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42話 生け贄。

目の前で涙を流す青野(あおの) 槙子(まきこ)


その涙を目にすることができるのは蛍だけであるが、蛍にはその涙の意味が理解できなかった。


具体的に言えば明確な理由がわからないのだ。


だが、その涙が本物であることはわかる。


「大丈夫。大丈夫だよ。私達が指輪を見つけてあげるから」


『本当に……?』


「うん、もちろん」


槙子の声はひどく震えていた。


そんな声に蛍は優しい声で答えて見せた。


このゴミ屋敷に眠る指輪がどれほどの意味を持つのか。


明日が温子とその旦那の結婚記念日だということ何か関係があるのだろう。


蛍は覚悟と共に生唾を飲み込むとゴミ袋を強く握りしめて、足元のゴミを拾おうと膝を曲げた。


ここからが本当の始まりなのだ、と蛍は胸に強く感じたがそんな蛍を焦らせるように廊下から足音がした。


「蛍、大丈夫!?」


「ホタルちゃん、大丈夫か!」


勢いよく部屋に駆け込んできた舞火は大声を出して蛍に駆け寄ってきた。


そんな舞火と同じように大声を張り上げて、顔を青くした麦が駆け寄ってきた。


「面目ねぇ…。アニキ、俺はアニキに……水野のことを頼まれていたのによ……」


「いや、大丈夫だ。オレがすぐに治すから」


涙ぐみながら麦に頭を下げる轟太に麦は轟太の肩を優しく叩いて、笑みを溢した。


場は盛り上がっている。


蛍への心配と男の友情、女の友情が蛍の胸を締め付けた。


お腹が痛いです。


そんな下手くそな嘘をついた数分前の自分を蛍は恨んだ。


「ほら、ホタルちゃん。お腹を見せて」


輝きを放つ右手を前に出して蛍に近づく麦。


その姿は消毒を嫌がる子どもに近づく保健室の先生のようであるが、その両者に共通して言えることは善意があることである。


それが蛍に堪らなく痛かった。


麦が力を使ったあとに麦がひどく疲労していることを蛍は知っている。


治す、という行為にはそれだけ膨大なエネルギーを使うのだろう。


だからこそ、蛍は申し訳なく感じた。


「な…ななな治りました!もう、大丈夫です」


蛍はぎこちなく、そして焦りながら迫る麦にそう言うと麦は深いため息を溢した。


「はぁ……本当に?」


「はい、なんか治っちゃいました。お騒がせしてすみません」


蛍の元気な姿を見た麦は安心したように再び、深いため息を溢して口を開いた。


「本当に良かった」


そんな麦の言葉が真っ直ぐに蛍の心に刺さった。


これほど純粋に心に浸透する言葉はないだろう。


それほどの衝撃であり、優しい言葉。


つい、心がグラッと傾きそうで、虜になってしまいそうな優しさ。


だが、それでも蛍の持って生まれたへそ曲がりな性格が蛍にそれを許さなかった。


「早く、指輪を探さないといけません。早く、戻ってください」


蛍は赤くなった顔を隠すように麦達に背を向けた。


「そうだな。じゃ、マイカちゃん、戻ろうか」


「はい。行きましょう」


元気よく麦に返事を返した舞火は麦と共に部屋から姿を消して行った。


しかし、その時、舞火は蛍が照れ隠しで背を向けたことに気づいていた。


蛍と舞火の付き合いは長い。


その為、蛍が恋愛感情に慣れていないことを知っている。


舞火は背を向ける蛍を見て軽く笑みを溢して姿を消した。


「さて!俺達もやるか!」


肩を回してやる気を滲み出させる轟太。


蛍からすれば轟太は邪魔者であることは間違いない。


「嵐山先輩。やっぱり、部屋を分けて作業をしましょう」


「おいおい、それじゃ……」


「私だって、1人で考えたいこともあるんです」


「……そうか」


蛍は言葉と共に目で必死に轟太に訴えた。


その訴えを察した轟太は首を縦に振るとゆっくりと部屋から出ていった。


こうも簡単に轟太が蛍から離れたのは蛍から独特の女性の悩みを感じたからだ。


どこかに行かなければならい。


そう、轟太は感じて仕方がなかった。


その為、部屋を移動するしかなかったのだ。


これは轟太が女性経験が少ないからこそ、取った行動なのかも知れない。


『あなたは皆から愛されてるのね』


口を閉ざしていた槙子は轟太が姿を消したと同時に口を開いた。


「別に愛されている訳じゃないよ」


『そう?私には愛されていると感じるし……羨ましい』


羨ましい。


きっと、それが槙子の生前に関係しているのだろう。


そして、それが成仏させるヒントの1つなのだろう。


「羨ましい?槙子ちゃんは愛されてなかったの?」


『私は…愛されてなかったよ』


暗いその声はそこから先に踏み込んで良いのか蛍を迷わせる。


なかなか声が出せない蛍を見た槙子は少し笑って見せて再び、声を出した。


『私ね、生け贄なんだ』


「生け贄!?それはどういう……?」


『お姉ちゃんの願いを叶える為の生け贄なの…私は』


生け贄と聞いて色々と蛍は連想した。


昔からある神を鎮める為の生け贄だとか豊作を祈る為の生け贄など、多くのことが思い浮かんだ。


だが、その中で蛍の背筋を凍らせるものがあった。


“悪魔”である。


蛍は悪魔の存在を連想してグッと拳を強く握りしめた…。

次回の更新は10月27日(土)です!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→蜜柑高校1年1組。父親を探している。

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

月並 零花→病気が完治。

嵐山 轟太→学校の問題児?

嵐山 雪子→轟太の6つ下の妹。

青野 温子→ゴミ屋敷の住人。

謎の子ども→ゴミ屋敷に現れた幽霊?

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