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2話 修復屋。

修復屋へと入ってきた老人はきっちりとスーツを着こなし、片手には杖が持たれている。


だが、杖を持つ必要がないほど姿勢は伸びていて、たくましく見える。


麦はあまりの険しい表情に生唾を飲んだ。


「……お、おはよう!おやっさん」


「さっき、店から出てくる親子を見たんじゃが……」


(はん) 重春(しげはる)はそう呟くと杖を力強く握り締めた。


その仕草に麦は思わず身を退いた。


「あっ、ははは。そうだね、さっきお客さんが来てたんよ」


修復屋には麦、1人だけで働いているが麦が修復屋という店を作り上げたのではない。


この店は重春から譲ってもらったものなのである。


その為、この修復屋のオーナーは重春であり、売り上げのいくらかは家賃として重春に払わなければならない。


しかし、麦がきっちりと家賃を重春に払ったことはない。


別に麦がお金の支払いに責任がない、という訳でなく払えないのだ。


単純に修復屋の売り上げが上がらないのだ。


そして、その原因として上げられるのは麦がお客さんからお金の支払を要求しない、ということが上げられる。


「なるほど。それで……」


「それでって……?」


「いくらほどで修復したんじゃ?」


重春はジッと麦を睨み付けるが、麦はそんな重春の視線を無視する様に目をそらすが重春は圧力を麦に与え続ける。


黙り込む麦に黙って睨みをきかせる重春。


同じ様に黙っていても明らかに麦のほうが精神を削られている。


「バカたれぇぇぇ!!」


沈黙を破ったのは重春の怒鳴り声だった。


その怒鳴り声で麦は体をビクつかせた。


「また、報酬を要求しなかったな!!なにタダ働きしとるんじゃ!!毎月、毎月、家賃が足りとらんのじゃぞ!」


重春は手に持つ杖を竹刀の様に持ち、杖を麦に叩き付けた。


麦は杖の攻撃から自身を守る為に体を丸くして、必死で重春が納得する様に口を動かした。


「待って、おやっさん。これには訳があってさ…」


「訳!?なんじゃ、その訳って?」


麦に杖を叩き付けることをやめて、重春は麦の話に耳を傾けた。


「うん、いや……子どもが車のおもちゃを大切そうにしてたからさ……そのぉ~…なんかお金を要求しにくくて…」


厳密に言えば麦は先ほどの親子から修復代を要求などしていない。


むしろ、修復代を支払おうとした母親から支払を拒んだ。


だが、この状況でそれを言えば重春からどんな仕打ちを受けるかわからない。


その為、麦は若干の嘘をついた。


それも嘘がバレたとしても問題にならない程度に。


「なるほど。子どものぉ……」


「うん、うん」


目を瞑り、納得した様に重春が頷く姿を見た麦は胸に手を置いて、安心感を感じた。


どうにかしのげた。


麦の心には重春の必要以上の暴力から身を守れた安心感と油断が生まれていた。


そんな麦を知ってか、重春は頷いた後にまた目を鋭く尖らせて麦を睨み付けた。


「じゃが、これは仕事じゃ」


「ふぇ!?……」


あくまでも修復屋の売り上げを第一に考え、家賃を欲している重春は麦に厳しい一言を放った。


その言葉に麦は思わず、おかしな声を出して動揺した。


「コムギよ、お前さんが修復屋をやってどれぐらい経つ?」


重春は麦を避けて、店内に入るとカウンターの椅子に腰を下ろした。


「えーと……4年ぐらいかな?」


麦は首を傾げて、修復屋が開業した時のことを思い出しながら重春の問いに答えた。


重春は4年という月日を思い出すとため息を溢した。


「ならば、お前さんがこの4年で家賃をしっかりと払ったのは何回か覚えとるか?」


麦はその重春の問いに口を閉ざした。


どうしても、それは思い出せなかったからだ。


それは無理もないことである。


なぜなら、1度もまともに家賃を払ったことがないからだ。


麦の額には大量の汗が滲む。


「思い出せんのなら……。さっさとさっきのお客さんを掴ませて、報酬を貰って来い!!」


怒鳴りながら、杖を振り回してこちらに向かってくる重春から逃げるように麦は勢い良く店を出て、逃げた。


修復屋を出てしばらく走り、背後から重春の気配を感じなくなった所で麦は足を止めた。


「はぁ…はぁ…はぁ…。まったく、おやっさんは家賃のことしか言わないなぁ。さっきのお客さんなんて、見つかる訳ないじゃん」


そうボヤキながら、麦は走って疲労した体を揺らしながらゆっくりと歩き始めた。


蜜柑(みかん)町。


それが麦が住む町である。


この町が都会か田舎と聞かれればその間にあたるだろう。


町の近くに自然が溢れ、町の中心は住宅地や沢山の店が溢れていることからそう表現できる。


まさに、自然と人工が融合した町なのかも知れない。


「さて、このまま店に帰ってもおやっさんにグチグチ言われるだけだし、日が落ちるまで釣りでもするか」


フラフラと歩きながら河原へとやって来た麦は橋の下の茂みに隠してある、竹で作られたボロい釣竿を取り出すと餌を付けずに川へと竿を振った。


「よし、マグロでも釣ってやるか。今日はマグロのステーキだ!」


舌をペロペロとさせながら河原で麦は釣りを始めたが、当然ながら河原で(まぐろ)を釣ることはできない…。

次回の更新は5月7日(月)!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

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