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「よかった、許可が出て」
バスに揺られながら、神宮さんが言った。私は、ぎょっ、として神宮さんを見る。私のその顔を見て、神宮さんは、逆に驚いて私を見ている。
「もしかして、知らなかったと思っていたのか!?」
「……い、いや、知ってた」
バレバレの嘘だって事は分かってる。ちょっとした強がりで――
「そうか」
しっ、信じられてしまった!?
キラキラの瞳がまぶしいです。ここまで純粋に信じてくれると……。
「すみません。実は知りませんでした」
素直に謝ります。すみませんでした。ううう、心が痛いよ。
しかし、神宮さんは、それを気に留めた風でもなかった。爽やかに笑って、「そっか」って言っただけで終わりだった。……とことん良心が痛む。
バスが着くと、家(神社)からは考えられないほどの街。都会。……もっとも、私の住んでいたところよりは、そうでもないけど。
「さ、本屋いこ」
無邪気に笑う神宮さん。無邪気なんだけど、年相応(16歳)には見えるから不思議。
「そうだね。本屋はこっちだよ」
昼過ぎの街には、カップルも多く見られる。それを横目で見ながら、いいなぁ、と思う。そして、横にいる神様を見て、思う。
――今はまだ、そんな風には思えないな。
私がじっと見ていると、視線に気づいた神宮さんが、「む?」と顔をしかめた。
「何か変か?」
「べつに。『言葉遣い間違えないでねー』って、神様にお祈りしてた」
「そんなに心配か!?」
自分に向けられた言葉だと瞬時に理解して、少し落ち込んだような、すまなそうな顔をしていた。
――どこまでもピュアだなぁ。
心の中で苦笑し、表情では笑った。どちらも本心から出たもので、自分でも、ヘンなの、と思った。
「冗談だよ、冗談」
まだいぶかしげな顔を消さない神宮さん。しかし、
「ほら、本屋だよ」
指さすと、すぐに目を輝かせた。
まるで、子供みたい。さっき不思議に感じたはずのものは、今の神宮さんには見られなかった。
「どう? お目当ての物は買えた?」
「うむ! 小さな辞書があったのでな。それと、本を2冊買ってきた」
満足そうだし、楽しそうなのはいいが、興奮で、言葉遣いが戻っている。
幸い、まわりに、人はいない。ちょうど3時、おやつの時間なので、みんな喫茶店か何かにでも行っているのだろう。人に聞かれなくてよかった。
「ちょっと、言葉が……」
「いや、でも。……しかたあるまい」
開き直られてしまったよー……。
「深呼吸してみて。3回くらい」
律儀に3回深呼吸して、また話し始める神宮さん。
「お金も、菅野に教わった通りにやったら何も言われなかったし」
興奮が冷めてきたらしい。言葉遣いを気にする余裕が出てきたようだ。深呼吸すごい。
「じゃあ、次は、服屋だね」
私の言葉に、神宮さんが大きくうなずく。
「うむ!」
――相変わらず、その「む」は直らないようで……。
レディス服も、メンズ服も、どちらも売っている服屋に来た私たちは、まず、神宮さんの服を探す。
本来なら別々にまわりたいところだが、流石に、“こちらの”常識を持ち合わせていない神宮さんを一人にするわけにはいかない。
神宮さんは、“ザ・日本人”な顔のために、シンプルな服が似合った。外見も中身も(天然だけど)真面目な神宮さんには、どうにも、おしゃれな服は似合わない。チャラい系など、論外だ。どちらかというとスーツの方が似合いそうな雰囲気もあるということを発見した。
結局、ジーンズ3枚と、Tシャツを3枚、パステルカラーの襟のついたシャツを3枚。それから、紺色のセーターを買った。ちなみに、Tシャツは、シンプルなデザインのもので、全て生地の色が違うものを選んだ。
「俺の服は、いつものでもよかったんだけど……」
「そんなわけにいかないでしょ。それに、Tシャツの上に襟のシャツを羽織ればいいよ。前は開けておくと、とってもいい感じだと思う」
「ふぅ~ん」
興味なさそうなのが残念だ。毎日見ていないと、ホントにおんなじもの着てそうで怖い。
次は、私の服を買う。
紺色の、リネン生地のロングスカート。Tシャツを何枚か。パステルイエローの、7分袖のうすいカーディガン。ポンポンとかごに詰め込む私に、神宮さんが声をかけてきた。
「菅野、これなんかどうだ?」
それは、私があまり気にしたことのない、ワンピース。
身長が微妙な私は、スカートは、ロング以外はけない。Sだと短すぎるし、Mだと長すぎるからね。理想は、膝よりちょい上だから。だから、ワンピースも、随分と長い間避けてきた。それを訴えると、神宮さんは、とりあえず試着してみて、と服を押しつける。
渋々着てみたものの、やっぱり丈が長すぎる。
「やっぱり、長すぎるから……」
試着室のカーテンを閉めようとすると、神宮さんが細身のベルトを差し出してきた。
「これを、巻いてみて。高い位置で」
つけると、神宮さんが、ゆったりとするように、ベルトの上に、布をわずかに引っ張り出す。
すこし、丈が短くなって、ちょうどいい感じに膝が出る。
「おお……」
デザインは私好みだし、丈さえ合えば買えるのだ。私は、迷わずかごに放り込んだ。
「ありがと」
会計を終えて、袋を持つ私は、とっても幸せな気分だった。




