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28話 世界の常識。

修復屋へと戻った麦を待っていた者は重春であった。


顔は強ばり、眉間にシワがよっている。


誰が見ても不機嫌であることがわかるだろう。


「コムギ…どこへ行っとったんじゃ?」


怖い顔をしながら重春は重い口を開けた。


その声は低く、麦に胸に刺さるものがあった。


「えーと……今日の晩御飯をとりに河原で釣りを……」


「なるほど。しかし、全く成果はないようじゃが」


「それは……ちょうど、良いところでホタルちゃんとマイカちゃんが来てさ、はっはは……」


麦は苦笑いをすると1歩、後ろにいる蛍と舞火に視線を向けた。


麦に視線を向けられた蛍と舞火は一瞬、驚いて見せたがすぐに目を細めて麦を睨み付けた。


ただ、サボっていただけじゃないか。


蛍と舞火の視線がそう、物語っていることは言うまでもなく、麦の嘘が重春の頭に血を上らせた。


「そんな嘘はわかっとるわ!!何度、仕事をサボれば気がすむんじゃ!!」


「ひっいぃぃぃ」


急に大きな声をあげて麦を怒鳴り出した重春に蛍も舞火もつい、体を一歩、退いてしまった。


そして、麦は謎の奇声をあげて身を小さくした。


「とりあえず、なんとしても今月の家賃は払ってもらうぞ」


「えっ!?それはないよ、おやっさん!そんなに金がないよ」


「なら、アルバイトでもするんじゃな」


「そんなぁ……」


無理もないことである。


ただでさえ、毎月の家賃を滞納しているのにも関わらず仕事をサボる麦は救いようもないサボり(にん)である。


さすがの麦も重春にアルバイトをしろ、という言葉にショックを感じたのか膝を曲げてその場で屈むと床を指でさぞって、露骨に拗ね始めた。


しかし、重春の目を厳しさを帯びている。


甘やかすことはしない、それを重春の目から感じることができる。


そうやって、麦と重春のやり取りを聞いていた舞火は思い出したかのように轟太について口を開いた。


「そう言えば、なんで麦さんは嵐山轟太と一緒にいたんですか?」


轟太について舞火から聞かれた麦は首を傾げた。


「あらしやま?誰のことだ?」


「さっき、あたし達が麦さんを見つけた時に麦さんが一緒にいた高校生ですよ」


麦は舞火の言葉を手掛かりに頭を回転させて、轟太のことを思い出すと手を叩いて嬉しそうな顔を見せた。


「あ~!あの体つきの良い高校生か!そうか、ゴウタって言うのかあいつ」


嬉しそうに轟太のことを口にする麦を見た舞火は首を傾げることしかできなかった。


なぜならば、舞火の中で轟太の評判は良くないからである。


実際、舞火は轟太を学校で見かけたことがあるだけで、話したことはない。


いや、むしろ、話す気が起こらない、と言ったほうが良いだろう。


「あの人、あたし達の学校の不良で問題児ですよ。なのに、なんで麦さんはそんなに嬉しそうにあの人のことを話すんですか?」


その舞火の質問には蛍も食い付いた。


蛍は別に轟太に対してそんなに悪い印象を持っていない。


なぜならば、噂が独り歩きしている、と思っているからだ。


だが、轟太の外見は不良に相応しいものがある。


誰が見ても、嫌悪感を抱くだろう。


それなのに麦はいつもと変わらない。


それが蛍には不思議だった。


怖くなかったのだろうか、何も思わなかったのだろうか。


そんな疑問を蛍は無意識に麦にぶつけていた。


「問題児ねぇ…。皆、普通と違えば“問題”って言うかも知れないけど、それは何となく違うような気がするかな」


「それは…それはどういうことですか?」


無意識的に蛍は麦に声を掛けていた。


急に声を発した蛍に麦は少し驚き、何かを悟ったかのように頷くと蛍と舞火を見つめて口を開いた。


「オレはこの世界に普通なんてものは…常識なんてものはないと思ってるんよ。そんなもので縛れるほど世界は狭くないだろうし。それに、“見た目”で人ははかれないよ」


グッと心臓を握られたかのような感じがした。


蛍と舞火の中の常識は生まれてから、誰かに作られたものであった。


それは正しく生きる為ではなく、枠からはみ出さない為の常識である。


しかしながら、もとからこの世界には枠がないことを今、2人は知ったのだ。


誰も正しく生きることはできない。


それはこの世界にそんなものはないから。


「でも、現にあの人は喧嘩とか問題を起こしてますよ……」


舞火は呟くように轟太を否定するよう言葉を発した。


そこに麦の信念を潰してやろう、という意思はない。


ただ、轟太のそういった側面を見逃すことができなかっただけなのだ。


「確かに暴力で人を傷付けるのは良い行いじゃない。けど、そこに隠れた理由は誰も知らないはずだ」


「確かに私達は本人からそれを聞いたことはありません」


麦に納得するように舞火の隣で蛍は首を縦に振った。


本当に轟太の行いには理由があるのか、それともないのか。


それは蜜柑高校の生徒はおろか、教師さえ知らない。


それこそ、拒絶なのだ。


蛍と舞火が麦の言葉に揺さぶられている頃、話の中心になっている轟太は自宅へと向かっていた。


自宅へと向かう轟太の心はどこか穴が空いていた…。

次回の更新は8月19日(日)です!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→蜜柑高校1年1組。父親を探している。

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

月並 零花→病気が完治。

嵐山 轟太→学校の問題児?

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