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27話 違和感。

轟太が見る限り麦は大柄ではない。


釣竿を持つ腕や体を支える足腰、それらを見ても決して筋肉質とは言えない体つきをしている。


きっと、麦と轟太が殴り合えば轟太が圧勝するだろう。


轟太は麦を見て、それを直感したがそれでも不思議なことに轟太は麦に勝てる気がしなかった。


それはあまりにも広く、大きい麦の背中を目にしたからだ。


「あんたはいつもそうなのか?」


「いつも?…それはどういうことだ?」


誰に対してもそうなのか。


轟太の聞きたかったことはそれであった。


一時の感情で麦が自分に語りかけているのではないか。


それを轟太は疑っているのだ。


人間は誰かに必要とされることで快感を得る。


それはあまりにも甘く、旨味を宿している。


そうすることで、人と人は支え合うことができるのだ。


これは自然なことで悪いことではない。


轟太自身もそれを頭ではわかっているが、心がそれを受け入れようとしないのだ。


「いつも……そうやって、人の心に語りかけるのか?」


大人の階段を上る度に人は抱える物が多くなる。


結果、持っている物を捨てなければならなくなる。


それもこれも、皆、頭ではわかっている。


いつも、心に違和感を感じながら。


「いつもかぁ~。それはオレにはわからんよ。でも、オレはオレだよ」


麦は河原をボーッと見つめながら轟太に答えた。


その言葉は轟太が求めていた言葉ではなかったかも知れない。


しかし、求めていた言葉ではなくても、求めていた答えであった。


誰もが生きながら感じる心の違和感。


それを麦はつついてくるのだ。


きっと、麦、本人にはそんな自覚はないのかも知れない。


そんな麦には賛否両論の声があるだろう。


それでも、今の轟太にとって麦の何気ない言葉が支えになったことは確かである。


「そうか……。礼を言うぜ」


「礼?オレが君に何かやったか?」


「あぁ…。少し楽になったような気がするよ」


轟太は麦に感謝の気持ちを口したと同時に笑みを溢した。


何気ない轟太の笑みに驚いたのは轟太自身であった。


自分もこんな顔をするんだな、と轟太は心の中で呟き清々しい気分を味わった。


「ま、もしも、何かあったら修復屋に来てくんな」


「修復屋?」


「あぁ、オレが働いている店だよ」


麦が轟太に胸を張って、自信満々に修復屋を紹介した。


修復屋を紹介された轟太も修復屋、という名前を聞くのがはじめてではあったが、それがどんな店なのかは容易に想像することができた。


なぜならば、麦が働いているのだから。


周りから見れば、今の麦と轟太は友人同士に見えるのかも知れない。


それほど、この数分の間に距離が縮まったのだ。


いや、轟太が麦に惚れたと表現するほうが正しいのかも知れない。


だが、そんな2人を遠くで見つけて不安げな声をあげるものがいた。


「ねぇ、蛍、あれって麦さんと……嵐山 轟太じゃない?」


河原から少し離れた道で麦を探す為に店から歩き出した舞火は蛍の腕を掴んで河原を指差した。


その声を聞いて蛍は舞火の指の先を見つめた。


「確かに。あれはムギさん見たいだね」


「ねぇ、あれってもしかして、麦さんが嵐山 轟太に絡まれってるってことかな……?」


「うーん……」


轟太は不良のレッテルを貼られている。


それは蛍も知っているし、学校では悪名高い。


その為、舞火にそれを聞かれた蛍は確かな答えを口にすることができなかった。


そして、それが蛍にはもどかしくて仕方がなかった。


「とりあえず、行ってみるしかないね」


蛍の出した答えに首を縦に振って、納得した舞火は両腕を激しく振って、走り出した。


その様子から麦を心配する気持ちが伺えるが、その反面、それは轟太に対する恐怖でもあるだろう。


轟太のことを悪党と思っているからこそ、急ぐのだろう。


「そうか、じゃ、またあんたの店に行かせてもらうよ」


「おぅ、いつでも来てくれ」


急いで蛍と舞火がこちらに向かって来ていることを知らない麦と轟太は会話を進めていた。


そして、轟太はポケットから手を出して、麦を見つめた。


「本当に助かったよ」


それは敬意の現れである。


自身の手を相手に差し出し、尊敬の眼差しをおくる。


これほど、清々しい仕草はないだろう。


「うん」


そんな轟太の仕草に影響されるように麦は手に持つ、釣竿を地面にゆっくり置くと腰を上げた。


そして、両手をズボンで拭くと轟太に手を差し出した。


握手。


それは信頼の証であり、これからの関係を固くさせる行動であるが、麦と轟太の手が結ばれる瞬間、舞火がそれを遮った。


「麦さん!!」


「あれ?舞火ちゃん!?どうして、ここに?」


「重春さんに頼まれて探しに来たんですよ!ここは危ないですから早く、行きましょう」


いきなりやって来て手を引く舞火に麦は首を傾げて、舞火の隣にいる蛍に視線を向けた。


「これはどういうこと?」


「それは……」


蛍は言葉を濁して、麦の問いを誤魔化した。


その頃には轟太は手をポケットに閉まって、麦達に背を向けて逃げるように去っていった。


寂しそうな後ろ姿を麦はチラッと目にして蛍と舞火に連れられて、修復屋へと向かった…。

次回の更新は8月15日(水)です!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→蜜柑高校1年1組。父親を探している。

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

月並 零花→病気が完治。

嵐山 轟太→学校の問題児?



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