最後の願い
<やり直す>
加害者がお詫びや償いをして、許して貰えるのを待つ・・・×
関係性を一旦リセットして、お互いに新しく絆や信頼を積み上げていく・・・○
あくまで個人的見解デス…。
というか… 上だと、被害者が許せるかどうかの問題になっちゃうよね。なんか被害者ばっかりに負担が押し付けられるようで、釈然としない…
「そうそう。最後のお願いをまだ申し上げておりませんでしたわね」
カップのお茶を一口飲んでから、笑顔のままさらに告げます。
「最後のお願いですわ。
そうですわね… 月に一度ほど、皆さんで集まりたいと思いますの。
そこで、私のお出しする食事や飲み物を召し上がって下さいな。
もちろん、皆さんにお出しするモノですもの。腕によりをかけてご用意させていただきますわ」
「あら、皆さんなんだか顔色よろしくありませんわよ? 何か不安でらっしゃいますの?
でしたら! 皆さんに許していただけるよう、信頼していただけるよう、これから誠心誠意お詫びをさせて頂きますわ。
手始めに言葉でしょうか。
『皆さん、本当に申し訳ありませんでしたわ』
『私が<許す>という事の為に必要な行為でしたの』
『もちろん今後は二度といたしませんわ』
『信用していただけるまで、何度でも謝らせていただきますわ』
『どうか許して下さいな』」
「それから家に帰ればすぐに、お詫びのお手紙を送らせてもらいますわ。
ええ、皆さん毎週送って下さってますから… 3日に1度くらい送りましょうか。なんなら毎日でもよろしいですわ。
もちろんお詫びの品も… でも殿方ですし、花は要りませんかしら。本や剣なんかがよろしいかしら。
さあ、あとは何をすれば以前のようにやり直していただけますの? どうぞおっしゃって下さいな」
「ああ、殿下との会食は、週に1度にいたしましょう。やり直すのならば、いずれ妃となるのですもの。
そうしていただけるなら… 私も、誠心誠意、妻として、妃としての役を果たさせていただきますわ」
「さあ、私のお願いは全て申し上げました。 皆さんのお返事は?」
皆さん、押し黙ったままですわね。
顔色はもはや青を通り越して白くなってらして。
それは冷や汗ですの? 脂汗ですの?
あらそういえば庶民って、カエルの油を薬にしてるとか聞いたことありますわね。
なんでも鏡の前に置いておくと、固まって動かなくなって油を出すのだとか。
きっとこんな感じなのですわね。
このまま黙ってらっしゃられても困りますわね。もう一押し、いたしましょうか。
わざとらしく目の前でため息を吐いて見せ、
「皆様。黙ってらっしゃったままでは分かりませんわ。
元はと言えば、皆様からおっしゃってきたことではございませんの。
私は、今後間違わなければ、そして私とは距離を置いていただければ、それでかまわないのだと申し上げておりましたのに。
それとも先ほどのお願いに、なにか問題がございました?
確かに急なことで驚かれたでしょうけど… それは1年前の私も同じですし。
あの時と違って、公衆の面前ではなく内輪でのことですし、よしんばこれが広まったとしても、評判が落ちるのは私であって皆様方ではございません。
それに、びっくりはなさったでしょうけど、それだけでしょう?
なのに。
そもそもそうされるだけの理由もございましたのに、私のささやかな悪戯をなぜそんなに気に掛けられますの?
謝罪も誓いもいくらでもすると申しておりますのに」
ええ、本当に今回の事、悪戯ですのよ?
毒と言ったの、嘘ですの。
非常に刺激的で不味いシロモノですけれど、害はありませんわ。
陛下にも確認していただいた上で、飲んでもらっておりますの。
ですから、あちらの護衛の方達、怯えてらっしゃる殿下達を複雑そうに見てらっしゃるでしょう。
お気付きではらっしゃらないようですけど…
さすがに本物など、実際に盛るわけがありませんでしょう。
あっさり信じてしまわれるなんて… 本当に、私への信頼って、儚く脆いものでしたのね。
「そうそう。皆様、私とやり直せるか許してもらえるかと、ずいぶん気になさっておいででしたわよね。
お忙しいでしょうに、のべつ幕無しにご連絡を下さって。
お待たせして申し訳ありませんでしたわ。やっと心が決まりまして。
では皆様。待ち構えてらしたお返事はいたしましたわ。
あんなに催促してらっしゃったんですもの。それに対するお返事も、すぐにでも下さるのでしょう?」
「ああ、それとも直接自分の口から告げるのは忍びないということでしょうか。なら… 」
空になった自分のカップに新たにお茶を注ぎ、新しく持ってこさせたものにも… ああ、1杯分しか残っておりませんけど、まあ問題ありませんわね。
自分のものを一口飲んで…
「どうぞ。やり直したいと思われるのでしたら… お飲みになって下さいな」
差し出したカップに、誰も手は出しませんのね。リアーオ様ですら。
一応迷うような振りはなさっておりますけど…
「では、もうお互いに関わり合いを持たないということでよろし… 」
「待ってくれ。すまないが少し時間を…」
「なぜですの? 毒見はいたしましたわ。それでも信じられないような相手に、これ以上関わろうとなさらないで下さいな。
覚悟があるというなら。その行動で示して下さいませ」
そうして差し出したカップは、伸ばした震える手にぶつかって… こぼれて…
狼狽と共に、確かに安堵の表情がリアーオ様の顔をよぎって…
………
「く、く… あは、は あーっははははは… ……」
とうとう耐え切れなくなって、溢れ出した笑い声は、ずいぶんと止まらず。
狂ったような、嘲るような声音で延々と響き。
ああ、こんなふうに声を上げて笑うなど、子供の頃でもありませんでしたのに。
淑女としてははしたない事ですけれど… もう彼らとお会いするのも最後ですもの。かまわないでしょう。
ようやく笑い止んで顔を上げると、全員、狂人を見るかのような眼差しで。
けれど上辺は未だに心配している振り。
「… 大丈夫か…」
「クッ。 失礼しましたわ。あまりにも面白かったものですから。
皆さん、結局口ばかりでしたのね。侘びだの償いだの、反省した振りで出来もしないことを。
それで? いざ自分の身に降りかかってらしたら、やり直そうとはなさってくれませんのね?
水に流して許してはくれませんのね?
私は、されたのと同じことをしてみせただけですのに。
可笑しなこと。
自分たちは、謝れば、償えば、誠意を尽くせば、許されると思っているのですわよね。
そう乞うておりましたわよね?
謝る? 償う? それは私の為ではありませんでしょう? 自分たちの為ですわよね?
理不尽にも傷つけた相手に、さらに許すことを強要するなんて… ずいぶんと身勝手で恥知らずですこと」
「くすくす。ねえ、なぜ自分達がやり直そうと言っていたかお分かりですの?
貴方方の言う『やり直す』とは、『元通り』になることですわ。
騙されたことを。過ちを犯したことを。今まで積み上げてきたものを自分で壊した事を。
それら全てを『許されて』無かったことにしたくて。
そしてそのために… 私を使おうと。
ええ、ずいぶんと恥でしょうね。あんな娘にまんまと騙されて。
正義感で正しいことをなさったつもりが、いい笑いもの。
判断力の、情報収集力の無さを大勢の前で露呈なさって。
当然将来も危ぶまれておりますものねぇ」
「ですが」
先ほど中身がこぼれて空になったカップを指先で弾いて。
「一旦こぼれた中身は。二度と同じ形では戻りませんのよ。
もう一度注ぎなおしたとて、こぼしたことが無かったことには、なりませんのよ」
そうして私の心ももう二度と。
せめて。 同じように今までの信頼を崩壊させた後に、もう一度やり直そうとなさっていただけたなら。
こぼれた事実は無くならずとも、新たな中身を注いでいくことは出来ましたのに。
「では。これにて本当にお暇させて頂きます。
私が貴方方と関わる事は、もう二度とございませんが…
願わくば… いつかは、自分の為ではなく真に相手のことを考えられるようになれますよう、お祈り申し上げておきます」
婚約破棄&断罪って、一番の問題は、今まで築いてきたはずの関係性や信頼を、ドブに蹴り込んで踏みにじったコトじゃないのかな。
というか、割れたカップを継いで元の形に直したって、割れた事実は変わらないよね。
形は元通りのように見えても、同じように扱うことは不可能ですよ?
いっそ全部叩き割って、粘土からお互いにカップを作り上げてく方が、スッキリするわ!
ということで、王子達が持ってた信頼も、廃棄させました。
別にいいよね? 既に1年前にゴミ箱に入ってるんでしょう?
うん。そこからお互いに新しく信頼や信用を、築いてく。
それでこそ<やり直す>ってことだ!(と思う)
って、無理?
ハッ! 所詮、加害者と被害者の間って、深くて広い溝があるよね。
うん。彼ら、割とマトモで良い人間なんですよ?
でも、今まではゴメンナサイしたら許してもらえてたんですね。だって高位権力者の子供だもの~。
唇噛みしめながら、「いえ大丈夫です。お気になさらないで下さい…」とか。
運良く、そう取り返しのつかない事は、やらかしてなかったんですけどね。
今までは。