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22話 毒の剣。

これは毒だ。


この病気は決して、珍しい病気ではない。


誰にでも感染する確率はあり、その症状は男性よりも女性のほうが確認しずらい傾向がある。


そして、その主な感染経路は性交渉である。


麦は零花の言った『元カレからうつされた』という言葉の意味を深く受け止めると同時に激しく胸の激痛が走った。


「はい……私は“ある病気”に感染しています」


麦の言葉に頷いて自身の病気を告白した零花は脱いだシャツに腕を通して、背中を隠すとくるりと回って、麦に視線を向けた。


その零花の目は実に真剣であり、生きたいという意志が感じられるが、その反面、不安も感じられる。


僅かに零花の瞳が震えているのだ。


自身の病気を告白するのにどれ程の覚悟がいたのだろうか。


恐らく、心を圧縮し喉を絞り上げるように病院のことを口にしたに違いないだろう。


麦は瞳を震えさせる零花の肩に手を置いて見せた。


「麦さん…?」


「ありがとう。自分の病気のことを言ってくれてありがとう」


それは心からの感謝であった。


もしも、零花が麦と口づけをしていれば。


もしも、零花が麦と性交渉を行っていれば。


麦は零花から病気をもらっていたに違いないだろう。


零花の今までの行動から零花が麦に病気をうつそうとしていたことを予想することができるが、それにはいくつか不可解な点が存在する。


「いえ…ありがとう、だなんて言わないで下さい。私は本来、あなたに救いを求めてはいけない人間なんです」


「そんなことはないよ。この店に来た人を平等に治す、これがこの店のやり方だから、何も気にすることはないよ」


「そんなことはあります。だって、私はあなたに……」


「病気になって、どれぐらい?」


麦はそれ以上、先を零花に言わせなかった。


零花が病気であることを知った今、零花が麦に病気をうつそうとしていたことは確実である。


だが、なぜ、そんなことをする必要があったのか。


麦はその理由を零花から知らなければならない、と思っていた。


その理由を知らなければ病気を治すことができない、と感じていたからである。


「……もう、2年です」


その言葉を聞いた麦は背筋に鳥肌が立った。


感染して2年、それは病気の進行を意味する時間であり、そして、これが最後のチャンスと言える時期である。


“この病は”感染してから4つのステージに分けることができる。


ステージ1、2に関してはまだ、治療することが容易であり助かる確率は極めて高い。


だが、ステージ3や4になってくると話は変わってくる。


毒が全身に周り、気だるさや発熱などの症状を起こし、全身の神経にダメージを与えていく。


ここまできた場合、治療は極めて困難になる為、早期発見が重要になってくるが、零花は病に感染して2年になる。


この2年は4つのステージで考えるとステージ2とステージ3の間にあたる時期になる。


しかしながら、麦は零花の病気がステージ3に入っていることを理解していた。


「2年……なるほど。なぜ、その間に病院へ行かなかったの?」


病気の進行にも個体差はあるだろう。


零花の背中を見た時、その赤い発疹の数や様子から麦は零花の病気がステージ3に来ていると確信していた。


「……復讐してやりたかったからです」


「復讐?零花さんに病気をうつした男に?」


「もちろん、元カレに復讐しようと考えましたが……彼は私が病気のことに気づいた時には彼は姿を消していました」


「そっか。なら、誰に復讐をしようと?」


麦には何となく次に返ってくる答えが何なのか、理解していたがあえて零花に答えを委ねた。


それは零花の口から聞かなければいけないことだからだ。


目の前の壁を必ず乗り越える必要はない。


しかし、目の前に壁があることはしっかりと自覚しなければならない。


「男にです。……あれから、私は男に嫌悪感を覚えました。実に汚く、醜く、傲慢な生き物だと思いました。だから、この病気を武器にして、復讐しようと思いました。もう、2度と腰を振れなくするために」


あまりにも深い闇。


それは麦が想像していたよりもどす黒い闇で、とても底を見ることができない。


だからこそ、零花の口から復讐を聞けて良かった、と麦は感じていた。


闇は口にすることでどこか、消化される部分がある。


麦はそれを十分に理解しているし、口にすることの勇気と痛みを理解している。


「だけど!!今は生きたいと思っています。自分がいかに勝手なことを言ってるかはわかっています。それでも…私は……生きたいんです」


零花は麦に口を開かせる間を与えず、自分の想いを口にした。


それは言葉ではなく、重い鉛玉(なまりだま)のようで口から出た瞬間、麦に重くのし掛かった。


「わかってるよ。零花さんが実は病気をうつす気がなかったことを。オレにはわかる。いくらでも、うつすチャンスがあったはずだから」


その言葉をしっかりと零花の心に届き、再び、零花の瞳から涙を落とさせた。


そして、ここからが勝負なのだ。


麦が毒を浄化することができるかどうか…。

次回の更新は7月22日(日)です!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→蜜柑高校1年1組。父親を探している。

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

月並 零花→病気に苦しんでいる。

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