30話 罰。
パニックになった轟太にも確かにわかることがあった。
そう、雪子の体が熱いのだ。
雪子の体を揺らす手から広がる熱は轟太に冷や汗を流させた。
「熱い…。これは熱か!こんな時、どうすれば……」
どんなに体が大きくても轟太は高校生である。
その為、倒れた妹を助ける術を簡単に導くことができない。
こんな時、両親がいれば違ったのだろう。
だが、嵐山家には今、両親の姿はない。
いや、今だけではない。
ずっと、昔から両親はあまり子ども達に干渉してこなかった。
確かな愛情から得られるものは自尊心だけではない。
もしもの状況を打破する策も両親を見て、得ることができるのだ。
だからこそ、轟太にはわからなかった。
「おい、雪子!!しっかりしろ!雪子!!」
「おにい……ちゃん…」
轟太に激しく肩を揺らさせる雪子は顔を赤くさせて声を上げたが、その声から力を感じられない。
その力のない声から雪子がピンチであることは明白である。
「大丈夫…だよ……」
心配する轟太に対して、次に雪子が口にしたのは兄を安心させようとする言葉であった。
その言葉は温かく、とても重い。
自身が苦しくても兄を優先させるような、そんな雪子の言葉に轟太は胸が痛くなった。
今まで家のことをやり、いつも轟太を気遣っていていた雪子に対して、轟太は自由奔放に過ごしていた。
そんな兄に色々と思うところはあっただろう。
しかし、雪子は今まで不満を口にしたことはない。
それは雪子が本当に兄のことを想っているからなのだろう。
轟太と雪子はたった2人の家族なのだ。
「雪子……。大丈夫だ。俺が助けてやるからな」
この雪子の体調不良には少なからず、轟太も影響しているのだろう。
今まで、無理をさせていたのだろう。
轟太は瞳から溢れそうになる涙をグッと抑えると雪子をおんぶして立ち上がると慌てて家を出た。
「大丈夫だ。今、すぐに病院へ連れていってやるからな」
「お兄ちゃん……」
雪子のその声はまるで、轟太に感謝をしている様で申し訳ない気持ちがある様で、気を遣っていることは間違い。
そんな雪子の心に轟太は再度、心を揺さぶられると走るスピードを上げた。
妹は必ず俺が助ける。
今の轟太の心にあるのはそれだけである。
「よし、病院へはこの路地を曲がって住宅地を抜けたほうが早い」
背中で雪子を揺らしながら路地へ入り、轟太は真っ直ぐに住宅地を目指した。
もうすぐなのだ。
路地を抜けて住宅地を抜ければすぐに病院へ辿り着くのだ。
だが、轟太は足を止めた。
「おぅ、嵐山。お前を探してたぜ」
「お前らは……」
轟太の目の前に現れたのは昼間、学校で財布を取り返した2人の先輩であった。
この時、2人だけならば良かったのかも知れない。
2人の先輩の後ろには金属バットや鉄パイプなどの武器を手に持った10人ほどの男達が轟太を睨み付けている。
恐らく、2人の先輩の仲間入りなのだろう。
「昼間の借りを返しに来たぜ、嵐山」
「……今度にしてくれや。妹が…妹がすごい熱を出してるんだよ」
「そうか」
轟太の背中で息を乱して苦しむ雪子を見た2人の先輩は嬉しそうに笑みを浮かべると金属バットを振り回りして轟太へと近づいてきた。
同時に後ろの10人も轟太に近づくと轟太を囲んだ。
言うまでもなく、轟太は完全に包囲されてしまったのだ。
「頼む…今だけは行かせて……ぐっ…」
轟太に頼むことも許さない一撃が轟太に炸裂した。
それは金属バットから放たれた強打であり、それは簡単に轟太の腹に激痛を与え、容易に轟太の膝を落とさせた。
「こんなチャンス、見逃すはずないじゃん」
「くっ……クソ野郎が…」
雪子を抱える轟太にできる抵抗は相手のプライドを貶すことだけだが、それは挑発にしかならない。
次々に轟太に襲い掛かる金属バットや鉄パイプから放たれる強打。
それは轟太の頭にヒットし、轟太は自身の意識を保つことでいっぱいになっていた。
だが、そんな轟太に間髪いれず腹へ強打が入る。
「がっ…くっ……」
あまりの痛みに轟太は声を出すと同時に雪子を背中で支えることができなくなっていた。
轟太の背中から地面に落ちて熱で苦しむ雪子を見た轟太はゆっくりと立ち上がり、先輩達を睨み付けた。
「な、なんだ……」
轟太にはもう、抵抗する力はない。
それでも、目の前にいる男達を倒さなくては雪子を助けることはできない。
だからこそ、轟太は立ち上がり構えた。
目の前の敵を倒して妹を病院へ連れて行くために。
しかし、想いは轟太を助けてはくれなかった。
どんなに轟太が拳を振るおうが相手にはかすりもしなかった。
逆に隙が生まれるだけあった。
あれから何発、殴られただろうか。
「はぁ…はぁ…はぁ………」
轟太が目を覚ました頃、目の前から男達は消えていた。
殴り飽きてどこかへ行ってしまったのだろう。
「雪子……」
うつ伏せに倒れる雪子に向かって轟太は手を伸ばして立ち上がると再び、背中にのせて歩き出した。
だが、轟太が病院へ辿り着くことはないだろう。
今にも轟太は倒れそうになり、フラフラとしているのだから…。
次回の更新は9月1日(土)です!
【登場人物】
花形 麦→修復屋ウィートの修復士。
半 重春→修復屋のオーナー。
水野 蛍→蜜柑高校1年1組。父親を探している。
春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。
月並 零花→病気が完治。
嵐山 轟太→学校の問題児?
嵐山 雪子→轟太の6つ下の妹。




