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29話 最低な兄。

麦は他の大人とは違うかも知れない。


そう、轟太は思っていたが蛍や舞火に連れられて去っていく麦を見た時、轟太は胸が痛くなった。


それは他の大人とは違う、という希望が打ち砕かれたかの様な気がしたからである。


大人は皆、言葉だけである。


そう、自分に悲しく言い聞かせた轟太は自宅の扉を開けた。


「あっ、お兄ちゃんお帰りなさい」


「おう、雪子(せつこ)。ただいま」


嵐山(あらしやま) 雪子(せつこ)


轟太の6つ下の妹であるが、その性格は年齢と反してしっかりとしていて、家事を完璧にこなしている。


その背景には嵐山家の家庭事情が大きく関係している。


轟太が生まれた時から両親は仕事を一番に考え、優先するような人物であった。


その為、轟太と雪子には両親との楽しい思い出がない。


例え、家に両親が帰ってきても着替えを取りに来るだけである。


その際、轟太と雪子が両親と会話することはない。


いや、何を話せば良いかわからないのだ。


「ご飯、できてるけど先に食べる?」


「そうだな…飯でも食うか」


「……何か、元気ないね」


しかしながら、皮肉なことに轟太と雪子がお金で困ったことはない。


両親が仕事を優先しているおかげで、良い家に住めているし食べることに困ったことはない。


それにしても、寂しさの恩恵としてはそれはあまりにも虚しいものがある。


だからこそ、2人は両親に不安をぶつけられない。


両親がそれを理解しているかはわからない。


恐らく、両親がそれを理解していたとしても何も変わらないのだろう。


「別にそんなことねぇよ」


「そう、なら良かった」


雪子の問い掛けに愛想なく答えを返した轟太は玄関から自身の部屋へ行くと雑に鞄を投げて、雪子の待つリビングへと向かった。


リビングへと着いた轟太はあまりにも美しく盛り付けされた料理に思わず、目を丸くした。


雪子は轟太よりも6つも下にも関わらず、家のことを完璧にこなす。


料理もそうである。


美しく盛り付けされたサラダに黄金に輝くオムライスが轟太の食欲を激しく刺激する。


「さぁ、食べよう。お兄ちゃん」


「そうだな」


思わず、雪子の料理に感動して動けなくなった轟太を解放するように雪子は轟太に声を掛けた。


一口、また一口と、雪子の料理を口に運ぶ轟太の心に罪悪感しかなかった。


本当ならば、自分がこの役目をしなくてはいけないのではないか。


自分は本当に“最低な兄”だ。


自分を戒めることで、轟太は心を落ち着かせていた。


押さない頃から轟太はそれしか知らないのだ。


自分には価値がない。


それを口癖のように心の中で繰り返していた。


本当に最低な兄である、そう自己嫌悪する轟太の手には力が入っていた。


「なぁ、雪子」


「なに?お兄ちゃん」


「お前は寂しいと思ったことはないのか?」


なぜ、今更になってこんなことを聞いたのか。


それは轟太自身にもわからなかった。


心の中の違和感を浄化するように、得られなかった愛をむさぼるように、轟太の心が荒れていたからなのかも知れない。


本当は寂しい、と轟太が口に出したかったからなのかも知れない。


しかし、雪子の声は冷たかった。


「ずっと、1人だったから寂しいなんて思ったことないよ」


その言葉は轟太の望んでいた答えではない。


寂しい、と弱音を吐いてほしかった。


だが、雪子は平気で寂しいことを口にした。


それはそれが当たり前だからである。


あまりにも寒く、暗い場所に雪子はいたのだ。


温かい場所を知らないからこその答えなのだ。


「そうか……」


それを轟太はすぐに理解することができた。


だから、それ以上、雪子に語りかけることはしなかった。


それはきっと、雪子の為ではなく自分の為に。


それから、轟太と雪子は言葉を発するとことなく食事をすすめた。


「ごちそうさまでした」


「うまかったぜ」


「それは良かった」


食事を終えた轟太は雪子に対して感謝を込めた言葉を口にすると雪子は頬を赤くして笑みを溢した。


そう、これで良いのだ。


これ以上、寒い場所に行かなければそれで良いのだ。


そんな轟太が望みはあまりにも小さく、謙虚なものである。


しかし、それと同時にその望みは小さいが故に踏み潰されるのだ。


大きな望みに。


小さいからこそ、それに価値を見いだせない人間がいる。


本当は大きいも小さいも関係がないことに気付いていないから。


「なぁ、今度はお兄ちゃんが料理を作ってやるよ。雪子、何か食べたいものはあるか?」


轟太はリビングでくつろぎながら、キッチンへ食器を運んで姿を消した雪子に声を掛けたが、返事がない。


「おい、雪子。聞いてるのか」


轟太はさっきよりも大きな声を上げたが、雪子から返事はない。


さすがに異変を感じた轟太はリビングからキッチンへと足を運んだ。


すると、雪子は顔を赤くしてキッチンで倒れていた。


「おい、雪子!!どうした!雪子!!雪子!!」


キッチンで倒れる雪子の体を轟太は揺らすが、雪子は呼吸を乱しながら苦しそうにしている。


「雪子……」


あまりにも力のない轟太の声。


轟太はキッチンで倒れる雪子を見て、パニックに陥ってしまっているのだ…。

次回の更新は8月25日(土)です!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→蜜柑高校1年1組。父親を探している。

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

月並 零花→病気が完治。

嵐山 轟太→学校の問題児?

嵐山 雪子→轟太の6つ下の妹。

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