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16話 怒りの拳。

「おやっさん、これは違うんだ」


麦は声をあげると同時に店に背を向けて歩く蛍と舞火と重春を呼び止めた。


麦に声を掛けられた3人はその場で足を止めるとゆっくりと修復屋の扉を開けて顔を出す麦を見た。


麦の額からは大量の汗が流れている。


果たして、この汗は何を意味してるのか。


重春は麦の額の汗を目にしてコムギに祝いの言葉を掛けなければならい、と思った。


蛍は麦の額の汗を目にしてラブラブのところ、すみませんでした、と思った。


「いくら、恋人だからって……店の中で恋人さんと抱き合うなんてハレンチです!最低です!」


蛍と重春さん今にも吐き出しそうな思いをグッと飲み込んだが、舞火は自分の気持ちを抑えることができなかった。


瞳に貯まった涙が舞火の心を表しているようだ。


そうやって、涙ぐむ舞火を見た麦は両手を上下左右に動かして焦る仕草を見せた。


どんな、物も治すことができる力を持っている麦でも舞火の想いはわからない。


「えっ!?ちょっと、待って!あの人は恋人じゃないんよ」


麦には何の悪気もなかった。


むしろ、真実を話して蛍と舞火と重春の3人を納得させるように努めた。


だが、その行為は舞火の心の傷に塩を塗るようなものであった。


「恋人じゃないって……誰とでも抱き合うんですか!?」


舞火はそう叫び声をあげると涙が貯まった瞳で力強く麦を睨み付けた。


今さら舞火に何を言っても無駄なのだろう。


舞火の中で麦は「恩人」であったが、今の舞火には麦はただの「軽い男」にしかなっていない。


「まぁ~…待ちなさい」


興奮する舞火に手を伸ばしたのは重春だった。


麦と重春は普段は喧嘩ばかりで周りから見たら仲が悪い、と思われているかもしれないが、実際はそうではない。


重春は今まで麦が行ってきたことを知っている。


だから、重春にはわかるのだ。


麦が簡単に女性に腰を振る男ではない、ことを。


「違うと言うのなら、ワシ達にわかるように説明せんか」


重春はゆっくりと歩いて麦に近づくと麦の肩を軽く叩いて見せて、修復屋の中へと入っていった。


蛍と舞火にとってはそれは根拠のない自信であった。


なぜ、麦の言うことを簡単に信じられるのか。


それが蛍と舞火の中にはあったが、その根拠のない自信の根拠は麦を見ていれば十分に理解することができる。


黒き輝きを放つ麦の瞳。


それを見れば麦に何か特別な事情があることがわかるのだ。


「すみませんでした……」


「いや、かまわんよ」


舞火は麦に頭を下げると重春の次に肩を落として修復屋の中へと足を運んだ。


「ホタルちゃんも入るだろ?」


修復屋の前で1人残された蛍に麦は手招きをした。


舞火ほどではないが蛍も心に傷を負ったのは確かである。


だが、それは口にできない。


それを口にすることがあまりにも恥ずかしく、胸が苦しくなるからだ。


だから、蛍は拳を強く握り締めて麦のすぐ横の壁に拳を繰り出した。


「え……」


それはあまりにも凶器的で強烈な一撃であった。


蛍の拳を食らった壁は大きく叫び声をあげて、破片を周囲に撒き散らしながら、大きくへこんだ。


麦は今、自分の目の前にいるのが女子高生だとは思えなかった。


熊だとかゴリラだとか、そう言った強大な力を持つ動物が目の前にいると思い鳥肌を立てた。


「あ…あの……ホタルちゃん?」


「何ですか?」


蛍は満面の笑みを作って麦を見つめた。


その時、麦はこの上ない恐怖を感じた。


恐らく、麦はこれほど恐怖を感じる笑みを見るのは後にも先にもないだろう。


「なんか、怒ってる?」


「いえいえ、怒ってないですよ。早く、店の中にいる女性との関係を説明して下さい」


「…はい」


麦は蛍に青い顔をして頷くと蛍の後に続くように店の中へと入った。


麦が蛍に怯える中、店の中に入ると蛍も舞火も重春も真剣な顔をして女性の目の前に座っていた。


それはまるで、たちの悪い圧迫面接のようである。


「さぁ、コムギ。そこに座って説明してもらおうかのぉ」


重春はテーブルを叩いて麦に女性の隣の席に座るように視線で訴えた。


麦はまるで、信じられていないようであった。


重春が素早く店の中に足を運んだ時、麦は心の底から喜びを感じていた。


それは信頼されているだとか、信じてくれている、などの感情からきているものである。


だが、今、店に流れている空気はどうだろうか。


重く、苦しい空気が店内に流れていて呼吸をするのも苦しいほどである。


舞火も麦に謝罪の言葉を口にした上には目を尖らせている。


蛍は笑みを浮かべて拳を作っている。


「あぁ…わかったよ。落ち着いて聞いてほしい」


麦は今にも動き出しそうな3人に釘を刺して3人の目の前に座った。


麦が席に座ったことで高まる緊張感。


そんな緊張感をぶち壊したのは美しき女性だった。


「私のせいで誤解を招いてしまってすみません。実は今晩だけ、ここへ泊めて頂くことになりました」


その説明は火に油である。


蛍と舞火と重春の3人の鋭い視線を感じた麦は鳥肌を立てることしかできなかった。


一方の女性のほうは目を丸くしている…。

次回の更新は6月26日(火)!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→蜜柑高校1年1組。父親を探している。

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

謎の女→修復屋に泊まることになったが…

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