50話 視線。
相変わらず呑気な麦を見た蛍、舞火、轟太の3人は顔を合わせると自然と笑みを溢した。
どこに来ても、何をしても変わらないものがある。
それを感じたからこそ、自然と3人から笑みが溢れたのだ。
「そうすっね。アニキの背中、流させてもらいます」
麦に続いてタオルを肩に掛けた轟太は嬉しそうに麦の後に続いて部屋を後にした。
轟太が部屋を後にすると同時に蛍と舞火も入浴の準備を整え始めた。
「剣持さんは行かないんですか?」
麦と轟太に取り残されて1人、部屋に残る境矢に蛍は声を掛けた。
蛍が声を掛けた時にはまだ、麦と轟太の背中が廊下の先に見えており、追い付くには十分な距離である。
「えぇ…。僕もお供させてもらいますよ……。でも、こういうのは慣れていなくて…どうしたら良いのか……」
麦と轟太の歩く背中を見た境矢はボソッと声を出した。
それはまるで独り言のようで、悲しい過去を告白するようで、蛍は一瞬、その返事に困った。
だが、蛍は麦を見て口元を緩めると境矢を見つめた。
「別に正解なんてありませんよ。あの人と……ムギさんと一緒にいると自然とそう思えるようになりました」
「なんか哲学的な話ですね。でも、少しだけ楽になりました。ありがとうございます」
境矢は蛍に軽く頭を下げると麦と轟太と同じように肩にタオルを掛けると足早に部屋から出ていった。
「なに話してたの?」
つい、入浴の準備に集中していた舞火が不意に境矢との会話を蛍に尋ねると蛍は笑みを溢して答えた。
「うん、人間関係の話かな」
そう答えた蛍に舞火は意味がわからず首を傾げるだけだったが、蛍の笑みから舞火はわかっていた。
きっと、蛍に良いことがあったのだと。
「じゃ、蛍、いこったか」
「うん」
麦に遅れること数分。
入浴の準備を整えた蛍と舞火はようやく部屋を後にした。
その頃、先に温泉へとやって来た麦達はその温泉から見える大自然の景色に声をあげていた。
「おぉー!」
しかし、声をあげる麦と轟太とは反対に慣れない様子で境矢は1人、目を輝かせていた。
「キョウヤ、どうした?」
「いえ……何も。さぁ、入りましょう」
温泉には麦と轟太と境矢以外に客はいなく、貸しきり状態である。
それが原因で麦達に大きな解放感を与えているのか、それとも温泉から見える大自然が麦達に解放感を与えているのか、温泉に浸かる麦達がリラックスできたことは言うまでもない。
そうして、リラックスしていると麦達の耳に甲高い声が響いた。
「うん?なんだ?」
麦はその声に首を傾げた。
この声は決して、野生動物の鳴き声ではないことは確かであったが、その声の主が最初、麦にわからなかった。
だが、よく聞けばいつも耳にしている聞き慣れた声であることがわかった。
そう、蛍と舞火である。
「相変わらず、蛍は胸あるよねぇ~」
「ちょっと…舞火、やめてよ!」
その声に引き付けられるように麦と轟太は男湯と女湯を隔てる壁に目を向けた。
男湯と女湯を隔てる壁は木製であり、その木目からその壁が古くなっていることがわかる。
軽いパンチ又はキックでも十分に破れるほどである。
「ゴウタ…。壁はオレが治すよ」
「わかりました。じゃ、俺が蹴り破ります」
温泉から肩をあげて壁に近づく麦と轟太を見た境矢は急いで2人の肩を掴んだ。
「ちょっと待って下さい。何をするつもりですか?」
「いや…壁の点検を……」
覗きをすることは確実であり、バレバレであるにも関わらず麦は堂々と境矢に嘘を口にした。
麦に嘘をつかれた境矢は麦をジッと睨み付けて、麦を威圧的に睨み付けた。
その目は本当のことを言いなさい、と麦に訴えているようであった。
「別に何してもいいじゃねぇか!」
追い込まれた麦を救いだそうと轟太が境矢に睨みをきかせたが、その行為は逆効果であった。
「何しても……?それはさらに怪しい言い方だな!」
「あぁ?怪しいだと」
「僕は人の道から離れるなって言っているんだよ」
麦を置いて次第にデッドヒートしていく轟太と境矢の口論。
もう、その中に麦はいない。
むしろ、最初から関わっていなかったかのような勢いで、口論は激しさを増していっている。
そんな中、女湯では男湯の異変に気付くことなく蛍と舞火は温泉を楽しんでいた。
「はぁ~。貸しきり状態で最高だね!」
温泉で足を伸ばす舞火の足を煙たがる者はいない。
なぜならば、男湯と同じように蛍と舞火以外、誰もいないからである。
「そうだね。最高だね!」
舞火と同じように蛍も足を伸ばしてくつろいで見せた。
だが、そのリラックスが蛍の神経を研ぎ澄ませたのかはわからない。
それでも、蛍は確かに感じたのだ。
強い視線を。
「誰!?」
蛍はタオルで体を隠すと肩をあげて周囲を見渡した。
「ど、どうしたの?」
舞火はその視線に気付いてないようだったが、蛍はその視線に殺気を感じていた。
それはまるで、人間ではないような気配…。
次回の更新は11月25日(日)です!
【登場人物】
花形 麦→修復屋ウィートの修復士。
半 重春→修復屋のオーナー。
水野 蛍→蜜柑高校1年1組。父親を探している。
春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。
月並 零花→病気が完治。
嵐山 轟太→学校の問題児?
嵐山 雪子→轟太の6つ下の妹。
青野 温子→ゴミ屋敷の住人。
青野 槙子→ゴミ屋敷の幽霊。
剣持 境矢→??




