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44話 幸運の指輪。

目の前に立つ、市の役員の男の言葉は麦を驚かせた。


依頼者である青野 温子が“認知症”であることを麦は知らなかったからだ。


しかし、それは無理もないことでもあるだろう。


認知症の人物が自身が認知症である、と気づくのは困難であり、ほとんどの場合は気づくことはない。


温子が認知症であることを知った麦は同時にゴミ屋敷の原因がそれにある、と考えたがそれだけが原因だとは思えなかった。


その根底には深い傷があるのではないか。


麦は温子への驚きをグッと胸に閉まって市の役員に疑問を投げ掛けた。


「その認知症っていつからか知っていますか?」


「そうですね……。私が1、2年前に来たときにはもう、すでにあんな感じでした」


市の役員の男はベンチで座り、ボーッとしている温子に目を向けた。


その市の役員の男の温子を見る目はどこか寂しそうで切ない。


「そうですか…原因は……原因は知っていますか?」


麦は認知症になったきっかけを問うことはしてはいけないと思っていた。


それは温子の個人情報であると同時に触れてはほしくない辛い記憶かも知れないと思っていたからである。


しかし、それでも麦が市の役員の男に温子の認知症の原因を聞いたのは好奇心以上に指輪の意味を知りたかったからである。


「原因ですか……」


麦に温子の認知症の原因を聞かれた市の役員の男はベンチに座る温子から目を話すと次はゴミ屋敷を見つめた。


そして、ゆっくりとゴミ屋敷に近づきゴミ屋敷の玄関に手で触れて見せると深いため息を溢した。


「はぁ……。本当にここは変わりませんね」


「それは掃除した時と…ですか?」


「はい。そして…青野さんも」


認知症を麦の力で治すことは可能である。


大きく疲労することは明白であるものの麦には認知症を治すことができる、という自信もある。


だが、それは果たして温子の為になるのだろうか。


「これは私の先輩が言ってたんですが、もう20年近く前に青野さんのお孫さんと息子さん家族は命を奪われたそうです」


「命を奪われた?それは……」


あまりにも重い答えに麦は生唾を飲んでその続きを市の役員の男に促した。


そこから先を知った時、指輪の意味を知ることができるのだろう。


だが、それと同時に麦には恐怖も少なからずあった。


心の傷は麦には癒せないのだ。


「犯人は捕まったと聞いています。だけど、その犯人が問題なんです」


「犯人がですか?それは一体、誰なんですか?」


「……青野さんの孫娘さんです」


それは絶句するしかなかった。


そして、青野 温子の認知症の原因が明らかになった瞬間でもあったがそれはどうにもできない。


絶句する麦を置いて市の役員の男は話を続ける。


「もちろん、青野さんは大きなショックを受けたそうです。その後、青野さんの旦那さんもご病気でこの世を去っていってしまったそうです」


「旦那さんまで……」


「そして、この世で大切なものを沢山、失った青野さんが頼ったのはある宗教団体だったんです。そこで沢山の物を買わされたみたいで……その中で青野さんが一番に大切にしていたのは“指輪”だったそうです」


麦の胸は激しく熱を帯びた。


それは怒りと言うにはあまりにも生緩く、悲しみと言うにはあまりにも安いものであった。


「その指輪に何か意味があるんですか……?」


麦は震える声を必死で抑えた。


しかしながら、麦の体には力が生じていて強く拳が握られている。


「“幸運の指輪”だそうです。大切な日にそれを身に付けてることで願いが叶うと言うものだそうです」


だから、温子は指輪を求めているのだ、と麦は確信した。


そして、温子はきっと自分の大切な人達がこの世にいないことを直視できていないのだろう。


認知症になることでそれを記憶の底に眠らせているのだろう。


それは温子が嬉しそうに結婚記念日のことを口にしていたことから察することができる。


「なるほど。色々と教えてくれてありがとうございました……」


「いえいえ。私も話しすぎてしまいました…。掃除、頑張って下さい」


うつ向く麦を見た市の役員の男は自身の失態を口にすると麦と目を合わせないまま頭を軽く下げてその場を去っていった。


聞いたほうが良かったのか、それとも知らないほうが良かったのか。


麦の中ではそれは難しい問題であった。


認知症で自身の都合の良いように温子の記憶は改竄(かいざん)されている。


きっと、命を落としたことは知らない。


それでも、指輪を求めているのは潜在的な欲求なのだろう。


「さてと……」


麦はベンチに座る温子に目を向けた。


ここまでの麦の推測がどこまであっているかはわからない。


だが、麦はしっかりと理解していた。


自分の力を使うべきか使わないかを。


「温子さん!」


麦は元気よく手を振りながら温子に近づいた。


「あら、修復屋さん」


優しく笑う温子に麦は笑みを溢した。


そして、麦はゆっくりと温子の隣に腰を下ろして口を開いた…。

次回の更新は11月4日(日)です!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→蜜柑高校1年1組。父親を探している。

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

月並 零花→病気が完治。

嵐山 轟太→学校の問題児?

嵐山 雪子→轟太の6つ下の妹。

青野 温子→ゴミ屋敷の住人。

青野 槙子→ゴミ屋敷の幽霊。

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