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15話 スキャンダル。

テーブルを間に強く抱き締め合う麦と謎の女性。


まさに、これはスキャンダルである。


修復屋の扉を開けた蛍と舞火は目を丸くさせて、顔を青くさせた。


来てはいけないタイミングで来てしまった。


そう思った蛍と舞火はそのまま、ゆっくりと扉を閉めようとしたが、扉が開いた時に鳴ったベルに麦は気づいて首を回した。


「あっ、ホタルちゃん!これは違うんよ……」


「すみません!!」


麦は女性に抱き締められながら、蛍と舞火に手を伸ばしてここまでの経緯を語ろうとしたが、それを麦が語る前に蛍は麦に頭を下げた。


あまりの蛍の勢いに麦は言葉を失って、固まったしまった。


そして、その静止時間が蛍と舞火に逃げる隙を作ってしまった。


「舞火、行こう」


「うん……」


蛍に声を掛けられた舞火は露骨に悲しそうな顔をしていた。


そう、それは『失恋』を意味する。


蛍も舞火も麦には恋人がいない、と思っていた。


だが、テーブルを間に抱き合う麦と女性の姿を見た人はどう思うだろうか。


きっと、恋人だと思うに違いないだろう。


「この間はありがとうございました!!」


舞火は感謝を言葉に乗せると言うよりは、怒りや悲しみを言葉にのせていた。


それはあまりにも悲しく、痛いものである。


蛍はそう叫んだ舞火の肩に手を伸ばすと舞火を支えるように店を出た。


麦には何が起こったのか全くわからなかった。


一瞬、見えた舞火の涙に麦は体を動かしたが、女性を振りほどくことはできない。


それほどに強く、きつく抱き締められているのだ。


「待って、ホタルちゃん、マイカちゃん」


麦が2人の名前を口にした時にはもう、2人の姿は店にはなかった。


「ちょっと、ごめん」


麦は強く、きつく抱き締められながらもそれを再度、振りほどこうと体を動かしたが、麦は解放されない。


「どこに行くんですか?別にいいじゃないですか」


「ダメだよ。大切な人達なんよ」


麦がそうやって必死で体を動かす中、蛍は心に傷を負った舞火を連れて店から距離を置こうとしていた。


徐々に店に離れていく蛍と舞火。


きっと、この2人が修復屋へ来ることはないだろう。


それを思わせるほどの衝撃なのである。


ゆっくりと確実に店から離れていく2人にある男が声を掛けた。


「水野さん?どうしたんじゃ?」


それはスーツを着こなす重春だった。


重春はこの日、町内会の集まりに参加していた為に修復屋へはいなかった。


そして、この帰りに舞火を支えながら歩いている蛍を見つけたのだ。


「重春さん……。あっ、この子は前に話した私の友達の春下 舞火です」


蛍に舞火を紹介された重春はお洒落な帽子を頭から取ると舞火に軽く頭を下げた。


「こりゃ、どうも。修復屋のオーナーをやっております、半 重春という者です」


丁寧に挨拶をした重春を見た舞火は蛍から離れて、瞳から僅かに流れる涙を拭いて重春を見つめた。


「春下…舞火です……」


これはただ事ではない。


舞火の涙を流す姿を見た重春をそう感じると蛍と舞火に鋭い視線を向けた。


しかし、ここでいけなかったのは麦の力が必要である、と判断したことだ。


「春下さん、今すぐ修復屋に来なさい。何か痛みを抱えているようじゃからな」


重春は舞火に首を縦に振る隙も、横に振る隙も与えることなく舞火の手を引いて修復屋へと向かった。


一体、何が起きたのか。


悲しみと心の痛みで混乱している舞火は重春にどこへ連れていかれるか理解することができなかった。


一方の蛍は重春が修復屋へ向かっていることをしっかりと理解し、額に汗を滲ませた。


これから、重春が修復屋へ行けば確実に場は荒れる。


それを感じた蛍は必死で重春の足を止めようと声を掛けるが、重春は足を止めようとしない。


「重春さん、今は店に行かないほうがいいと思いますよ!」


「どうせ、コムギの奴がサボっとるのじゃろ。そんなことはわかっとるわ!戻って葛を入れてやるわい!」


「いや……そういうことじゃなくて……」


この時、蛍は思った。


自分では重春の足を止めることはできない、と。


そして、それと同時に修復屋が修羅場になることを悟った。


徐々に修復屋へと近づいていく蛍と舞火と重春の3人。


それは地獄への歩みであることは確実である。


蛍はその後も重春の足を止める努力をしたが当然、重春の足は止まることはなく、あっという間に修復屋の目の前までやって来た。


「コムギ!サボっとる場合じゃ……」


重春が修復屋の扉を勢い良く開けたその先に待っていたのは先ほど、蛍と舞火が見た光景と同じものだった。


テーブルを間にして抱き合う麦と女性。


いや、蛍と舞火からすればさっきよりも密着し生々しく抱き合っている様に感じられた。


「おやっさん!?良かった、相談が……」


麦は店へとやって来た重春に手を伸ばしたが、重春は怒鳴り声をあげることなく視線を落とした。


重春も蛍と舞火と同じ事を感じたのだろう。


重春は一切、麦と視線を合わせることなく修復屋の扉を閉めた。


「えっ!?おやっさん!?ちょっと!」


その、麦の叫び声が重春に届くことはなかった…。

次回の更新は6月22日(金)です!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→蜜柑高校1年1組。父親を探している。

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

謎の女→修復屋に泊まることになったが…

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