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23話 真の笑顔。

結論から言えば毒を浄化することは可能である。


麦は『あの頃の自分』とは違うのだから。


だが、毒を浄化しただけで零花は救われるのだろうか。


それに関しては疑問が残る。


あまりにも深い闇が零花の中から完全に消えるかどうかはわからない。


いや、むしろ、それは消えることはないのかも知れない。


愛した人に病気をうつされたのだ。


その上、逃げられた。


毒を浄化してはい、終わりとはいかない。


「麦さん……実は私はここへ来る前に何人かの男の家に泊めてもらいました」


それはあまりにも急な告白であった。


そして、それはあまりにも衝撃的なものである。


零花の言葉を耳にした麦はゾッとした。


自分には毒をうつすことを躊躇っていたが、他の人にはどうだったのだろうか。


もしも、行為に及んでいるとしたら。


麦はそう考えると胸がいっぱいになり、苦しくなった。


「そんなに深い傷を負っていたんだな」


毒を浄化する対象が増えるかもしれない、と麦が不安になったのは確かだったが、それ以上に零花の傷の深さに驚きを隠せなかった。


言葉で、気持ちを理解していてもわからないことはある。


それは傷だったり、愛情だったりする。


零花の復讐はもう、すでに実行されていた。


そう、それほどまでに零花が追い詰められていた、ということなのだ。


誰かにぶつけるほど追い込まれていたのだ。


「麦さんはそう、受け止めてくれるんですね」


そっとそう、呟いた零花は軽く笑みを溢した。


麦の器の大きさを改めて知ったからこそ、零花は麦が本物であることを確信した。


「で、その人達とは……?」


麦はそれ以上、先の言葉を口にすることはしなかった。


不安があったが臆した訳ではない。


毒を浄化するにあたり、その『代償』は大きなものになるだろう。


それは人数が多くなればなるほど、さらに大きくなり麦を圧縮させるが、今の麦はそれを覚悟していた。


むしろ、毒で苦しんでいないことを麦は願っていた。


「してません。お互いに体を少し弄るだけで、行為まではいってません」


「そっか。じゃ、うつってないな」


「……もしも、うつっていたら……。私を軽蔑しますか?」


零花にもう、自尊心はない。


こんな行いをしてしまった自分を愛せる訳がなく、むしろ、嫌悪感を覚えている。


だが、その中で零花は麦に軽蔑されたくない、と思っていた。


それは恋愛感情ではない。


尊敬や憧れが零花にそう思わせているのだ。


零花は震えた自身の腕を擦り、麦から視線を外した。


麦の答えが怖いのだ。


だが、そんな零花の恐怖心を知ることもなく麦は簡単に答えて見せた。


「いや、しないよ。皆、オレが治すから大丈夫!」


「麦さん……」


「さぁ、これで『家出女』は終わりだ。オレに背中を見せて、あとは任せんな」


麦に背中を見せるように言われた零花は瞳から流れようとしている涙をグッと堪えて、麦に背中を見せた。


白いシャツから(あらわ)になった背中は相変わらず、赤い発疹があり、麦に恐怖心を感じさせる。


麦にも思うところはある。


この赤い発疹はよく知っている。


「じゃ、ゆっくりと目を閉じて」


「はい」


麦の指示で目を閉じた零花は背中に麦の手が触れたことを知った。


麦の温かい手は零花の背中に触れるとだんだんと温度をあげて、熱くなっていくが不思議とそれは温かい。


心地よい温かさが零花の背中から零花の全身へと広がっていく中で零花は体が楽になっていくことを感じた。


何がなくなったような感覚。


重い重りがなくなったかのような感覚。


とてつもない解放感に零花が満たされた時、麦は口を開いた。


「はい、これでもう、大丈夫!」


その声でシャツを着た零花は確かに毒が浄化されたことを感じることができた。


それはあまりにも容易で優しさに満ちている。


「麦さん…本当に…本当に…ありがとうございます」


「お礼を言うのはこっちのほうだ。今度はしっかりと治せて良かった」


きっと、麦は今までの人生で毒と遭遇したことがあるのだろう。


麦のその口ぶりから零花をそれを感じていたが、それを口にすることはなかった。


なぜなら、麦があまりにも悲しい顔をしていたから。


「麦さん…また、この店に遊びに来ても良いですか?」


誰にでも蓋をしておきたい記憶はある。


それは無理に蓋を外すと鬼や蛇がでるかも知れない。


しかし、だからと言ってずっと蓋をしておく訳にはいかないのだろう。


いつか、誰かが蓋を開けるかも知れないし、自分が開けるかも知れない。


だから、今は無理をして蓋を開ける必要はないのだ。


「あぁ、もちろん。いつでも遊びに来てくんな」


「はい、ありがとうございます」


「あっ!でも、おやっさんに病気を治したことは内緒にしてね。ただで治したことがバレたら何をされるかわからないから」


麦は気だるそうに肩を落としながら重春を話題に出すと怯えて見せた。


そんな麦を見た零花は笑みを溢した。


その零花の笑みは心からのものであり、麦もそれをわかっていたからこそ、麦も自然と笑うことができた。


しかし、次の日、重春に零花のことがバレたのは言うまでもない…。

次回の更新は7月28日(土)です!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→蜜柑高校1年1組。父親を探している。

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

月並 零花→病気が完治。

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