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レッツ買い出し


「照彰も連れていきな、案内になるから」と言われ、神宮さんも連れて行くことに。そういえば、元々「2人で」って言っていたかもな。ショックすぎてよく覚えてないけど。

「今日もバスか?」

 神宮さんは言ったが、スーパーは、なぜか歩いて行ける距離にあるのだ。わざわざお金を使う必要は無い。

「今日は歩きだよ。すぐそこだから」

 実際には、すぐそこ、とは言っても、だいたい20分はかかる。早く車が欲しい、と、切実に思うのだった。

 スーパーにつくと、中はとても寒かった。

「なんでこんな所にスーパーがあるんだろう。他のお店はなかったのに」

「もう少し向こうに行くと、私たちの通う、高校があるんだよ。そのまわりには、もうちょっとあるみたいだけどね」

 神宮さんの、もっともな質問に、地図を見て得た知識で答える。ちなみに、まだ、行ってみたことはない。

「その辺も、後で見に行かなくちゃね」

「そうだな」



 おばあちゃんに頼まれたメモを見て、どんどん、かごに入れていく。お金は、おばあちゃんから預かっている。自分のお金を払わなくてもいいとなると、とても気が楽だ。おばあちゃんはお小遣いをくれるけど、高校生のお財布事情は、割と厳しい。神社のことや、巫女さん仕事があるから、おばあちゃん達に、アルバイトは禁止されているし……。

 メモに書かれた物を、半分くらいかごに入れた頃。お魚やお肉のコーナーに向かった私は、手ぶらな両手で、腕をさすり始める。

 ――想像以上に、寒い。

 半袖のワンピースを着ていた私は、冷房の風を、もろに肌に受ける。それに、いつもの長ズボンと違い、膝上丈のワンピースなのだ。大丈夫だと思っていたし、今までは平気だった。そのため、上着はない。

 隣には、カートを押してくれている神宮さんがいる。あんまりみっともない姿を見せることはしたくない。こういう意地っ張りなところは、頑固者のおばあちゃん譲りなのだ。そう簡単に揺らぐ決意ではない。くっ、と、お腹に力を入れる。手は、意地で止めた。


 その時、私の腕に、あたたかいものが触れた。


 何事かと思って、手の主、神宮さんを見ると、ちょっとびっくりしていた。びっくりしたのは、私の方なんですけど? ――ツッコミを入れそうになるが、神宮さんの方が早かった。

「こんなに冷えているではないか!」

慌てて、腰に巻いていた自分の上着を、私に向かってよこした。神宮さんは、律儀に、シャツを持っていた。私が、昨日オススメした着方だ。初めは上着として着ていたのだが、昼過ぎあたりから、「暑い」といって、腰に巻いていた。それを、私に向かって渡してきた。

 戸惑うことしかできず、素直に受け取れない手は、微妙に伸ばされた位置で止まった。

「無理をせずとも、……いや、しなくてもいいだろう。寒ければそうと、素直に言えばいいのに」

 それでも、ほんの少し悩むと、それを、そっと手に取る。

「ありがとう」

 パステルイエローのシャツは、前を開けて着ると、ワンピースによく似合った。

 満足げに笑う神宮さんは、幼くは見えたけど、ものすごく大人にも見えた。


 メモに書かれた物を全て買い終える頃には、神宮さんの押すカートの中には、他の皆さんが買うような商品がたくさん入っていた。そして、この時間帯に多いお客さんは、主婦層。

 ――つまり、私たちのかごの中身は、お惣菜を始めとする、食卓の主役達。

 (一週間前とはいえ)高校生がかごに積むような物じゃないよね、って事。

 だって、おかずだよ。お惣菜に、塩鮭に、豚バラだよ? ご飯のお供にぴったりな感じですよ?

「……おばあちゃんは、自分で買いに来ればよかったんだよ」

ぽろりとこぼれた本音を聞き取った神宮さんが、一度こっちを見て、周りを見渡した。

 ……神宮さんは耳がいいって事を、忘れていた。

まわりを見渡した神宮さんが、再びこっちを見て、いつもの笑顔のまま、何か言おうとして――。お会計の順番が来たために、言うことはなかった。



 何を言おうとしたのか、分からないまま、スーパーを出る。

 袋は、神宮さんが持ってくれているため、私は、手ぶら。結局、買い物に来たのに、自分の肩掛け鞄と、おばあちゃんのメモしか持っていなかった気がする。そして、ちょっと悪いかな、と思った。上着も借りたし。

「かたっぽ、持つよ」

「え? いいよ、別に」

苦にはなっていないらしい。遠慮でも何でも無く、本当に、気にすることはない、って言われている気がした。

「でも、上着も借りたし。あ、そうだ。かえすよ、上着」

「いいよ、着ていても」

なんとなく、悔しくなる。

「じゃあやっぱり、かたっぽ、持つよ」

観念した神宮さんから、レジ袋を1つ受け取る。2つあるうちの、軽い方だ。

 ――本当に、よく気の使える人だな。


「そういえば、なんて言いかけたの? ほら、レジの時」

「ああ、あれか。別に、たいしたことじゃないんだけど」

ふと思い出して、何気なく聞いてみる。


「まるで、夫婦みたいだな、って思って」


 神宮さんが発したその一言は、私には、あまりにも予想外のもので、思わず、理由を尋ねた。

「だって、買っている物が、その、主婦の方達と同じような物だったから……」

理由は単純だ。そこから、よくもまあ、そこまで考えが飛ぶね……。

「む? 何か、変なことを言ったか?」

「え!?」

 つまり、神宮さんは、本当に、思ったことを言ってみただけなんだ。

 ――小学生男子かい!

 前言撤回。気が使えても、どこか抜けているんだな。この人は。

 私は、動揺している頭を冷静に戻した。やっぱり、恋愛対象じゃないかな。

 だって、年頃の男女がそんなこと言われたら、普通はドキドキするし、そういう意味を込めるでしょ?

 少なくとも、ライトノベルや少女マンガならそうだよ。


 ――私は、“恋”に憧れるけど、神宮さんは、決して、そんなことはなくて。私は、ただの、命令によって縁を持った、“許嫁”でしか無いってこと。


 私、恋愛感情のない結婚は、いやですからね!

 相変わらず、突っぱねてしまうのだった。


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