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3話 悩み蛍。

麦が河原で釣りを始めて数時間。


始めて数分間は鮪を釣る、と気合いを入れていたがすぐにウトウトとし、麦は眠ってしまった。


そんな麦を川原の近くにある蜜柑(みかん)高校のチャイムが起こした。


「あれ?……。もう、日が暮れて来てる。そっか、寝ちまったのか。うぅーん……。さてと、さすがにおやっさんもしつこく怒ってはないだろ。帰るかね」


腰をゆっくりと持ち上げた麦は釣竿を肩で支えると川原を後にした。


そうして麦が川原を後にした頃、川原の近くの蜜柑高校は放課後を向かえて盛り上がっていた。


朝から夕方まで学校に束縛されていた蜜柑高校の生徒達は束縛によって与えられたストレスを晴らす為に部活動に励む者、足早に帰宅する者と様々である。


そんな中、1年1組の放課後の教室で帰る支度をする水野(みずの) (ほたる)がいた。


短い黒髪と鋭い目付きが蛍をクールビューティーに見せ、一部の層では絶大な人気を得ている。


ゆっくりと落ち着いて帰る支度をする蛍とは反対に蛍の前の座席に座る春下(はるした) 舞火(まいか)は忙しなく帰る支度をしている。


「舞火、今日も用事?」


「う、うん……。ちょっと、忙しくて…」


蛍と舞火が知り合ったのは蜜柑高校に入学してからだが、その仲は深く、よく2人で下校することが多かった。


だが、最近になって舞火は放課後のチャイムが鳴ると急いで帰る支度をして、蛍を置いて帰ることが多くなっていた。


長い茶髪に丸い瞳。


それに加えて魅力的な肉体は誰がどう見ても妖艶に感じるだろう。


その為、蛍は舞火はカフェかどこかでアルバイトを始めたのではないか、と考えていた。


なぜなら、舞火にはカフェでのアルバイトが似合っていると思っているからだ。


「そっか…。でも、無理はダメだよ」


「うん。蛍、ありがとう。じゃ、また明日!」


「うん、また明日」


手を振る舞火に蛍は手を振り替えして別れを告げた時、舞火のポケットに入っている携帯電話が震えた。


蛍はアルバイトの他に舞火が忙しなく帰る理由は恋人ができたからだ、とも考えていた。


それは放課後や授業の合間に舞火がよく携帯電話を確認している所をよく目にしているからだ。


それも、その時の舞火は必死の顔をしている。


よほど、惚れているのだろう。


「あっ、メールだ……」


蛍に背を向けてメール受信した携帯電話を舞火は取り出そうとポケットから携帯電話を出したが、舞火の携帯電話は手から滑り落ちて蛍の足元に落ちた。


「舞火、携帯電話、落ちたよ。もぉ、相変わらずドジなんだから」


蛍は舞火にため息をつくと膝を曲げて舞火の携帯電話へと手を伸ばした。


「ドジなんてひどいよ」


そう言って頬を膨らませながら、舞火はぼやくと蛍と同じ様に膝を曲げて携帯電話へと手を伸ばした。


「はい。携帯電話、壊れてないみたいだよ。良かったね」


先に膝を曲げた蛍は床に落ちた舞火の携帯電話を手に取り、膝を曲げたまま、舞火へと手渡した。


「ありがとう。壊れてなくて良かった」


舞火も蛍と同じ様に膝を曲げたまま蛍から携帯電話を受け取ると立ち上がった。


その瞬間、蛍は言葉をなくした。


「蛍、どうしたの?」


「え……いや……。舞火…あの……」


「うん?……あっ、ごめん。急いでるからまた、明日ね!」


一瞬、蛍の声掛けに舞火は足を止めたが再び、受信したメールのバイブレーションに急がされる様に教室を後にした。


「うん……。また明日……」


教室を出る舞火に手を振る蛍の顔は暗かった。


蛍は舞火が立ち上がる時に確かに目にした。


そう、舞火が立ち上がる際にシャツの間から舞火の胸元が見えた。


だが、それは問題ではない。


胸元の近くにあった青い(あざ)が問題なのだ。


あの痣はいつできたものなのか。


痣の感じから最近、できたものなのだろう。


舞火の胸元の近くにある痣のことを考えながら、蛍は蜜柑高校を出た。


「舞火……」


蛍は最近、早く家に帰ろうとする舞火の様子が妙に痛々しく感じた。


いつも学校では天真爛漫でドジな舞火が何者から暴力を受けているかも知れないと思ったら、蛍は胸が激しく痛くなったのだ。


だが、簡単にはそれを舞火には言えない。


舞火がそれを隠している、ということは言いたくないのだろう。


蛍は舞火に痣のことを言うか、言わないか、を悩み頭を抱えた。


大切な友人だからこそ、言えないことがあるのだ。


頭を抱えながら歩く蛍の前に突然、道を走る小学生ぐらいの男の子が転んだ。


膝から僅かな出血をしていて、男の子は今にも泣き出しそうである。


蛍はつかさず、男の子に駆け寄ろうとしたが蛍よりも先にある1人の男性が男の子に駆け寄った。


その優しい表情から『優男』という言葉が似合うだろう。


「大丈夫か?よし、泣かないのは偉いぞ」


優男はそう言うと怪我を負った膝に手をかざした。


そして、その男の手が僅かに輝きを放つと男の子の膝の怪我は消えていた。


「よし、もう、大丈夫だ」


「ありがとう」


「おぅ、気をつけろよ」


怪我が治り嬉しそうに男に礼を言って去っていく男の子に手を振り、不思議な力を持った男は肩で支える竿を揺らしながら歩き始めた。


蛍は無意識にその男の後をつけた…。

次回の更新は5月10日(木)!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→蜜柑高校1年1組の生徒。

春下 舞火→蛍の友達!蜜柑高校の生徒。

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