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41話 見えない雫。

見かけは子どもであるが、その中身はまるで大人である。


蛍は目の前で無邪気に笑う女の子の幽霊を見てそう感じた。


それは蛍にとって良いとは言えない。


知恵が多くある分、厄介だと思うことしかできなかった。


「害を与えないか…。そんなこと何となくわかってるよ」


この蛍の言葉は決して、強がりではない。


女の子の幽霊を見ているとそれはまるで、人間のようでとても親近感を感じる。


親近感は決して、計算で感じさせるものではない。


その為、その点においては恐怖を感じつつも蛍は感じていた。


『ホントに?そのわりにはかたい顔をしてるよ』


「してないよ」


女の子の幽霊と蛍の距離が縮みはじめて、会話が進みはじめた時、その会話を遮ったのは轟太だった。


「おい、さっきからどうしたんだよ?水野」


「えっ!?」


轟太には女の子の幽霊が見えない為、蛍が激しい独り言を言っているようにしか見えない。


この時、蛍を見る轟太の目は実に冷たい目だった。


さっきも蛍は独り言を言っていた。


それが轟太の中で蛍への疑心を抱かせている。


「なんか様子が変だぜ。もしかして、体調でも悪いのか?」


轟太は麦に蛍のことを任されて蛍に対して神経質になっている。


そう、つまりこれはチャンスなのだ。


轟太の優しさを利用してこの場から女の子の幽霊を引き離すチャンスなのだ。


「あっ…えーと……少し、お腹が痛いです」


「マジか!!ど、ど、どうすれば……。俺は麦のアニキから水野を任せられていて……」


蛍の体調不良の訴えに激しく轟太は取り乱した。


それは麦への忠誠心が轟太を焦らせているのだろう。


「あの……少し、休んできて……」


蛍は取り乱す轟太に止めのだめ押しを口にしようとしたが、それよりも早く轟太は口を開けた。


「待ってろ!アニキを呼んできてやるから!」


それは取り乱していたとはいえ、とても冷静で良い判断であった。


そして、その判断は轟太にとってとても勇気のいる選択だったに違いない。


任せられたのにも関わらず、麦にそれを返すような行動だからである。


「待って下さい、嵐山先輩!」


「いや、大丈夫だ!腹を切る覚悟はできてる。麦のアニキなら……俺は……」


拳を強く握りしめて涙ぐんだ轟太は苦い顔をグッと飲み込んですごい勢いで部屋から姿を消して行った。


轟太が出てからすぐに廊下がドタドタとふるさく音が鳴っていることから轟太が急いでいることがわかる。


きっと、轟太はすぐに麦を連れてくるだろうが、それでも、蛍はため息をついた。


それは安心のため息である。


「はぁ……」


『疲れたの?』


「うん。疲れたよ、君のせいで」


蛍に視線を向けられた女の子の幽霊は目を丸くして首を傾げた。


そんな女の子の幽霊の様子を見た蛍は今までの自分の考えが間違いであったのではないか、と思わせられた。


霊的な存在は警戒するべきであることは変わらない。


だが、全てがそうではない。


ただ、成仏することを求めているだけの霊も確かに存在するのだ。


それはとても、純粋な想いなのだ。


「ねぇ、君はなんでここにいるの?」


このゴミ屋敷にいる理由を今まで聞かなかったのは害を与えられそうだったからである。


この場所にいるのには皆、理由がある。


その理由は幽霊にとって都合の悪い時の場合もある。


その為、うかつにそれは聞けないのだ。


『それは私のお家だからだよ』


「お家?ここに住んでいたの?」


蛍の中に恐怖心が完全に消え去った訳ではない。


今も心臓は激しく鼓動を刻んでいるし、唇は言葉を濁らせるように震えている。


だが、それでもこの2人になった機を逃すわけにはいかない。


ここに麦達が来ればきっと、もううまく会話することはできないだろう。


『ううん。ここは私のおばあちゃんのお家』


その言葉を聞いた蛍は瞬時に依頼者である青野 温子の姿が思い浮かんだ。


間違いない、この目の前の女の子の幽霊は温子の孫娘なのだろう。


蛍はそれを確信してさらに踏み込んだ。


「なるほど。温子さんが君のお婆さんってこと?」


『うん』


「じゃ、なんで指輪を探すことを私に?」


蛍が指輪を口にした時、女の子の幽霊は口をグッと閉じた。


その理由はきっと、あまりにも惨いのかも知れない。


女の子の幽霊が口を閉ざした姿はまるで、痛みを堪えているようで蛍はその姿に胸を痛めた。


しかし、もう後戻りすることはできないだろう。


蛍は口を閉ざした女の子の幽霊に言葉を投げた。


「私は水野 蛍。君の名前を教えてくれる?」


蛍が投げた言葉は実に優しく、綺麗な放物線を描いて女の子幽霊の胸に届いた。


それは人間だとか幽霊だとか関係ない言葉。


それは一緒だよ、と言っているよな言葉。


『私の名前は……青野 槙子(まきこ)です……』


槙子の瞳から落ちた涙が床を揺らすことはない。


それ故に誰にも気づかれない。


だが、1人だけ槙子の涙を知る者がいた。


水野 蛍である。


槙子の涙の意味を知るべく蛍は優しく槙子を見守った…。

次回の更新は10月20日(土)です!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→蜜柑高校1年1組。父親を探している。

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

月並 零花→病気が完治。

嵐山 轟太→学校の問題児?

嵐山 雪子→轟太の6つ下の妹。

青野 温子→ゴミ屋敷の住人。

謎の子ども→ゴミ屋敷に現れた幽霊?

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