表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/27

高天原への報告書


 今日から4月。カレンダーを取り替えつつ、お気に入りのワンピースに袖を通す。神宮さんに改良してもらったワンピース。先日のショッピングでの、一番の戦利品だと思われる。普段の5倍は興奮していると思う。服1つでここまでウキウキするなんて考えたこともなかった。もう、高校生なのに……。



 一日のはじめのお清め(掃除)が終了し、お気に入りのワンピースに着替え、ご飯を食べている途中のこと。

 初日とは打って変わって、昨日の夕飯から、神宮さんと話すことが増えた。おばあちゃんやおじいちゃんと話すことよりも、神宮さんと話すことの方が多いかもしれない。離れにいれば、なおさらだ。

 そんなわけで、話しかけてきたのは、おばあちゃんではなく、神宮さんだった。

「今日、護摩ごまを焚くんだろ? 何時からなんだ? その時に使う報告書を用意したから、それまでに取りに来て欲しいんだけど」

 卵焼きを頬張りながら、さらに鮭の塩焼きに目をつける神宮さん。各自に分けられているんだから、そんなに急ぐことは無いと思うんだけどなぁ。

「護摩を焚くのは、10時からかな。で、その報告書って、何?」

 その質問に反応したのは、おばあちゃんだった。

「あれ? 言ってなかったっけ?」

――全然聞いてないです。一言も聞いてないよ。これっぽっちも聞いてないんだけど!?

「いや、それはすまないねぇ」

――思ってないよね? 絶対、「すまない」って思ってないよね!?

 けろっ、と、笑いながら、おばあちゃん。まるで花のような笑顔で、おじいちゃんが惚れたのもよくわかる……って、違うわっ!

「きいてないよ!! で、何!?」

「報告書だよ。高天原への、報告書。天照様達に連絡するためのものなんだ」

 相当な剣幕だったようで、割って入ってきて、答えてくれた神宮さんは、少々笑顔が引きつっている。こういったときに見せる気弱な雰囲気は、昨日、スタバで見た笑顔とは全然違って見える。

「……。それ、護摩でいいの?」

「《《護摩だから》》いいの」

 おばあちゃんが、元の落ち着いた顔になって言った。前半が、かなり強調されている。小説だったら、文字の右側に点が5つ並んでいるだろう。



 神宮さんから受け取った和紙を持って、巫女装束の私は、お堂に向かう。

 「中は見ちゃ、ダメ。絶対」と、ポスターか何かで覚えたのであろうセリフを使って、何回も念を押されてしまったので、中は見ていない。

 お堂に着くと、用意してある台の前に座る。巫女装束姿のおばあちゃんが正面に座り、私は右の側面。おばあちゃんが、台の上に、細長い長方形の護摩木ごまぎを、神社のお社の形に積んでいく。始めは四角、次に三角、最後に、それぞれの角に護摩木を立てかけ、正面に2本立てかけたら完成。大雑把なメモだけど、自分で積むときにはこれだけでも苦労しないはずだ。なにせ、これから月に一度のペースで、毎月1日に護摩を焚くのだから。

 燃え始めた護摩の中に、丁寧な動作で、和紙を入れるおばあちゃん。

 いつかは、あれを私がやらなければならないのだな、と思いつつ、オレンジ色の、大きな炎を見つめた。



 護摩を終えた後、12:30まで自由時間となった。

 自室に引っ込み、離れの浴室(3部屋の内には入れてないけど、ほかに、お手洗いや洗面所なんかもある)でシャワーを浴び、さっさとワンピースに着替える。神宮さんの工夫によって買うことのできた、この水色と白のワンピースは、買ってきた物の中でも、真っ先に着たかった。

「無事に護摩は焚けたか?」

 シャワーを浴び終えると、離れの居間(?)にいて、買ったばかりの本を読んでいた神宮さんに話しかけられた。そういえば、神宮さんは、「男子中学生・男子高校生に人気!」というポップのついたライトノベルを買っていたな。

「うん。その本、この前買ってたのだよね。どんな話?」

 よほど話がしたかったようで、子供のように顔を輝かせる神宮さん。マンガだったら、頭の上に「ぱああああ」って書かれてる。絶対。

「この話はな、少年が、過去にタイムスリップしてしまう……んだ。そこで、過去を変えてしまって、戻すのに必死になっているところまで読んだぞ」

 言葉遣いが、あぶない。直したところはともかく、一見間違いが無いように見えても、ちょっと丁寧(?)で、上からになってる。

 でも、素直に面白そうだな。

「読み終わったら、私にも読ませて!」

「うむ! すぐ読むから!」

「盛り上がっているところ悪いんだけど、ご飯だから」

 ノックと同時に聞こえる、おばあちゃんの声。いくらドア越しと言っても、ノックと同時では、ノックの意味が無いと思うのは、私だけかな?

「「は~い」」

 私も、神宮さんも、すこしテンションが下がった声を出した。



 急いで向かった母屋の居間には、普段よりも、随分と質素な昼食が用意されていた。

「……何があったの?」

「いや、食材がないのを忘れていてね。午後、ヒマなんだったら、2人で買い出しに行ってくれない?」

 おばあちゃんが、全然「すまない」と思っていなそうに見えるほど、明るい笑顔で、私たちに買い物を押しつける。

「え~?」

 本を楽しみにしていた私は、とことんふてくされる。神宮さんも、おばあちゃんに遠慮して反論しないだけで、表情は暗い。

「買い物に行かないと、夕飯がないじゃないか」

自分で買いに行こう、と言う考えはないらしい。ここは諦めないと、本当に夕飯は抜きになるだろう。

「わかったよぉ」

 無言で、昼食を平らげた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ