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24話 嵐。

今、蜜柑高校の校舎裏で鈍い音が鳴り響いた。


それは硬い拳が柔らかい頬を潰す音である。


「ひぃぃ……。わかった。もう、やめてくれ。なぁ?」


蜜柑高校の3年生であろう柄が悪い男子生徒は殴られて、地面に這いつくばる男子生徒を目にして地面に頭をつけた。


それは降伏の証である。


絶対的な力の差と痛みを与えられた者がとるべき態度であり、抵抗する姿勢が死んだ証である。


「ちっ……」


蜜柑高校2年生の嵐山(あらしやま) 轟太(ごうた)は軽く舌打ちをすると地に頭をつけて謝る3年生の先輩を目にして、黒い財布を拾った。


嵐山 轟太は蜜柑高校の2年生であり、この学校の中の一番の問題児である。


暴力、狂暴、不良など、轟太は蜜柑高校内でそう教員にも生徒にも思われている。


そして、それは払拭されることはない。


180㎝を越える身長がまた、轟太を威圧的に見せるのだ。


「もう、こんなことはやめろよな」


黒い財布を拾った轟太は頬を腫らして寝そべる先輩と怯える先輩に背を向けると校舎裏を出た。


蜜柑高校で悪名高い轟太がかつあげにあった訳ではない。


むしろ、轟太に喧嘩を売る生徒など、調子にのった上級生ぐらいである。


「ほらよ、もう、取られるなよ」


校舎裏を出た轟太を待っていたのは1人の男子生徒だった。


見るからに幼く、弱々しく愛らしいその姿からその、男子生徒が1年生であることがわかる。


そんな男子生徒に轟太は黒い財布を渡した。


そう、この黒い財布は1年生の男子生徒のものなのだ。


上級生に財布を取られた1年生を見たからこそ、轟太は上級生に拳をぶつけたのだ。


「は、はい。……ありがとうございます」


轟太から財布を受け取った男子生徒は少し肩をビクつかせながら、怯える素振りを見せたが少し微笑んで見せた。


きっと、轟太に心から感謝しているのだろう。


少しでも、あんなふうに強い先輩になりたい、と憧れを持ったのだろう。


だが、それはすぐに打ち砕かれた。


「こら!そこで何をやってるんだ」


轟太と男子生徒のやり取りを偶然、目にしていた体格が良い体育教員が駆け足で2人に駆け寄ってきた。


体育教員の焦ってこちらへ走ってくる様子を見て、轟太は体育教員に何を言われるか容易に想像することができた。


いや、体育教員ではなくても容易に想像することができた。


なぜなら、この学校の教員は皆、轟太を煙たがっているからである。


「お前、まさか…。かつあげか?まったく。お前、見たいな生徒がいるとこの学校の評価が下がるんだよ」


いつもこうである。


轟太のすることに対して、皆、口を尖らせる。


そして、最後にいつもの台詞を吐くのだ。


「……早く、やめろよ」


その言葉を初めて聞いた訳ではない。


だが、何度、言われても轟太はそれに慣れることはできなかった。


どうしても、受け入れられないものがあるのだ。


「…ちっ」


轟太は小さく舌打ちをするとそれ以上、体育教員に口を開くことはせず、その場を後にした。


この後に財布を取り返してもらった男子生徒がいくら、体育教員に事情を説明しても無駄なのであろう。


それだけ、轟太に貼られているレッテルは厚いのだ。


だから、轟太も諦めている。


何を言っても信じてもらえないから。


誰にも必要とされていないから。


だから、轟太は口を閉ざすことを選んだのだ。


その選択がどんなに自分を追い詰めるものだとしても、轟太は何も言わない。


蜜柑高校は轟太にとって、冷たく、暗い場所なのだ。


「うわ、嵐山だ」


「見ろよ、あの怪我!また、喧嘩したみたいだぜ」


放課後の蜜柑高校では多くの生徒が群れを作り、楽しそうに会話をしているが、轟太が近くを通るとその場は冷たくなる。


それは轟太にわかるように、轟太に伝わるように場が冷たくなるのだ。


それは堪らなく虚しく、切ないが轟太はそれをグッと我慢する。


何を言っても無駄。


それを自分に言い聞かせて轟太は1人、学校を出た。


「蛍!あれって、嵐山 轟太じゃない?」


轟太と同じタイミングで学校を出た舞火はその場で足を止めて轟太を指差した。


そんな舞火と一緒にいた蛍は舞火の指を手で払った。


「ダメだよ、指差したら」


「そ、そうだね。絡まれるかも知れないしね」


「はぁ…そうじゃないよ」


顔を青くして怯える舞火に蛍はため息を溢して口を開けた。


「普通に失礼だし、あとあの人は先輩だよ」


「きっと、そう思ってるのは蛍だけだよ」


そう、舞火の言っていることは間違いではない。


不良のレッテルを貼られている轟太を先輩だと言っているのは蛍だけだろう。


「それよりも、早く、麦さんの所へ行こうよ」


青い顔から明るい顔を作った舞火は蛍を急かすように麦の名を口にすると足早に歩き出した。


そんな舞火を見て、蛍も足早に歩き始めたが、蛍の瞳の片隅は確かに捉えていた。


道の片隅を歩く、轟太の寂しそうな顔を。


しかし、前を歩く舞火に蛍は気を取られてしまっていた…。

次回の更新は8月3日(金)です!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→蜜柑高校1年1組。父親を探している。

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

月並 零花→病気が完治。

嵐山 轟太→学校の問題児?

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