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1話 逃げ出した鶴。

新連載!

“~悪魔の恋路~”が連載スタート!

どうぞ、これからもよろしくお願い致します。

──あの時、守れなかった──


──『愛している』なら声に出して欲しかった──


──だから、オレは……──




うるさく鳴り響く目覚まし時計に、カーテンから漏れる光が部屋に朝を伝えている。


「ふぁぁぁ~……なにぃ?もぉ…朝なのか」


花形(はながた) (むぎ)は畳に敷かれた布団から上半身を持ち上げると両腕を天井へと突き上げて背伸びをした。


目は半開きで、だらしない顔をしている。


布団から上半身を持ち上げてもまだ、眠っているのだろう。


「ふぅ……ふぁぁぁ~…」


2回目のあくびをした麦はゆっくりと布団から立ち上がると、フラフラと体を揺らしながら部屋を出た。


部屋を出た麦は洗面所へ行き、だらしない顔を鏡に映すと蛇口をひねり、両手で水を溜めて顔を洗った。


3、4度、顔を洗った麦は横に掛けられていたタオルで顔を拭くとスッキリとした顔を鏡に映した。


「おっし!早くしないとお客さんが来る!」


丸い瞳に少し長い黒髪は麦を幼く見せ、優男にも見せる。


暴力や暴言が似合う男性だとは誰も思わないだろう。


現に麦は争いを好まない平和主義者である。


顔を洗って、しっかりと目を覚ました麦は洗面所から小さなリビングへ移動すると小さな冷蔵庫から栄養ドリンクを手に持った。


「これで今日も頑張るか!」


手に持った栄養ドリンクを朝食代わりにして飲み干すとまた、寝室へと戻り布団を片付け、着替えを始めた。


黒いズボンに背中に大きく『修復屋』と書かれたTシャツに首を通すと麦は優しく笑みを溢した。


修復屋ウィート。


これが花形 麦が働く店であり、花形 麦の居場所である。


「行くか」


優しくそう呟いた麦は修復屋である、1階へと行くために寝室を出て1階へと移動した。


そして、店の扉を開けて扉にぶら下がっている看板を営業中にすると店内の掃除を始めた。


この修復屋は言葉の通り何かを“修復する治す店”である。


修復するものは特に指定されておらず、物の修復から人間関係の修復、時には病気や怪我の完治を求められることもある。


その為、修復屋の仕事は楽ではない。


とても、麦1人ではできないほどの仕事量に感じられるが、そうではない。


それは決して、仕事が大したことはない、という訳ではない。


麦が居ればこの修復屋は営業して行けるほど、麦には“力”があるのだ。


麦が店内の掃除を始めてしばらくした頃、修復屋にベルの音が響いた。


このベルの音は修復屋の扉をお客さんが開けた音である。


「いらっしゃいませ~」


「おはようございます。先日、車のおもちゃの修理を頼んだ者なんですけど……」


上品な女性が店内に入り、麦に頭を下げると女性に手を繋がれた幼い男の子も麦を見て挨拶をした。


「こんちゃわ」


「こら!しっかりと挨拶をしなさい」


馴れ馴れしく麦に手を振って挨拶をした男の子を女性は叱ったが、麦はそんな女性をなだめた。


「いえいえ、大丈夫ですよ。…おはよう。前に言った物は持ってきてくれましたか?」


「はい、これです」


麦は先日、この親子から車のおもちゃの修復を頼まれいた。


その為、ここで女性の鞄から出されるものは現金であってもおかしくはないが女性の鞄から出てきたのは小さなタイヤだった。


麦は女性の手から小さなタイヤを手に取ると膝を曲げて男の子の手に握られた車のおもちゃに手を伸ばした。


「これ……なおる?」


麦に車のおもちゃを取られた男の子は今にも泣きそうな顔で麦を見つめた。


よほど、この車のおもちゃを気に入っているのがその目からハッキリと感じられる。


だがらこそ、麦は自信満々に答えた。


「もちろん、治るよ!オレに任せな」


その麦の言葉を聞いた男の子は満面の笑みを浮かべて不安を顔に出さなくなった。


笑みを溢す男の子に麦は頷くと、手のひらに車のおもちゃと小さなタイヤをのせて、片手を被せておもちゃを隠した。


そして、麦はゆっくりと目を閉じると気を集中させた。


体の中に流れるエネルギーを手に集中させ、おもちゃへと流していく。


エネルギーを受け取ったおもちゃは麦の力を得て、パーツとパーツはひかれあう。


「ほら、治った」


次に麦が手を広げた時には不思議なことにタイヤが取れた車のおもちゃにタイヤが付けられていた。


何の道具も使わず、何の小細工も使わず、車のおもちゃを治して見せた麦に女性は目を丸くして驚いた。


それは無理もないだろう。


「ありがとう!」


「おぅ!また、それで遊びな」


「うん!」


元気良く返事をした男の子とは逆に女性のほうは麦に頭を下げて財布を握っていた。


「ありがとうございます。あの……それで…修理代ですが…」


「いえ、いらないですよ。初回無料キャンペーンです!」


「えっ……宜しいんですか?」


「はい、もちろんです」


胸を張ってそう言う麦に女性はもう1度、深々と頭を下げると男の子の手を引いて修復屋を後にした。


「今日もいい仕事したなぁ~」


麦が仕事への充実感に溺れている時、またすぐに修復屋のベルが鳴った。


そのベルを耳にしてすぐに麦は挨拶をしようと口を開いたが、言葉が出ることはなかった。


麦の前に険しい顔をした老人が現れたからだ…。

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

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