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105話 温かい人。

ポロポロと落ちる涙の粒を麦は理解することができなかった。


しかし、女性の白く美しい肌からのびる細い腕や痩せこけた頬は健康的ではない、と感じていた。


なぜ、ここにいるのか。


ここで、なにをやっているのか。


不健康的な女性を見た麦は色々なことを疑問を女性へぶつけたかったが、胸が痛かった。


女性の瞳から1粒、また1粒と涙が流れる度に麦の心は締め付けられた。


はじめて出会ったのにも関わらず、その涙に同情してしまう自分がいるのだ。


「す…すみません!奴隷だなんて……。失礼でした」


麦はその場で深く頭を深く下げると女性は頬を赤くして、麦をジッと見つめた。


その瞳からはまだ、ポツポツと涙が流れてはいるがその瞳の奥には悲しみはないようであった。


悲しみとは違う、なにか。


それが女性の瞳の奥に感じた麦は無意識的に口を開いた。


「どこかでお会いしたこと、ありますか?」


なにも言わなくても、優しい空気が流れる。


なんとなく落ち着く。


そんな感覚を女性から麦は感じ、それが懐かしく感じられたのだ。


女性は麦の問い掛けに対して、目をゴシゴシと擦って軽く笑みを溢して見せた。


その笑みは麦にとってはとても新鮮であり、胸になにか撃ち抜かれたような感覚に襲われた。


いきなり、暴れだした心と言わんばかりの勢いである。


麦ははじめてだった。


こんなにも純粋に好意ある笑みを向けられたのは。


だから、どんな反応をすれば良いのかわからなかった。


「え…いや……ごめんなさい」


「謝らなくて良いのよ。そうね、私とあなたは会ったことがあるかも知れないわね」


くすりと笑った顔が麦にまた、はじめての感覚を覚えさせる。


なんとも不思議な感覚であり、魅力的。


今まで、出会ってきた人の中で最も“温かい人”であると麦は確信をしていた。


「で……、あなたはここでなにを……?」


聞くべきではない。


麦は女性の涙を見た時にそれをしっかりと理解していたが、疑問を投げ掛けてしまった。


それは麦の心に深く根付いている復讐心がそうさせているのかも知れない。


麦が女性に対して“奴隷”という言葉を使ったのも復讐心が関係している。


鶴巻の奴隷ならば、それは立派なスキャンダルである。


それだけで、鶴巻を滅ぼせるのかも知れない。


だが、時折、女性が見せる悲しそうな顔が麦の胸をざわつかせる。


それはやってはいけないことです。


と、言われているようであり、麦の心に迷いを生まれさせる。


なにが正しいのか、なにが悪いのか。


それを考えさせられる前に麦は早く、言葉が欲しかった。


そんな麦をあざ笑うかのように女性は少し、時間をおいて息を飲んだ。


「私はここで療養中なのよ」


「療養中ですか……」


「残念?」


女性のその言葉は麦の心を見透かしているようであり、麦は女性と目を合わせることができなかった。


肌は白く、細い手足は健康的ではないのかも知れない。


しかし、その黒い瞳は凛としていて芯の強さを感じる。


この人は今まで、どんな人生を送ってきたのだろうか。


どんな道を通って、この鶴巻家で療養することになったのか。


麦の頭の中では色々なことが飛び交っていたが、その先に現れた思いは1つ。


この人を救ってあげたい、という思いだった。


出会って、数分しか経っていないが麦の心は目の前の女性に奪われてしまっているのだ。


それは恋愛感情とはまた、違ったもの。


言葉では言い表すことができないような愛情であったり、感謝、敬意と似ているのかも知れない。


「いいえ。それより、どこが悪いのですか?」


女性は僅かに手首から見える赤い発疹を隠すように腕を組んだ。


麦にその赤い発疹が見えていなかった訳ではない。


だが、それを口にするとこの関係が一瞬にして崩れ落ちてしまうと思った。


それに麦には現状、力がない。


鶴巻家の人間ではあるものの、麦の立場はその中ではない。


その為に最新の医療技術の提供ができないのが現状である。


「そんなに大したことはないのよ」


「そうですか。……質問ばかりで申し訳ないのですが…父はあなたのことを知っているんでしょうか?」


そこが最も肝心なところ。


鶴巻 賢次が女性のことを知っているのか、いないのか。


それ次第では最新の医療技術提供の交渉ができる。


そう麦は考え、僅かな希望を持っていたがそれは叶わないものであった。


「えぇ……。あの人は私のことを知っているわよ」


「……なぜですか?」


「え……?」


「なぜ、父はあなたのことを知っていてこんな所に?そして、なぜ、あなたもなんの要求もしないんですか?この部屋を見ればあなたが父になにも要求していないことがわかります。……本当に療養中なんですか!ここは…あまりにも環境が悪いじゃないですか!」


溢れる怒りは鶴巻に向けられている。


「いいのよ…。私は……」


そんな麦をなだめるように女性は一言、ポツリと言葉を落とした…。

次回の更新は5月2日(木)です!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→??

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

月並 零花→病気が完治。

嵐山 轟太→学校の問題児?

嵐山 雪子→轟太の6つ下の妹。

青野 温子→ゴミ屋敷の住人。

青野 槙子→ゴミ屋敷の幽霊。

剣持 境矢→聖人?

謎の女?→浄化。

鶴巻 大也→鶴巻グループの人間。

犬川→手紙の主。

水野 空→??

槍の男→麦の命を狙う者?

鶴巻 栞菜→鶴巻 大也の妹。

鶴巻 賢次→鶴巻グループの社長。

謎の女性→地下にいた女性?

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