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13話 恋のスタートライン。

蜜柑高校が放課後を知らせるチャイムを鳴らしたと同時にそれよりも、うるさい声で舞火は蛍の机に手をついた。


「麦さんにお礼を言いたい!」


「えっ……あっ…うん」


あまりの舞火の勢いに蛍は帰る支度をする手を止めて、苦笑いを浮かべた。


蛍が困るほど舞火の勢いは激しく、目は本気である。


「だから、蛍。麦さんが働いてる修復屋まで案内してほしいの!」


舞火は蛍の目の前で両手を合わせて頭を下げた。


麦が舞火の怪我を治してから、舞火の母親は病院に通う様になった。


それは舞火を本当の意味で大切にする、という覚悟の現れであり、更正するチャンスでもあるだろう。


そのおかげで、舞火が暴力を受けることはなくなったし、舞火は明るい笑顔を浮かべる様になった。


だからと言って、舞火の心の傷が治った訳ではない。


それでも、痛みが少しずつ溶けてきているのは間違いない。


「うん。それは良いけど…。そんなに意気込む必要はないんじゃないの?」


「ううん、麦さんはあたしの命恩人だもん。だから、意気込むのは当たり前だよ。それに……」


さっきまで、勢い良く口を開いていた舞火は突然、口を閉ざしてモジモジとし始めた。


頬は赤くなり、今もにも爆発しそうなぐらいに恥ずかしそうにしている。


そんな舞火を見た蛍は心が激しく揺さぶられた。


「それに…?」


「…麦さんのことが気になっちゃって」


それは恋のスタートラインに舞火が立った、ということだろう。


少なからず、舞火の様子と言葉から蛍はそれを感じた。


そして、胸のざわつきを誤魔化すように帰る支度を再開した。


「なら、早く行かないとダメだね。店が閉まっちゃうかも知れないし」


「うん、そうだね。店が閉まっちゃったらお礼が言えないしね」


「そうだね」


不思議な胸のざわつきのせいで蛍は舞火の目を見ることができなかった。


なぜ、こんなにも焦燥感に襲われるのか。


その答えを考えないように素早く、帰る支度を終わらせた蛍は舞火の手を引っ張って教室を出た。


「早く、行こう」


「ちょっと…蛍!?」


蛍に引きずられるように舞火は教室を出たが、舞火の胸には確かなときめきがあった。


正直、舞火は麦のことは知らない。


不思議な力を持っていることしか知らない。


だが、それでも麦の力を(じか)に感じた舞火だからこそ、麦の底無しの優しさを理解することができた。


しかし、だから麦に好意を向けるようになったのか、と言われれば舞火は首を横に振るだろう。


それだけではないのだ。


理屈だけでは愛は決して生まれることはない。


「速いよ、蛍!」


「あっ…ごめん……」


学校を出て足早な蛍に引っ張られていた舞火は商店街に差し掛かろうとした時、堪らず声をあげた。


舞火の苦しみを感じさせる声を耳にした蛍は足を止めて、舞火の腕を解放すると視線を落として舞火に謝った。


「確かに早く店に行くことに賛成したけど、そんなに焦らなくても大丈夫じゃないかな?」


「舞火の言うとおりだね…。本当にごめん」


「いや、もぅ、いいよ。あっ、そう言えば『家出女の噂』知ってる?」


舞火は罪悪感を感じて視線を落とす蛍の気分を変える為に蛍の好奇心を刺激する様な話題を出した。


「家出女?」


初めて聞く噂話に蛍は目を丸くして首を傾げた。


そんな蛍に舞火は人差し指を立てて『家出女の噂』を話し始めた。


「うん。なんか、最近、ここら辺で日が暮れた頃になると長く綺麗な黒髪の女性が家にやって来て家に泊めて下さいって、頼みに来るらしの。それで、泊めてくれた宿泊費として自分の体を差し出すらしいの」


「へぇー…」


舞火の話を聞く限り、何もおかしい所はない。


細かく言えば、このご時世に女性が1人で誰かの家に泊まろうとするのは不自然ではあるが、援交などの行為があることを考えるとそれも自然なことなのかも知れない。


だから、蛍は興味がなさそうに首を縦に振って見せた。


「でもね、蛍。ここからがおかしいの」


「おかしい?」


「うん」


急に舞火が顔色を変えるものだから、蛍もその舞火の雰囲気にのまれ、思わず生唾を飲み込んだ。


「体を差し出すって言ったけど、実際に行為に至ったことはないらしいの!」


「それって……」


「うん、泊めてくれた人に快楽を与えるだけなんだよ。あっ、ちなみに皆、男の人がターゲットにされているみたいだよ」


蛍にはその行動の意味がわからなかった。


ただの性的快楽を過剰に好む女性ならば、最後まで行為を行うだろう。


それとも、本当に泊めてくれたお礼としてそう言った行動を取っているのか。


蛍は様々なことを頭の中で回すが、蛍には理解できないことが多すぎた為にやがて、ため息を溢した。


「蛍、どうしたの?」


「いや、私には理解できないなぁ、って思ってさ」


「そんなに落ち込む必要ないよ。あたしにも理解できないから。……それよりも、麦さんって1人暮らしかな?」


その舞火の疑問に口を開いた舞火自身も、それを聞いた蛍も顔を青くした。


そう、ターゲットに麦も入っているのだ。


蛍と舞火は目を合わせると商店街を走った…。

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→蜜柑高校1年1組。父親を探している。

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

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