表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/130

100話 鶴の巣。

胸の中にある“どす黒い想い”を気持ちを消化する方法を麦は知らない。


それは昔からその様な環境にいなかったことが関係しているのかも知れない。


厳格な父親と自分を煙たがる母親。


その様な環境では自分の中の気持ちを消化することなど、麦には到底できなかった。


加えて、兄や姉も麦のことを汚点であると思っていた。


実際に口にされたことはないが、兄と姉の麦を見る目は人間を見る目ではない。


獣を見る目でもなく、“ゴミ”を見るような目で麦を見ている。


その為に、家で顔を会わせても兄や姉は嫌な顔をするだけで会話は一切ない。


さらに、“鶴巻の人間”というだけで学校の人間達は麦から距離を置く。


どれだけ、麦に人間性があっても鶴巻がそれを皆無にさせるのだ。


圧倒的な孤独。


これは圧倒的な孤独であり、鶴巻 麦という人間には居場所がないのだ。


「はぁ……」


麦が学校からの帰り道でもう何回、ため息をついただろうか。


そして、どれだけの胃痛に苦しめられただろうか。


本来、リラックスするべき場所である自宅が一番、身を削る場所になってしまっている。


麦は少し進む度に手に握った成績表を目に通す。


その瞳にはこの成績は間違いではないのか、という願いが込められているが現実は変わらない。


成績表に目を通す度に感じるのは“無力感”であり、圧倒的な絶望。


鶴巻家の誰かに怒られる以上に失望されることは何よりも苦痛であり、自由が利かなくなる。


麦の声があの家で響かなくなるのだ。


麦が学校を出て、成績表がグシャグシャになった頃、麦の前に大きな館が現れた。


いや、あまりの大きさに城や館という表現が好ましく、これ以上の表現はできないだろう。


大きな扉から見える青い芝は広い敷地に広がっており、その辺りではドーベルマンが唸り声をあげている。


麦は何の躊躇いもなく、大きな扉を通るとドーベルマンに声をかけた。


「オッス、帰ってきたよ」


犬はその家の中での主を認識し、ランク付けをしている。


だからこそ、ドーベルマンは麦に声を掛けられても顔を横に向けて、麦に敵意を表した。


そんなことは麦にもわかっている。


いつもいつも、ドーベルマンに声を掛けるがドーベルマンが麦に挨拶を返したことはない。


ではなぜ、麦がドーベルマンに声を掛けたのか。


それはドーベルマンとの距離を縮めたい、という思いがそこにある訳ではなく、ただの気休めなのだ。


この家で居場所がない自分にも愛想を振り撒いてくれる誰かが、欲しかったのだ。


「……また無視か…」


麦はドーベルマンに上げた手を下ろして、その手をポケットに隠した。


とても、惨めな自分を隠すようなその行為は麦の心を追い詰めた。


刻々と迫る自宅への入り口。


庭を抜けた先に現れた大きな扉は麦が近づくとゆっくりと開いた。


実に重そうに開いたその扉から顔を見せたのは数十名の使用人であった。


使用人達は麦を視界に入れるなり、声と姿勢を合わせて綺麗なお辞儀を行った。


「お帰りなさいませ」


使用人の男性達はオールバックに黒スーツであり、使用人の女性達はメイド服に身を包んでいる。


男女共に顔立ちは整い、スタイルも申し分ない。


これは完璧を求める鶴巻家が厳密に選抜を行った結果であることは間違い。


しかし、その様は麦にとっては気分が良いものではなかった。


そんな厳密な選抜が血の繋がった子にも行われているからである。


その選抜は使用人の選抜とはレベルが違う。


圧倒的に厳しく、そこには鶴巻 賢次のプライドが掛かっている。


「麦様、今日もお疲れ様でございます。父上様の所へ行かれますか?」


使用人の中でも一番の古株の白い髭を生やした使用人が麦の鞄を受け取ると同時に皮肉を口にした。


いや、この発言は皮肉ではなく純粋な心遣いなのかも知れない。


しかし、今の麦には皮肉にしか聞こえなかった。


成績表を持っていることを知っているからこそ、そう促していると麦には感じられたから。


実際、使用人の中でも才能がない麦に対して愛想が悪い者達もいる。


鶴巻から多額の金をもらっているのにも関わらず、麦に敬意や労いの気持ちを示さない使用人は解雇するべきだろう。


だが、それが麦だから父である鶴巻 賢次は目を瞑っているのだ。


もしも、これが兄や姉だったら解雇は確実だろう。


そういう意味では使用人達は麦に命を助けられているのかも知れない。


「あぁ……。行ってくるよ」


成績表を隠すことはしない。


それは自滅であり、自身の価値をより下げることになる。


麦は使用人に鞄を預けると長い廊下を進んだ。


廊下に敷かれた絨毯や壁に飾られている絵はどれも一流であり、鶴巻の支配力の証である。


金は腐るほどある。


しかし、それでも麦は自身を裕福であると言えなかった。


金があるだけで、何も幸せではないからだ。


麦は針積めた雰囲気を醸し出す部屋の前で立ち止まると、歯を食い縛った…。

次回の更新は4月27日(土)です!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→??

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

月並 零花→病気が完治。

嵐山 轟太→学校の問題児?

嵐山 雪子→轟太の6つ下の妹。

青野 温子→ゴミ屋敷の住人。

青野 槙子→ゴミ屋敷の幽霊。

剣持 境矢→聖人?

謎の女?→浄化。

鶴巻 大也→鶴巻グループの人間。

犬川→手紙の主。

水野 空→??

槍の男→麦の命を狙う者?

鶴巻 栞菜→鶴巻 大也の妹。

鶴巻 賢次→鶴巻グループの社長。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ