閉幕
誠意とか反省とか。
そういうのがあっても、それで全てうまくいくってわけではないと思うな。
今回は、誠意とか反省とか示そうとしたせいで、かえって最悪の形になりました…
正直、カップの中身をこぼした時点で大人しく引いとけば、また別のテーブルでお茶を注ぐことも出来たんですけど…
どうにかしようと足掻いた結果…
テーブルごとひっくり返っちゃいました…
そして、上に乗ってたカップは全部ダメに…
ゴメンナサイ。でも、そんなこともあると思うんだ…
最後の挨拶を告げた体は、ふらりと傾いて。 テーブルの上に倒れ込み。
弾みでカップは、落ちて砕けて…
咳き込んだ口からは、鮮やかな赤い色が。
「え? コルディリア?」
気後れをいったん放り出して、こわごわと抱き起こして呼びかけると、弱々しいながらもしっかりした口調で…
「王族に毒を盛るのですもの。責任を取るために、私も同時に毒を飲んでおりましたの。
中和剤を飲まないと、15分ほどで効果の出るモノを」
… え?
我々が飲んでから15分はとうに…
中和剤…? コルディリアが飲んでいたのはあのポットの…
最後に残っていたものを全部、カップに入れて、私に差し出してきて…
え…
「コルディリア、何故だ!」
先ほどまで離れて見守っていたシェイピア公爵が血相を変えて駆け込んできて…
「殿下方に飲ませたものは毒ではあるまい! 何故そなたが毒を!」
え…?
「もう… 苦しいんですの。 許そうとしてもどうしても許せなくて…
殿下方が誠意を見せて下さる度に、謝って下さるたびに、許そうと… やり直そうと思っても…
今までの仲が良かった頃を、信頼し合ってた頃を思い出そうとしても、それが壊れた日の事が、突然変わった態度が頭をよぎって… どうしても、受け入れられなくて…」
そうして涙が頬を伝って…
「ああ、でも。
許せなくて当たり前の事でしたのね。少なくとも殿下方は出来なかった…
なのに。それでも諦めては下さらない…
でも。これでやっと… 許せないことに… 苦しまずに… … 」
そうしてとても幸せそうに微笑んで… 腕の中の身体から力が抜け…
「コルディリア…?」
「うわーっ! 違う! 違うんだ!
殿下方を許せるか聞いたのは、以前は仲が良かったから後悔しないかと…
許さずとも良い! 出来なくても良かったんだ! 返ってきてくれ!」
ああああ…
目の前の先輩の血の気が引いて引き攣った顔を見て… 私もきっと同じ様な有り様でしょう。
それで…。きっとそれで私はこの場に… 先輩も。
私はシェイピア公爵家に使えるメイドです。とはいえまだまだ新入りで、本来ならこのような立派な場に呼ばれるはずは無かったのです。
ですが、なぜかお嬢様の指名によって、先輩と共にこの場でのお手伝いを任され。
覚えは無かったですが、何かが評価されたのかと喜び、まず入ることのない王城で、王子様たちにお茶を出すということに浮かれていて… なのに。
お嬢様の最後の言葉を聞きながら… ああ、きっとあれを聞かれていた。
~~ 『あ、また殿下からのお手紙と贈り物ですか~?』
『そうね。週に一度は送って下さってるわね。他にもマーベス様やオセロン様、ハーレット様からも』
『でもお嬢様、まだ塞ぎ込んでらっしゃるんですか~?
殿下方、確かに酷い事なさいましたけど、反省してこんなに気遣って下さってるんですし、そろそろ許してさしあげてもいいんじゃないですかね~。
せっかく名誉回復して婚約者の地位も元通りにしてくれるっておっしゃってるのに~』
『そうよね~ いい加減お返事の一つもね~。
こんなに一生懸命謝ってきてるのに、一体何が不満なのかしらね~』
『ですよね~』『あはははは~』 ~~
違います。違うんです。
私たちは王子様達から贈り物やお手紙なんか貰ったりしませんから、特別な物だと思ってて。
あんなにいろいろ贈ってくれてたから本当に謝って反省してるんだと。
あれも本当に責めたわけじゃなく羨ましくてつい軽い気持ちで…
でも。私たちの軽口もきっとお嬢様がこうなるの後押ししちゃって… きっとだからこの場に…
違います。違ったんです。
間違えた。間違った。
いったい俺・僕は何をした?
何もしてない相手を断罪して、その過ちを、謝ろうと、償おうと、心からそう思っていたはずなのに…。
毒じゃなかった? いっそ殺されても当然と本気で思っていたはずなのに。
俺・僕はなぜそれすら受け入れられなかった? 口ばっかり?
謝ってたつもりが苦しめた? 死を選ばせるほど?
真に相手のことを… なら俺・僕たちは?
あの謝罪は誰の為だった? 自分の…?
間違った。間違えた。
何が悪かった? どうしてこんなことに?
あの女の言うことを信じたことが悪かったのか? だが証言が。
ああだが背後も考えるよう よく言われて…。
女の言うことなどどうせ大した内容は無いと… 学年一位の頭脳である私に間違いは無いと。
殿下ですら私の存在を頼ってるのだと。将来も輝かしいと…。
それがあっさりあんな下級の女に騙されて。
心から謝罪して許してもらおうと通っていたはず。ああでも私はなぜあんなに焦っていた?
許しが欲しくてそれは過ちを無かったことにするため…。
ああ… コルディリアは全て見抜いてた。私こそいいように踊らされた道化で愚者だ。
そしてそんな傲慢さの、過ちを受け入れなかった代償が… この死。
もうなんとしても、取り返しはつかない…
ああ。いったい私はどこで間違えた…
私のせいだ。
愛していた。たしかにそう思っていたんだ。
信じていた。だが信じられなかった。
償って信じてもらえるよう証明しようと… だが、出来なかった。
償いを望んだのは私たちだったのに。自分に関わらず二度と間違えなければいいと言っていたのを無理矢理引っ張り出して…
追い詰めた。苦しいと。自分では出来なかったことを求めて…
私はいったい何を。傷つけて追い詰めて絶望させて。最後の綱も私が切って。
うわああーっ!
やられた。見誤っておった。
息子の叫び声を聞きながら、茫然とするその側近候補たち、娘の亡骸に縋って涙を流す公爵を見て… 儂はそう思った。
見誤っておった。彼女の絶望を。憎しみを。
そして信じすぎておった。あったはずの愛情を。彼らの覚悟を。
やられた。彼らの欺瞞を残酷なまでに露わにして見せ付け、己の死ですら利用して最大限に彼らの心を傷つけていった。
彼らを気遣う言葉で、実際は毒ならぬモノを飲ませたのも、その方が事実を知った時に拒絶した彼らの傷が深くなると考えてであろう。
復縁を断るも、彼らより許しを乞われて条件として試した挙句、絶望して死を選ぶという形では、彼女に責を問うことも出来ぬ。
ああ、愚かな過ちをしたとはいえリアーオの才を惜しみ、以前の仲の良さに判断を誤った結果がこの末路。
リアーオ達、公爵、少なくとも当分は使い物になるまい…。
わずかなりとはいえ、直接的にコルディリアの死に関わらされたリアーオは特に…。
今後荒れようが… これもまた儂の責任か。
正直、儂もコルディリアが受け入れれば元通りと。
当人に非は無かったがあのような醜聞になっておるし、王妃教育も出来ておる。
あれさえ許せばすべてうまく、とリアーオの反省した様子にほだされて場を持たせた結果が…。
儂も公爵同様、婚約解消の再考を勧めておる。それゆえ儂も切り捨てられたな…。
出した条件自体は当然と言えば当然のもの。
許すには、同じ目に合ってもらい、それを乗り越えよと。お前たちは相手にそう望むのだから出来るだろうと。
毒を盛ると聞けばやり過ぎと思うが… だが実際には毒でなく害が無ければ確かにあの人前での冤罪騒ぎより影響はない。
心の問題? しかし先に無実の者にやったはあれらで、あれだけ償い謝罪と言っておれば…
結局証明されたは、あれらの覚悟の甘さと薄っぺらさ。
ああ、やられた。
きっとこれはすべて彼女の狙い通り。
ああ、許されざることを受け入れられずに足掻いた結果が、ここまでの末路を招いてしまった。
愚かな。そして愚かだった。
どうしても取り返しのつかない事はあるというのに。
こぼれた水は返らない。 幕
一応、話としては、これで終わりです。
お読みいただき、ありがとうございました。
なんというか… 基本は、等価反撃?
「やられた分だけやり返す!」つもりなんですが…
ちょっとゴメンナサイ… m(_ _)m。
苦情は… 心の中だけでお願いしますm(_ _)m。
あとはオマケの、ダイジェスト&彼らの未来予想で終わりです。