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こぼれた水は返らない  作者: 瑚ノ果
1/6

崩壊

前提となる状況は、乙女ゲームでよくあるシチュエーションをお借りしてますが、ゲームやら転生やらは関係有りません。

単なる玉の輿狙いの、悪知恵というか陥れる方向に頭の回る女に、うっかり篭絡されたり陥れられたりしただけです。

冤罪とか穴はありましたが、そこはまあ運が良かったり悪かったりで、うまくいっちゃったということで。

逆ハーっぽいですが、あくまで狙いは王子で、他のは、庇護欲や正義感に付け込んで味方させてるだけです。でも駄目な場合のキープとして、多少意識はさせてます。



 (わたくし)は今、上手く笑顔を作れているでしょうか。


以前であれば、彼らと会うのに、わざわざ努力する必要などありませんでしたのに…。

そうして覗き込んだ鏡には、以前と変わりないように見える、けれどどこか仮面のような笑顔が。


 …まあいいでしょう。

彼らも、まさか以前と全く同じ笑顔を向けられるとは思っておりませんでしょう。


(わたくし)は、これより半年ぶりに婚約者だった方とその側近にしてご友人達とお会いします。

もっともちゃんと会話を交わすのは1年ぶりとなるでしょうか。



 1年前。

(わたくし)、シェイピア公爵家令嬢のコルディリアは、幼い頃より婚約しておりましたこの国の王太子、リアーオ殿下に婚約破棄を申し渡されました。


もっとも実際それを言い渡された場では、ただただ訳が分からず茫然と…。


当時通っておりました学園の、卒業を祝うパーティー会場で。

何の連絡も無くいらっしゃらなかった殿下が、私ではない女性をエスコートして現れ、今までに向けられたことの無い冷ややかな眼差しで私を御覧になって、私がその女性を蔑み、虐げ、妬心で殺そうとした、と。

そのような私は、王妃にふさわしくない。健気で優しい彼女こそがふさわしい、と。

言われた行為自体は一部思い当たることはございましたものの、ひどい悪意に取られており、全く身に覚えのないことが、あたかも真実のように。


思わず反論しようと致しましたら、騎士団長の子息であるオセロン様に腕を掴まれ、まるで罪人のように地べたへと抑え込まれ。

なおも声を上げようとするも、さらに力を籠められて苦しさでそれもならず。

宰相子息で私の従兄弟でもあるマーベス様が、そんな私の様子を侮蔑の目で御覧になって、心当たりのない罪とやらを読み上げ。

教皇子息のハーレット様が、神の名において、罪人たる私が裁かれることを祈り、王太子と新たな婚約者へと祝福を…


 信じられない状況と、抑え込まれた苦しさで、それ以降の記憶はぷっつりと。



気が付きましたら、ずいぶんみすぼらしい馬車に乗せられてどこかを走っていて…

シェイピア公爵家の門前で、手荒に引きずり出されて、放り出されました。


直ぐに家人が出てきて、あちこちぼろぼろになった私の姿に驚いて、何があったかを尋ねてきましたが…

私もどうしてこんなことになったのか全く理解できず…

「殿下が私との婚約を破棄なさると… 私が彼女を虐げたと… 私はふさわしくない彼女がふさわしいと…

私は何もやっては… どうして… 彼らまでどうしてですの… 」

ただただ殿下たちに言われたことを茫然と…


普段は全く表情を変えないお父様が、とても驚いた顔をして私を見ているのを不思議に思いながら…

私の意識はまたまた暗闇に…



それからしばらくの間の記憶はほとんどありません。

なんだか誰かが何かいっしょうけんめいに話しかけていたような気はいたしますけど…。


ふ、と意識がクリアになって、ぼんやりと部屋にいたメイドに水を頼みましたら…

大騒ぎして部屋を出ていきまして、すぐにお母様が部屋に駆け込んできて、私に抱きついて涙ながらにあれから3か月もたっているのだと。

お父様も、急いで帰ってらして… あれからの事情を教えられました。


卒業パーティーの場で、意気揚々と私の罪を追及し、彼女との愛を誓った殿下とその側近たち。

国王陛下や各家御当主によってその軽率な行動を叱責され…、私の罪と信じていたモノは、彼女による自作自演や正当な注意を誇大に悪意でもって訴えたものだということが、調査により明らかになり…

殿下方は、謹慎。彼女は… そういった罪人を送る、修道院行きとなったようです。

彼女は、自分の虚偽が明らかになっていっても泣いて同情を引こうとし、言い逃れ出来ぬまでに証拠が集まっても、悪気は無かった。気を引きたかっただけ。信じたのは殿下たち。と主張していたそうです。


真実を知った殿下たちは、私に謝罪を、と申し入れてきたようですが、私があのような有様でしたから面会は出来ずに手紙だけ。それもお父様のところで止めているそうです。

国王陛下からも丁寧なお詫びをいただいたそうで、殿下との婚約は… 現在、破棄は正式になっておりませんが、私が望むなら、元から無かったということにして、賠償もくださると。

それなりの理由があっての婚約ではありましたが、さすがに何の非も無くあのような目にあわされ、ずいぶんなショックを受けた者に無理矢理婚約の継続を望むようなことは出来ない、と思いやって下さったそうで。


 そうお話を聞いて… 即座に婚約の解消をお願いいたしました。


愛しておりました。共に歩もうと思っておりました。私の出来る全てで支えようと思っておりました。

 ですが… もう以前と同じようには… 想えないのです。


お父様も、解消を承知して下さいました。

もっとも、精神的に落ち着いた時に後悔をするといけないから、と手続き自体はしばらくは保留となるようですが。



そうして。婚約解消の意思を国王陛下にも伝えて頂き。

あの悪夢としか思えなかった出来事も殿下方のことにも、過去として区切りがつき、ようやく気分的にすっきりいたました。

未だに殿下たちと体格や髪の色が似た方に近づかれますと、体が竦んでしまいますが、他は少しずつ元通りになっていっております。


もうこれで終わり。私はそう思っておりました。


殿下方が公爵家に押しかけていらっしゃるまでは。



あの騒動から半年ほどたったある日。

意識がはっきりしてからは3か月ほどですが、日常生活でなら、大分以前と同じように振る舞えるようになりました。


天気が良いので庭で軽食を取っていますと… なんだか玄関の方で騒ぎが起きているようで。

あまり歓迎の出来ない訪問者などでしたら、護衛を兼ねている従者がすぐにお帰りいただくはずなのですが…

聞こえてくる声からすると、そういった荒事には出ないはずの初老の執事頭が対応しているようで。

しかも丁重に断ろうと苦慮している様子が。


不思議に思って、ちょうど食事の終わったところでしたから、うっかり見に行きましたら…


 リアーオ様!? オセロン様まで!?


驚いて、凍り付いたように動けない私に… オセロン様が振り向いて。そしてリアーオ様も。

私を認めて、嬉しそうな顔になり。そしてハッとしたように申し訳なさそうな顔になって。


リアーオ様は、執事頭を押しのけ、私に近寄り手を取って。

 ええ、以前そうしていたように。

「コルディリア、申し訳なかった。あんな女に騙されて君を疑うなど。どうか許してくれ。もう一度、やり直すチャンスをくれないか」


その言葉を、私は聞くことが出来ませんでした。


あまりにも以前通りな笑顔。それに重なる半年前の冷たく蔑んだ顔。

取られた手は氷のように冷たくなって震えが湧き起るのを止められず。

そうして息が苦しくなって、息を吸おうとしてもなぜか吸うことが出来なくて、苦しくて喉を掻きむしって…


 気付いたら、まるでいつかのように寝台に横たわっておりました。


ちなみに修道院に送られた彼女の末路…


しばらく冷遇された後、それなりにのた打って苦しむタイプのを盛られ、病死しました…。


主催者その1:怒り狂った公爵家当主

   その2:やらかしたの息子なんだけど、その元凶にも当然お怒りの王様。それに、公爵家へのお詫びもしないといけないので。

傍観者:真実を知って呆然としている王子その他

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