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言葉遣いをなおそう


 翌日、朝5時に起きて、神社のお堂のお清めをした。正直眠い。けど、春休みを明けて、学校がはじまっても、苦労しないように、というおばあちゃんの配慮だった。

 ――全然配慮になってないよっ!  あんなに早起きさせて!

 不満も多い。



 境内の掃き掃除を終えると、6:30。

 これからは、家族(+1名)そろって朝食をとる。

「おばあちゃん、このあとは?」

「勉強だよ。本当なら学校に行くから、春休み中くらいは自由時間でもいいんだけどね。照彰に、こっちの常識をたたき込まなければならないだろう? だから、勉強時間」

「え~っ!? ……もしかして、私が教えるの?」

「当たり前だろう」

おじいちゃんにまで言われ、私は逃げ場がなくなる。



 そういうわけで、神宮さんの家庭教師をすることに。離れの3部屋のうち、私や神宮さんの部屋以外のひと部屋に、本を持って行く。

 先に待っていた神宮さんに、本を手渡す。その本は、舞台が現代のライトノベル。学園ラブコメだ。卒業していく先輩に片思いした、女の子のお話。自分の気持ちが恋だと気づいた頃には、先輩は卒業して、遠くの大学に行ってしまう。そんなストーリーだ。

「とりあえずそれ読んで、言葉遣い覚えてね。私が持っていた物で、すぐに読めそうな物で、現代が舞台の小説はそれくらいしかなかったから」

「む?」

「聞きたいことがあればそのつど聞いてね」

「うむ」

 黙々と読み始める神宮さん。その間に、私は、空っぽで机しかなかった部屋に本棚を2つおき、1つには私の小説やマンガをしまい、もう一つは空のままにしておく。私の本箱に入れた物は、さほどお気に入りの本ではない、ファンタジー物やラブコメだ。暇つぶしに読もう。

「これはどういう意味だ? いまいちよくわからん」

「これはね、え~っと……。ちょっと待って、調べるから」

よくわからなかったので、辞書で調べる。

「それを俺に貸して欲しい」

“私”を“俺”に直している。ちゃんと生かせているようだ。

「あぁ、そうか。その方が早いね。これはね、こうに調べるの……」

やってみせると、すぐ理解したようだ。

「ありがとう」

 すぐに、辞書片手に本を読み進める。今までの倍くらいの速度で読み終えていく。

 私が、本棚の整理を終え、マンガを1冊と半分読んだ頃、神宮さんが本を閉じた。

「おもしろかった。其方は、こういった本をたくさん持っているのか?」

「其方?」

少しきつい視線で、神宮さんを見る。

「む……。えーと……。なんと呼べばいいのだ? 違う。なんと呼べばいいんだ?」

「とりあえず、菅野で」

さらりと答える。しかし、神宮さんは、納得していないようだ。

「……でも、昌幸殿……じゃなくて、昌幸さんや寬子さんは名前で呼んでいるし……」

「いいじゃない。その本でも、名字で呼んでいたでしょ?」

本は、恋が始まる前に終わっているため、お互いに名字で呼んでいたはず。予想通り、頷く神宮さん。

「じゃあ、菅野で」

「……うむ」

無理矢理納得させる。

 名前で呼ぶというのが出てこなくてよかった。それは、本当に“恋人同士”になったときにとっておくのだ。

 ――それくらいは許可されるでしょう!? 恋に恋するお年頃の女の子が、許嫁になってあげたんだから!

「では、菅野。菅野は、こういった本をたくさん持っているのか?」

「うん。ラブコメ以外にも、たくさん持ってるよ。そうだ、こっちの本棚は好きな本入れていいから。お互いに読んでいいっていうことで」

さっき用意した本箱の片方をさして、言う。神宮さんも納得してくれた。

「うむ。わかった」

「ほら、もう12時だよ。ご飯食べに行こう」

「うむ!」

 無邪気な笑顔で元気のいい返事をしてくれる。しかし、その「む」のつくところはどうにもならないんだろうか? 普通、「ん」でしょう?

 そんなことを考えていると、神宮さんに「菅野」と呼ばれた。

「ん?」

「午後、もし何もなかったら、街に行きたい。本が欲しいんだ。あと、辞書」

 相当、辞書が気に入ったようだ。あの辞書を返すときも、結構名残惜しそうだったもんね。勉強の成果も出ているようだし、外に出ても大丈夫だと思う。それに、体験してみないと分からないことも、たくさんあるだろうし。

「いいよ。用事が何もなかったら、いこうか」

 午後のために、まずはご飯。母屋へ向かった。



「おばあちゃん、午後は外に出てもいい? 神宮さんが買いたい物があるんだって」

「……あの言葉遣いのままの照彰を、外に出すつもりかい?」

心配そう、というよりは、完全にあきれている顔のおばあちゃんに、自信たっぷりに、悪役のような笑い方をする。

「ふっふっふ~。とくとご覧あれ。……神宮さん」

「む?」

 自分には関係ない、とばかりに、よそ見をしていた神宮さんに、急に話を振ってみる。卵焼きを口に運んでいる途中で、箸が止まった。びっくりしたようにこっちを見ているから、成り行きは理解していないはずだ。いわゆる、抜き打ちテスト。

「買い物に行ったら、何が欲しいんだっけ」

 できるだけ自然に、2人だけの会話のように、さりげなく聞く。おばあちゃんなど、無視だ。本来、誰かに聞かせるためにこんな会話をしたりはしないからね。

「そうだな、まず、辞書が欲しい。それから、他にどんな本があるのか、探してみたいな」

「そっか。じゃあ、本屋だね。あと、神宮さんの服も買おうよ」

「む? 服か……。そうだな、その辺はよくわからないから、菅野に任せるよ」

「え? 好きな服とか、ないの?」

本当にびっくりだ。今の神宮さんの服装は、Tシャツ、ジーンズのシンプルすぎるもの。てっきり好みかと思っていた。

「いや、これは、寬子さんにもらった物……なんだ」

いま、ものすごく危なかった。絶対「もらった物だ」って言おうとしてた。慌てて直したね。

「ふーん……。じゃあ、本屋と、服屋に行こう。私の買い物にも付き合ってね」

「うむ。分かった」

 神宮さんが、卵焼きに目を輝かせたのを見て、おばあちゃんに視線を戻す。

 ――「ん」が「む」にっちゃうのは勘弁してね。発音似てるし、仕方ないよね。

「よく、ここまで教えたねぇ!」

「いい? 外出ても平気?」

「いいだろう。楽しんでおいで」

おばあちゃんが、許可をくれた。神宮さんと話をしているおじいちゃんとアイコンタクトをとっていたから、おじいちゃんもOKしてくれたようだ。やったね!


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