アルの生存代償 —始まり—
四体のエンジェルを捕らえ、魔界に帰還しようとしたハデル達だったが、突如現れた謎のアークにザクロがやられてしまう?!
そのアークの正体とは――――?
いつの日か、私達は自身がこの世に生を受け持ったことに対する代償を支払わなければならない。
それが、どんな形でいつ私達の前に現れ、またどんな償わせ方を強制してくるかは分からないけど、
万が一があったとしても、それは、目を逸らしてしまいたくなるほど悲しく、残酷で、不条理なものなのだと、私は思う。
*****
何かが焼き焦げる匂いが、私の鼻をついた。
ボオオオオオ…という音が耳の奥を支配し、今日もなかなか寝付けそうになさそうだ。聞きたくないとわかっていてと、私は鼻を耳を塞ぐことは出来ないでいる。それ以上に、目の前の光景に釘付けになっていたから。
前、母が作る料理はいつもいい匂いがしていたので、聞いたことがある。
「どうしていい匂いはするの?」
母はテーブルにたくさんの美味しそうな料理を置きながら、私に答えた。
「それはね、アルやお父さんのために美味しくなあれ、美味しくなあれって思いながら作るからよ。」
「私は美味しいの?」
母は笑いながら答えてくれた。
「お母さんね、アルとお父さんのために料理を作ろうとすると、いつも美味しく作ってあげなきゃって思うの。」
「私のおかげ?」
「ええ、いつもママの料理を美味しくしてくれてありがと。」
その一言だけで、まるで自分が偉い人になったようで誇らしく思った。
「でもパパの料理あんまりおいしくない。」
同じ台所に立つ父に向かって呟いた。
それは同時に私を思ってくれていないことだと思い、少し胸が重くなった。
すると、母と父は二人とも笑いだして、母が私を抱き上げた。
「そうね、パパはお料理が下手だからねー。」
「下手だと美味しくないの?」
「パパがお仕事してるお陰でママもアルも美味しいものを食べられるんだぞ」
「あら、誰が料理してるから美味しいものが食べられてるんですか?」
二人が笑う。二人が笑うから、私もつられて笑った。
そして、テーブルいっぱいに並んだ美味しそうな料理を三人で椅子に座りいただく。それが毎日だった。
でも、一つだけ思う事があるんだ。その匂いとこの匂いには、違うところがある。それは、あまり美味しそうな匂いがしないことだ。
視界全土に赤とオレンジ。風に揺れるカーテンのようにゆらゆらとなびいて踊ってる。
普段なら楽しそうだと目を輝かせているのだが、なぜだか、幼き頃の好奇心は現れなかった。
暑い。
それは熱だと実感した。すべて熱。もう一歩、先に進めば焼けてしまいそうなほどの熱。
私はこの熱の正体を知っている。
母がいつも料理で欠かさず使っていたもの。それは。
————————火。
あんなに小さかったものとは思えないほどに、巨大で恐ろしく私の行く手を阻む。
火はいつも私の食べる食べ物を美味しくしてくれた。
でも、この火は違う。
息苦しい。暑い。怖い。嫌だ。
それにこの火が焼いているのは美味しいけど美味しいものじゃない…!
———私の家。
私とママとパパの、家。私の、ママとパパ………
———どうして———
わからない。どうして自分の家が燃えているのかも。私は何をしなければならないのかも。
「どうして」
ただ、それだけ。
「どうして、殺そうとするの」
朱く染まる空の下、少女の疑問だけが孤影していた。
それを答えてあげるものも、どこにもいない。
ここから彼女の悲惨な悲劇の成長が幕を開けることになるのだが、それはまた、別の機会に。
長らく休載してしまい、大変申し訳ありませんでした!
普段とは一日早く更新させて頂きました。今回は短いですが、次回からはいつも通り毎週月曜日の更新とさせて頂きます。ぼちぼちキャラ絵もTwitterの方で載せていこうと思っていますので、よかったら覗いていってください→(@ALSECT)
これからも、アフターカタストロフこと、アフタカを、よろしくお願いします!




