表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

4月

 ――今期のアニメは当たりだ。

 俺は部屋にある小さめのテレビを食い入るように見ながらそう思った。

 深夜にやっている『ふたりは魔女っ子!』は、魔法使いである主人公たちリリアとマノカが敵と戦いながら成長していくという王道なアニメである。

 俺はたくさんいるキャラクターのなかのシュリちゃんがとても好きなのだ。いや、好きという言葉では表せないくらいの気持ちである。

 シュリちゃんはリリアちゃんの双子の妹だ。二卵性のため似てはいない。水色のツインテールで、たれ目気味の青い瞳。天然なリリアちゃんの妹だからかしっかりしていて成績優秀のとてもいい子だ。


 今俺が観ているのはシュリちゃんが初めて登場した回。体操服を忘れた姉にそれを届けるシュリちゃん。

 ――ああ、やっぱり可愛いな。


 暫くして、今回の敵が現れた。仮面を被った中ボスキャラだ。中ボスと言うくらいなので勿論強く、リリアちゃんとマノカちゃんは苦戦していた。


 ――必死になって応援しているシュリちゃんは凄く可愛い。


 そしてもうこれまでか……そう思ったとき、王子様が何処からともなく登場して彼女たちを助け出した。


 王子様――ピンチの時に助けてくれる、正体不明のヒーローだ。王子様のようにかっこよく、マントを身に纏っているのでそう呼ばれている。


 俺は王子様の顔がアップになったときに、リモコンの停止ボタンを押した。というのも、この顔にどこか見覚えがあったからだ。

「誰だっけ……」

 金色できらきらと光るブロンドの髪。少々つり目だが雰囲気によってか優しそうで綺麗な顔。

 いつもならすぐ諦めることなのに、今回は何故こんなにも気になってしまうのか。


 ――どきっ


 これだ。

 どうしてか王子様を見ると、シュリちゃんを見たときに似た感覚に陥るのだ。今まで男性キャラに対してはこんなこと絶対になかったのに。


 リモコンを駆使していろんな角度から王子様を見るものの、一向にわかる気がしない。そして彼を見るたびにおかしくなる心臓。

「っだああーー!」

 ついにイライラして頭を抱えてベッドに転がる。心なしか顔が熱い。くそ、なんでこんな。俺が男キャラにときめいてんだよ!

 狭いベッドの上でごろごろとのた打ち回っていると、誰かが部屋のドアを開けた。


「お前なにやってんだ?」


 その声に俺は飛び起きた。

「え、須田? ……何でいんの?」

 須田奏太(すだそうた)、俺の……恋人様だ。オタクな自分と所謂(いわゆる)不良の須田。いっけんつながりのないような俺たちはあるとき出会い、そこからいろいろあり恋人という関係になっている。(いろいろ、というのは恥ずかしいので俺の口からはいえない)

「何でって、遊びに来たんじゃねーか」

「ふーん」

 にやりと笑う須田から目を離し、またベッドに寝転んだ。

 こうやって須田は結構な頻度で家に来る。母さんも何年かぶりの俺の友達に喜んでおり、須田のことをおおいに気に入っているらしい。

 リモコンの再生ボタンを押し、王子様のアップでとまっていた画面が動きだす。須田が来たことで諦めが付いた俺は、もう停止させることなくぼんやりとそれを見ることにした。すると須田がぎしりとベッドを鳴らしながら覆いかぶさってきた。

「なにテレビ見てんだよ。かまえ」

「はー? 勝手に来ておいて何言ってんだよ。俺はこれを観てんの、邪魔すんな」

 ひじでぐいぐい押すも、俺と須田の力の差は歴然としている。須田はそのままぎゅうっと強く抱きしめてきた。たちまち王子を見た以上の不整脈が俺を襲う。おい、ふざけるな。心なしか顔が熱いのは気のせいだと思いたい。

「ちょっ、おいっ、離せよてめぇ……!」

「やだ」

 鼻を首にこすり付けてすんすんするのがこいつの癖。いい匂いではないはずなのに、何が良いんだか。こそばゆいがこうなった須田はどうすることも出来ないのでそのまま放っておくと、あろうことかこいつはにおいをかぐどころではなく、そこに歯を立ててきた。

「おいおいおいっ! 流石に、やめろ!」

 じたばたしようとする手足を封じるようにさっきよりきつく抱きしめて噛んだそこをべろりと舐めたかと思えばぱっと腕が離れ、仰向けにさせられる。


 閉じていた目をゆっくり開く。そこには窓からの光をうけてきらきら光る金色の髪を揺らし、微笑む王子様が。



「……あ」


 もやもやが消え去った。そうか、そうなのか。すっきりとしたためかすとんと身体から力が抜けた。自然と頬も緩む。すると須田もにやりと不敵に笑い、おれの緩んだ頬をなでて言った。



「そういう顔は可愛いんだよなぁ、椋蒔は」


 俺はそれにむずむずとくすぐったい気持ちになって、それを隠すようにお返しにと須田の首に噛み付いてやった。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ