年1組。父親を探している。

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

月並 零花→病気が完治。

嵐山 轟太→学校の問題児?

嵐山 雪子→轟太の6つ下の妹。

青野 温子→ゴミ屋敷の住人。

青野 槙子→ゴミ屋敷の幽霊。

剣持 境矢→??

謎の女?→人間なのか…?

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