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32話 温もり。

今まで轟太は誰にも助けを求めたことはない。


いや、はじめから諦めていたのかも知れない。


だから、学校内で不良のレッテルを貼られることになった。


あの時、轟太が声をあげていれば何か変わっていたのかも知れない。


誰かが轟太の声に耳を傾けて誰かが轟太を“普通の生徒”にしてくれていたのかも知れない。


しかし、それもこれももう、遅い。


1度、つけられた世間的な大きなイメージはなかなか変えることはできないのだから。


「あんたは……」


頬を涙で濡らす轟太の目の前には麦が立っていた。


なぜ、こんな時に麦がいるのか、と轟太は疑問に思ったがよく辺りを見てみると轟太はある家の前で膝をついていた。


修復屋。


お洒落なカフェの様な外装に掛けられた小さな札にそう書かれている。


「ここはオレの店だよ。来てくれたんだな」


「……頼む…助けてく…」


膝をつきながら轟太は声を喉から振り絞るようにあげようとした時、修復屋から姿を見せた麦に続くようにして蛍と舞火が姿を見せた。


轟太の姿を見た舞火は目を丸くした。


「あああ…嵐山 轟太!?なんでこんな所に!もしかして、麦さんをねらって来たんじゃ……」


「舞火、いきなり失礼だよ」


轟太を警戒する舞火を蛍は注意した。


しかし、そんな2人を見た轟太は口を閉ざして麦を一瞥するとゆっくりと立ち上がり、麦達に背を向けた。


何を悪いことをしたのか。


轟太の心の奥に生まれた些細な疑問。


きっと、その疑問は轟太の中で解けることはないのかも知れない。


なぜなら、轟太自身がその疑問に向き合おうとしていないから。


「ちょっと、待ちな」


その場を立ち去ろうとする轟太を呼び止めたのは麦だった。


轟太の背で顔を赤くして眠る女の子を見れば、轟太が何をしているのかがよくわかる。


少なくても麦も蛍も轟太を警戒する舞火もそれをわかっている。


轟太が決して、この修復屋に害を与えようとしていないことはわかっている。


しかしながら、舞火の中の轟太への恐怖心が轟太を警戒させたのである。


それは仕方がないことで、人間はそういうものである。


「お前が背負ってる女の子は誰なんだ?もしかして、誘拐したのか?」


「ちょっと、ムギさん!」


麦はおどけて冗談を口にしたが、すぐに蛍が麦を注意した。


蛍に注意を受けた麦は頭を掻いてごめん、ごめん、と口ずさんで轟太に謝って見せると真剣な顔を作った。


「さて、冗談はおいておいて。見た感じその子とお前は似てるから兄妹だろ?…その子、具合が悪いのか?」


麦は背を向けた轟太に声を掛けるが轟太は一切、口を開こうとしない。


そんな轟太に麦は話を続ける。


「ここから、病院へ行こうと思ったらけっこう、遠いぞ。それにお前だって怪我をしてる。何があったかわからないけど、その子はオレに任せんな」


轟太は麦の言葉に感謝の言葉を口にすることはなかった。


いや、できなかった。


瞳から涙が溢れて声が出なかったのだ。


ポタポタと涙を流す轟太の肩に麦は不意に触れた。


すると、轟太は不思議なことに温かさを感じた。


それは傷が治っていく実感があり、確かな癒しを感じる。


きっと、これを“愛情”と呼ぶのだろう。


それほどに優しい温かさであった。


それほどに轟太の心は痛みきっていた。


「すまねぇ。本当に申し訳ねぇ!!俺が不甲斐ないばっかりに妹の雪子に苦労を掛けっぱなしで!!頼む、雪子を治してやってくれ!!」


轟太は自身の怪我が治ったことに対する疑問よりも先に雪子のことを口にした。


それほどに麦が信頼することができた。


轟太はくるりと回って麦に視線を合わせると膝をついて、麦に深々と頭を下げた。


「そんなに頭を下げんなよ。お前は立派な兄貴だよ。だって、妹さんの為に頭を下げれるんだから」


「その言葉…俺にはもったいねぇよ」


「ま、そう言うなよ。ほら、妹さんを見せてみ」


麦のその言葉で轟太は雪子を背中から下ろして、麦の前へ寝かせた。


相変わらず、顔を赤くさせて呼吸が荒い。


もう、雪子は意識を保てていないことがわかる。


「大丈夫。オレが治してあげるからな」


麦はそっと、目の前で眠る雪子の額に手を置くと目を瞑った。


その瞬間、雪子の額に置いた麦の手は金色に輝きはじめ、次第に雪子の表情が柔らかくなっていった。


それはまるで、奇跡のようで轟太には今、目の前に起こっていることが理解できなかったが、轟太が麦に感謝したのは確実である。


「雪子!大丈夫か?雪子!」


麦が雪子の額から手を話すと素早く、轟太は雪子に声を掛けた。


すると、雪子はゆっくりと目を開けて口を開いた。


「お兄ちゃん……」


眠そうな声をあげた雪子を目にした轟太は雪子を力強く抱き締めた。


それはまるで、親子のようで、その姿に家族の深い絆を麦は感じた。


「家族か……」


轟太と雪子を見て麦は寂しそうにそう、呟いた。


そんな麦を蛍は見ていたが、あえて何も言わなかった。


何となく、それに蛍は恐怖心を感じていたから…。

次回の更新は9月8日(土)です!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→蜜柑高校1年1組。父親を探している。

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

月並 零花→病気が完治。

嵐山 轟太→学校の問題児?

嵐山 雪子→轟太の6つ下の妹。

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