婚約破棄と教育放棄
「マリア!只今をもってお前との婚約を破棄する!お前の数々の悪行にはもう我慢ならぬ!」
本来なら婚約発表をするはずのパーティー会場において、この国の第2王子ブライストは、私こと公爵令嬢マリアに向かってそう言い放った。
ブライストの傍らには、こちらに見下した笑みを向ける侯爵令嬢のカタリーナの姿があった。
私には彼が次に何を言うか、予想がついてしまった。
「そして、このカタリーナを妃に迎えることをここに宣言する!」
ああ、やっぱり。
「……一応、聞かせて頂きたいのですが、私の悪行とはどのようなことなのでしょうか?」
無駄だと思いつつもお決まりの質問をしてみる。
「白を切るつもりか!お前がカタリーナの制服をハサミで切り刻んだり、取り巻き共に無視するよう吹き込んでいたことは周知の事実なのだぞ!」
ああ、やっぱり。
当然、私には全く身に覚えのないことだった。
「そこのカタリーナに聞いたのか知りませんが、私はそのようなことしておりませんわ」
「いつまでとぼけるつもりだ!カタリーナは誰に言うことも出来なくて、意を決して私の元に泣きついてきたのだぞ!」
はぁ、――全くくだらない。
要するにこの男は、証拠もなく、カタリーナの泣き落としを一方的に信じて婚約破棄を言い渡してきたのだ。
何て愚かな男だろう。長年努力してきたが、愛想が尽きたのはこっちの方だ。
「分かりました。婚約破棄を受け入れることにいたします」
「やっと認める気になったか。さあカタリーナ、邪魔者は消え失せた。これより私との婚約の儀を……」
それ以上、私はこの茶番を聞く気にはならなかった。
なぜいつもこうなってしまうのだろう。
私は何も悪くないのに。
カタリーナをお姫様抱っこして立ち去るブライストの姿を見ながら、私は小さく呟いた。
「――――――消えろ」
彼らを含めた、世界の全てが永遠の闇に消える。
本当になぜいつもこうなってしまうのだろう。
長年努力して作成してきたのに。
「ああもう!」
私はヘッドディスプレイを頭から外すと、ベッドに放り投げた。
VR恋愛ゲーム【あなたをクリエット】。さっきまでやっていたゲームの名前だ。
好みのデータを入力するだけで、非常にリアルな、理想の彼氏を作り出し、好みのシチュエーションでデートや結婚イベントを楽しむことができる。
でも、私がやるといつもろくでもない男ばかりが作られ、バッドエンドばかりになるのだ。
その度に私は癇癪を起してデータを削除してしまう。これで通算7回目だ。
「ちょっと麻里子。アンタまたそんなゲームなんかに夢中になって。少しは勉強でもしたらどうなの?」
私の声を聞いてか、母が声をかけてくる。
「うるさい!今イライラしてんだから話しかけないでよ!」
私は八つ当たり混じりに反抗する。
「はいはい、でもそんなものばっかりやってると現実の彼氏も出来ないわよ」
カンに触る母の言葉に、私のイライラは頂点に達した。
「チッ、あんたもゲームみたいに消えちゃえばいいのに」
「なんですって!?」
ドアを閉めようとした母の手が止まる。ふん、好きなだけ怒ればいいわ。
「――――――アンタこそ消えてしまいなさい!!」
私はヘッドディスプレイを頭から外すと、ベッドに放り投げた。
古びたPCから、【ゲームで覚える! 子育てプラクティス】のCD-ROMを取り出す。
やれやれ、これで8回目だわ。子育てって難しいのね。
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