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12話 親子。

相変わらずの優しい表情を麦はしている。


その側で膝をつく舞火の母親を見た蛍は確信することができた。


間違いなく全身を燃やした舞火の母親を救ったのは麦なのだ、と。


舞火の母親の綺麗な服装と皮膚を見ればそれはわかることである。


「花形さん!?なんでここに……?」


麦のおかげで大惨事は避けることができたが、蛍の疑問は麦の行動であった。


昨日、修復屋で舞火のことを話した時は舞火を連れて来ないと痣は治せない、などのことを言ってたのにも関わらず今、麦は蛍の目の前に立っている。


蛍にとっては腑に落ちない言動である。


「まぁ~……そのぉ~…気にってさ……はっはは」


「来てくれるなら、最初からそう言ってくださいよ!」


麦のフワフワとした言葉に蛍は目を尖らせて麦を睨み付けた。


「ま、でも、おやっさんには内緒で来てるから、オレがここに来たことは秘密で頼むよ」


蛍に睨み付けられた麦は難しい顔をして、蛍に手を合わせ頼み込んだ。


そんな麦を見た蛍はため息を溢して首を縦に振った。


正直、昨日と言っていることとやっていることが麦は違うが助かった、というのが蛍の本音であり、麦の姿を見たときに安心感を覚えたのも本音である。


そうして、少し緊張感から救われた蛍だったが蛍の横にいる舞火は首を傾げていた。


当然である。


さっきまで、全身を炎で焼かれていた母親が廊下を出た瞬間、綺麗な姿で膝をついているのだから。


その上に謎の男もいるのだから、舞火がパニックになるのは仕方がないことなのだ。


「おっ、ごめんな。オレは修復屋の花形 麦です」


目を丸くして首を傾げている舞火に気づいた麦は舞火に笑みを溢して自己紹介するとゆっくりと舞火へと近づいた。


「あたしは春下 舞火です……。な、なんですか…?」


こちらへと近づいてくる麦を警戒した舞火は蛍の腕を強く握った。


「あの人は大丈夫だよ」


腕を握られた蛍はそう言うと舞火の腕を握った。


その蛍の手は温かく、柔らかい雰囲気に包まれている。


あの人は大丈夫。


その一言だけで、舞火は自然とリラックスすることができた。


蛍が麦を信用していることを感じることができたからだ。


「うん…」


蛍に頷いた舞火は真っ直ぐに麦を見つめた。


舞火に見つめられた麦は舞火の目の前まで来ると自身の手を舞火の肩にのせた。


すると、舞火の肌に刻まれていた傷が消えていった。


それはとても、温かい光であった。


麦の手が舞火の肩に触れた瞬間、舞火の体には言葉にはできない温かさが立ち込めた。


それは愛情なのかも知れない。


それは優しさなのかも知れない。


何にしろ、それは舞火が欲しかったものだった。


今まで、暴力を母親の愛と感じていた舞火にとって、これ以上、甘いものないのかも知れない。


麦に傷を治してもらった舞火は母親と同じように床に膝をついた。


「ありがとうございます……。すごく、温かかったです。あなたの優しさを感じました……」


大粒の涙を流す舞火に麦は何も言わず、背を向けると次は母親の所へと向かっていった。


そして、膝をついて母親の両肩に両手を置くと麦は真っ直ぐに母親を見つめた。


「ああぁぁぁ……」


麦に見つめられた舞火の母親は力のない声をあげた。


落ち着いた、と言うよりは無力化された様である。


「あの子の母親なんだろ?なら、泣いているあの子を思い切り、抱き締めてあげないと。そうじゃないと本当に親子じゃなくなっちゃうぞ」


それ以上もそれ以下もない。


自分の子を愛情いっぱいに抱き締められなくなった時、それは本当の意味で親権がなくなる時である。


今、思い切り舞火を抱き締めなければ春下家は終わりだろう。


麦はそれを理解しているからこそ、母親の肩を押したのだ。


だが、その肩を押す手は弱い。


あくまでも、子どものもとへは親が自分の足と意思で向かわなければならない。


そう思ったからこそ、麦は母親にそれだけを口にして背を向けた。


「舞火……。舞火!」


「お母さん……」


麦が母親に背を向けて家から姿を消した瞬間、舞火の母親は立ち上がり舞火のもとへ走ると舞火を強く抱き締めた。


2人の目には大粒の涙が光っている。


しかし、これで解決と言えばそうではないのだろう。


これから、舞火の母親は暴力に負けない訓練を受ける必要があるだろうし、舞火もボロボロになった心と体を回復させる必要があるだろう。


「舞火……」


きっと、春下家は元通りになる。


蛍のその想いは確信ではなく、願いなのかも知れない。


だが、それで良いのだ。


蛍は何も言わずに涙を流す2人を置いて春下家から姿を消した。


「花形さん?」


「おぉ、水野さん。何とかなったみたいだな」


春下家の前で麦はぐったりとして腰を落としていた。


その姿は決して、カッコいいものではないだろう。


しかし、蛍には不思議と輝いて見えた。


「水野さんじゃなくて、蛍で良いですよ」


「……わかった。そういうことなら、オレも麦でかまわんよ」


麦と蛍は目を合わせるとお互いに笑みを溢した。


そして、麦は重たい腰をあげて蛍に手を振った。


「じゃ、また何かあったら店に来てくれ。ホタルちゃん」


「はい。何かあったら行かせて頂きます。ムギさん」


そうして、蛍に背を向けて麦は道を歩い行った。


そんな麦を蛍は頬を赤くして見つめたのだった…。

次回の更新は6月16日(土)!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→蜜柑高校1年1組。父親を探している。

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

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