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25話 鶴と嵐。

修復屋に近づく度に舞火の機嫌が良くなってくのが蛍にはわかった。


それは露骨に披露される恋心なのだ。


本音を言えば蛍も修復屋へ行くことに対して心を踊らさせていた。


いや、麦に会うことに心を踊らせていたが、蛍の性格上、それを口にすることはできず、いつも渋々、舞火に付いてきているフリをしている。


「麦さん、忙しくしてるかな?」


「うーん…どうだろう?ムギさんのことだからサボってたりして」


「確かに。それはあり得るね」


修復屋へと向かう蛍と舞火の足は修復屋に近づく度に速度を上げていく。


それほど2人にとって、麦は特別であり、修復屋はそれほどに心休まる場所なのかも知れない。


商店街を抜けて、修復屋へとやってきた蛍と舞火は店の前に来ると顔を合わせて笑みを溢した。


「行こっか」


「そうだね」


先に口を開いた舞火は蛍の前に立つと店の扉に手を掛けて、ゆっくりと扉を開いて見せた。


すると、店から放たれた言葉は歓迎の言葉ではなかった。


酷く荒く、怒りに満ちた言葉であった。


「コムギ!!どこにいっとたんじゃ!!」


その声の主は重春である。


眉間のシワと尖った目付きから、麦が仕事をサボって行方をくらましたのがすぐに理解できる。


しかし、あまりの重春の勢いに蛍も舞火も声をあげることができず、固まってしまった。


そんな2人を目にした重春は麦では2人に怒りをぶつけたことに対して、恥と罪悪感を感じ2人に頭を下げた。


「おっと、君達じゃったか…。すまんのぉ」


「いいえ。それよりも、ムギさんいないんですか?」


眉間のシワを濃くしていた重春は優しい顔を作っていたが、蛍が麦の名前を口にすると再び、眉間にシワを寄せて怖い顔を作った。


「あぁ。コムギの奴は朝までは店にいたんじゃが……。さっきから、姿が見えんのじゃ」


怖い顔を重春は作ってはいるが、その口調は諦めのようであり、疲れきっている。


麦が仕事を放棄して逃走することは珍しくはない。


それに重春は慣れてしまっているのだ。


これは実に悪い慣れである。


「そうですか……それは残念です。あっ、それならあたし達が麦さんを探しますよ!」


「えっ、君達が?」


突然の舞火の申し出に重春は目を丸くして驚いた様子であったが、すぐにその顔は優しくなった。


「はい!あたしと蛍で探しますよ!」


「それはありがたいのじゃが…。良いのか?」


麦を探す気満々の舞火を一瞥し、重春は蛍に視線を向けた。


探してくるのか。


蛍を見た重春の目はそれを蛍に問い掛けていた。


だが、それは蛍にとっては愚問であった。


「はい。私と舞火で探してきます」


「そうか。すまんのぉ。コムギを見つけたら一発、お見舞いしてやってくれ」


「はい!」


重春から麦への暴力を許された蛍は深く頷いて、返事をすると重春に手を振って舞火と共に修復屋を後にした。


修復屋を蛍と舞火が出た頃、麦は呑気に河原で釣りを楽しんでいた。


「ふぅ~。いい天気だなぁ~。こんな日は釣りに限るな」


そう麦は河原で釣糸を垂らしてはいるが、麦に魚を釣る気はない。


その腰が曲がった様から、その眠そうに細くなった目からその気がないことがわかる。


それでも、麦が河原で釣りをするのには理由がある。


そう、それはのんびりと過ごしたい、という思いがあるからである。


毎日、忙しなく仕事をする。


それはあまりにも麦の生き方に適していない。


できるだけ、のんびりとした毎日を過ごしたい。


それが麦の本音であり、願いなのだ。


その為、釣竿がピクピクと引いていても麦には関係ないのだ。


だが、それを気にする者が麦の目の前に現れた。


「釣竿……引いてるぜ」


それは蜜柑高校の問題児であり、不良のレッテルを貼られている生徒。


嵐山 轟太である。


2人の生き方は全く違うだろう。


血生臭い喧嘩の日々を送る轟太とのんびりとフワフワした毎日を送る麦。


そんな反対の人種が今、出会ってしまったのだ。


「おぉん?あ~……いいんだよ」


麦は酷く背中を丸めて、眠そうに手で目を擦るだけで釣竿を引こうとはしなかった。


その麦の行動を見た轟太には麦が変人にしか見えなかった。


なぜならば、釣りをしている理由がないからである。


普通、釣糸を垂らしている者の目的は魚を釣ることであるはずであるが、麦はそれを目的としていない。


むしろ、魚に餌をやっているようなものである。


「わからねぇな。じゃ、なんであんたはここで釣りをしてるんだよ?」


「なんで?そうだな~……。なんでだろうな?」


「自分でもわかってないのか!?」


轟太にとっては初めて見る人種である。


そして、この様な人種を変人と呼ぶのだろう、と轟太は確信的なものを感じていた。


たが、次の麦の言葉を耳にして轟太は胸の中がゾワゾワした。


「まぁ~な。でも、この行為に意味があるんだよ。結果はそれほど重要じゃなかったりする」


結果よりも仮定が大事。


どこかの努力推進者が述べた言葉なのだろう。


だが、麦の口から放たれたその言葉は少し轟太には違うように聞こえた。


奥深く、胸がゾワゾワするのだ。


轟太は麦のことを堪らなく知りたくなった…。

次回の更新は8月5日(日)です!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→蜜柑高校1年1組。父親を探している。

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

月並 零花→病気が完治。

嵐山 轟太→学校の問題児?

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