表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/27

入学式前夜


 4月6日。

 離れの居間にかけられたカレンダーを見ると、入学式前日。正確には、入学式前夜。

 膝程までしかない低い机に肘を付きながら、神宮さんに借りた本を読む。ちょうど読み終わったところに、風呂上がりの神宮さんが出てきた。


「む? 読み終わったのか!?」


 目を輝かせているところを見ると、どうやら、本好きへの道を歩み始めているようだ。私の、中学レベルの参考書をうれしそうに読みあさっていたから、知識を得ることに喜びを感じているのかもしれない。

「もちろん。あ、ねぇ、ここのシーンなんだけどね……」

そう言ってページをめくり、お目当てのシーンを探し出す。

「ここ、死んじゃったのかな。それとも、生きてると思う?」

「う~ん。俺は、死んでしまったのでは、と思うのだが……。菅野はどう思う?」

「え~と、死んじゃってるのかもしれないけど、生きてて欲しい。だって、かわいそうすぎるもん。残された方が」

「あぁ、なるほど。そうだな、客観的に見るのではなく、キャラクターの視線から捉えるのもいいな。でも、そうすると、ここで死んでいる方が、主人公は良いと思うぞ」

「あ~、そうか! そうだね、主人公は、その方が良かったのかも……」

 息つく間もなく、会話を続ける。

 自分とは違う視点から見ている相手の意見を聞き、自分の意見を見直す。そして、すぐに自分の意見をまとめる。そして、言う。それに対して、また、相手がそうする。それを繰り返すことで、自分の納得いく答えが出る。

 やっていること自体は、国語の討論会や、社会のレポートと似ているかな。

 これを繰り返していたため、私は、文系なのだ。国語だけではない。社会や理科でよくある、資料を使う問題も、この応用で解くことができる。

 その代わりというのは悲しいが、数学や英語はとことんできない。文法が違い、表現も限られてしまう英語は、好まない。数学なんて、もってのほか。ただ単に問題を解く、というのが苦手だ。

 受験に必要な科目は、主要3科目。つまり、国・数・英。

 国語だけでカバーしきれる訳じゃない。今回の学校は公立校で、神社の近く、ということで、既に決定済みだった。それが、そこそこ学力の必要な学校。市内でも、上の方に入るとか……。

 ――私、平気かなぁ……。

 向かいで、生き生きとした笑顔を浮かべて、ページをめくる神宮さん。

 ――神宮さん、平気かなぁ……。

 こっちに気がついて、ページを見せながら、ここはどう思う、と、再び話を再開する。


 ――いつか。

 いつか、本当に好きな人と、こんな風に話をしてみたかった。

 今はまだ、叶わないけど。

 いつか、神宮さんと、本物の恋人になりたい。


 ――そう、思った。


 あ、……せめて、結婚の前に恋愛をしてみたいって事だから!

 恋愛感情もないのに夫婦なんて、私はやなんだってば!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ