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104話 邂逅。

瞳から視界を奪うほどの目映い光。


それは麦に希望の光を照らしているかのように感じられるが、扉の向こうにあったのはそれとはかけ離れたものであった。


扉の向こうに広がる部屋は石の床に石の壁で覆われていて、味気ない部屋になってる。


「なんだ…この部屋は……」


ただの物置のような部屋に麦は疑問を感じると同時に深い失望感にかられた。


きっと、この部屋には鶴巻の弱みがある。


そんな麦の期待を部屋は綺麗に裏切ったのだ。


麦にとって、これほどまでにテンションを下げられることはない。


深く、冷たい海底を泳いでもその前には何もなく、得られたのは痛みであった。


心から求めた“蜘蛛の糸“。


その糸はとても丈夫で安心感を与えてくれるが、この糸の先にあったのは巧妙なトラップだった。


人に期待を与えて、何も得られないことほど痛みを覚えることはないのかも知れない。


大きな失望感から得られるショックはやがて、麦の心に怒りの波を立たせた。


「くっそ!」


石の壁を見た麦は声をあげて、拳を壁に叩きつけた。


叩かれた石の壁は丈夫で、麦の拳を傷つける。


「期待させやがって。なにもないじゃないか!」


僅かながら、拳から流れる血は石の床を汚した。


そんな汚れや痛みに気づかないほど、今の麦は穏やかではなかった。


心の中で立った怒りの波は大きく渦を巻き、麦に膝をつかせた。


結局のところ、誰も自分を助けてはくれないのだ。


それを確信した瞬間でもあったのかも知れない。


それほどの絶望なのだ。


些細なことで崩れ落ちてしまうほど、麦の心はすでにいっぱいになっていたのだ。


「……思い返せば…ずっと、今まで助けてもらった覚えなんてないじゃないか……ずっと……1人だったじゃないか……」


額を手でおさえてその場で踞る麦の目に映っているものは石の床ではない。


思い出させる数々の家族との思い出。


しかし、麦の瞳に映る思い出を“家族の思い出”というにはあまりにも冷たすぎる。


なぜなら、麦はずっと1人だったから。


父や腹を痛めた母親でさえ、麦に対して愛情を与えることはなかったのだから。


どんな罪を麦が背負っているのか。


生まれながらにして“罪人”扱いされている麦が温かい光に包まれることはないのだ。


「ダメだ…」


麦はそう一言、呟いて目を閉じた。


なぜ、自分は腰を抜かしたのか麦にもわからなかった。


ただ、もう立てないと心底、感じかことは確かである。


長い道を歩いていくのに大切なことは転んでも立ち上がる力である。


長い道を歩いていれば、色々な障害にぶつかる。


そして、人は皆、転ぶのだ。


また、進むには立ち上がる必要があり、その行為には大きな力が必要になる。


そして、もう、麦にはそんな力は残っていない。


もう、これから先に続く長い道を歩けない。


「この家は広い。きっと、オレがここにいても誰にも見つけられない」


麦は冷たい石の床に頬をつけて、瞳を閉じた。


このまま、ここで眠れば楽になれるだろう。


もう、長い道を進まなくても良いだろう。


麦はもう、“楽”になることを望んだ。


ゆっくりと光を失っていく麦の瞳は希望までも薄くなっていく。


「誰かいるのですか?」


その声はとても透き通っていて、辺りの空気を震わせた。


しかし、その震えは雑なものではなく、美しいものである。


声は自然と麦の耳の中に自然と流れ込んで来た。


そして、それは麦を覚醒させるのに十分であった。


「はっ…!今……声が……」


驚きのあまり慌てて顔をあげる麦の目に映り来んだのはカーテンがかかったベッドであった。


それは部屋の薄暗い隅に設置されており、その存在を認識するのには注意が必要だろう。


「もしかして、あそこに 人が……?」


失ったはずの黒い希望がギラリと輝いた。


麦の中で折れたはずの復讐心はもう1度、麦の心の中でそびえ立つと麦の体を起こさせた。


立ち上がった麦は大きく息を吸って、その足をゆっくりと前へ進め始めた。


コツコツと音を鳴らす足音は真っ直ぐに部屋の隅のベッドへ向かっている。


これはチャンスだ、と言わんばかりの勢いであり、麦の顔は強ばっていた。


緊張と不安、期待と復讐。


あらゆる感情が混ざり合い、複雑な思いを抱えている。


そんな思いから解放されようと麦は必死なのかも知れない。


それだけ、麦は苦しめられているのかも知れない。


ベッドのカーテンに手を掛けた時、麦は確かにその先に人の気配を感じた。


だから、なんの躊躇いもなかった。


「君は……?」


躊躇いもなく開けられたカーテンは音を立てて、ベッドで横になる女性と麦を付き合わせた。


目を丸くする女性に麦は鋭い視線を送り、威嚇した。


「あなたは鶴巻家の奴隷ですか……?」


躊躇いもなく、投げられたその言葉のナイフはベッドで横になる女性の瞳から涙を流させた。


その涙の意味を麦は理解できなかったが、深い後悔に陥った…。

次回の更新は5月1日(水)です!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→??

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

月並 零花→病気が完治。

嵐山 轟太→学校の問題児?

嵐山 雪子→轟太の6つ下の妹。

青野 温子→ゴミ屋敷の住人。

青野 槙子→ゴミ屋敷の幽霊。

剣持 境矢→聖人?

謎の女?→浄化。

鶴巻 大也→鶴巻グループの人間。

犬川→手紙の主。

水野 空→??

槍の男→麦の命を狙う者?

鶴巻 栞菜→鶴巻 大也の妹。

鶴巻 賢次→鶴巻グループの社長。

謎の女性→地下にいた女性?

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