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アフターカタストロフ  作者: 優
天魔境戦争編
4/33

1

 アザレス。またの名を、果ての地と呼ぶ。

 その大昔、ここは緑溢れる広大な自然で生い茂っていたという。多くの種族が互いに共存し合い、平穏を保っていた。ここが、天界と魔界の境にある地だとは知らずに。

 第一次天魔境戦争により多くの生命体が死に絶えた。それは、生涯この場所に留まるはずだった植物たちの息吹さえ、根絶やしにしてしまった。以後、二度とここに生命の種が宿ることはなくなった。

 こうして、無残な過程を経て、双方の前線区域へと変貌を遂げたのだ。




 いつかの白骨化した動物の頭部を、平然と踏み潰してザクロは先へと進んだ。一歩後に、その背後をハデルが歩く。

 延々と続く荒野には目もくれず、彼女は僅かにひびの入った地面を凝視しながら、夢のことを考えていた。


 安心したように微笑む父の姿。私に何かを伝えようとしている・・・。


 だが、その場面は一瞬で消え、また、いつも通りの地面が現れる。


 あのとき。あのとき、父さんは私に、何を伝えようとしていたのだろう・・・・・


 何度も何度も頭の中で父との会話を再生するが、答えは出ないまま。代わりに、あの(おぞ)ましい記憶が呼び起こされた。


 世界は真っ赤だ。まるで赤いレンズの眼鏡をかけているかのように。赤と黒、二色だけが生まれたワンダーランド。

 黒い大きな影にもみくちゃにされそうになりながら、幼き頃の私が前へ手を伸ばしている。眼を限界にまで見開き、ひどく泣きじゃくっていたのを覚えている。

 その先には、囚人の如く跪かされ、鎖に繋がれた父のシルエットがあった。

「大丈夫だよ」そう言いたげに、父は私に微笑み返す。

 不意に、父に遮られて言えずに終わってしまった、あの夢が呼び起こされる。



「だからね、私も大魔王さまみたいに強くなりたいの、ううん、なるの! そしたら———」


 父さん。私、強くなるっていったよね? 大魔王様になるって・・・・・それはね、そしたらね・・・

 父さん。私は、あなたをこの手で守ることが出来たかもしれない。


 私の静止の声にはまったく反応を示さず、振り上げられた凶器が、彼に最期の判決を下す—————




 ———————ドン!


 突然。鼻に何かが衝突した。その反動で、我に返ったハデルはそのままバランスを崩し、地面に尻もちをつく。


「何やってんだ? お前」


 鼻の先を抑えながら、地面に這いつくばる彼女に、ザクロは不思議そうな顔をした。その態度に、いきなり足取りを止めたことに同様、彼に文句を言ってやろうと前を見るが、途端、絶句した。


「着いたぜ、第一防衛ライン」


 ザクロの怪しげな口調を続いて、その先には、(おびただ)しい数の魔獣の群れの死体が転がっていた。

 留意することも忘れ、立ち上がって死体の山を見る。


「・・・どういう、こと?」


「さあな、いつもならまだ交戦中のはずなんだが。なんだ? この有様は」


 苛立ちを覚えながらも、彼の表情には笑みすらあった。




「完全に俺たちが圧倒的に負けてんじゃねえか。敵の死体が一匹も見当たんねえよ・・・」


 そう言うと、ザクロは一頭の魔獣に近づき、何やら体を調べ始める。


「なにしてんの」


「知りたかったら敵が来ねえように辺り見張ってろ・・・」


 少しむかっとしたが、腕を組んで周りに目を張った。

 周囲には、私達二体以外の生存者は確認できない。獣独特の臭いと血液が絶妙に混じり合い、ハデルの吐き気を誘う。


「・・・やっぱりそうか」


 後ろで一体、納得したかのようにザクロが魔獣から手を放す。その声に、振り向く。


「なにが?」


 すると、魔獣の傷口に指を指した。


「よく見てみろ」


「?」


 嫌々、その傷跡を覗く。

 肉体は刀か何かで斬り刻まれ、致命傷となったであろう腹部の傷からは、今だに鮮やかな赤い液体が途切れ途切れに、地面に流れていた。


「まだ新しいんだよ。それに、僅かだが体温もある」


 そう言って、ハデルに首を向ける。


「・・・俺達、ついてるぜ?」


 それが今、何を表していることなのかを考えたくない。私は再び、周辺を見渡した。


「きっともう俺たちの居場所はバレてるさ。こんな壁も何もないところで、逆に見つからねえってのがおかしい・・・つまりだ」


 ハデルはすぐに行動ができるように、組んでいた腕を下す。


「戦いはまだ終わってねえってことだろおォ?!!——————」


 大空に向かってザクロが叫ぶと、彼とハデルを囲むようにして、白装束を身に纏った三体の天使が現れた。




「・・・・・」


 無言に、ザクロの目だけが天使達を見る。

 その背中には、それぞれ純白の翼を二枚生やし、その手には形は違えど、銀色に輝く凶器が握られていた。


「・・・おや? どうして、悪魔ともあろうお方達が、こんな物騒なところで何をしておられるのです?」


 天使の行動を伺っていると、ハデルの前方に現れた天使が問う。

 見た目から、まだ少年だと思われる。眼鏡を掛け直しすと、こちらの手の内を探っているようにも見えた。せめて武器だけでも警戒したかったが、(くるぶし)まで伸びたマントが、それを阻む。


「すでに、今回の攻防戦は終了しました。早急にお帰り頂ければ、別に、危害を加えるつもりはありません」


 今度は、ザクロから見て斜め右の少女が答えた。

 おっとりした感じで、見るからに戦闘には不向きな印象を抱かせる。だが、その見た目とは裏腹に、腰には二つの刃物が忍ばされ、その奥には鎖らしきものが見えた。


「あぁ? だからなんだっていうんだよ。俺たちはただ、デートしに来ただけだぜ? 魔界ないじゃ、二体きりで静かになれるところが滅多にねえからよ。ここなら安心して、ハネムーンを満喫出来ると思ったんだけどなあー・・・」


 いや、違うだろ。なんだその地味に深い設定。


「そうだったんですか、これは大変失礼を・・・」


「いや違うでしょっ?!」


 先程の少女の答えを、斜め左にいた少女が批判する。

 その姿は、凛としていて落ち着いた出で立ちである。両手には銀色の杖のようなものが握られ、先端には水色の水晶が浮かんでいた。


「・・仮に彼女だとして、彼女さんは乗り気じゃなさそうに見えますけど?」


 ザクロがこっちを見る。背中合わせのため、ハデルの愛想の尽きた表情は見えなかった。


「やっぱりダメかよ・・・」深く溜息を零し、ぽつりと呟く。


「それで? どうします・・・」


 こちらを睨みつけながら、男が返答を求める。しかし、そんなことなどお構いなしに、ザクロは続けた。


「てめえらこそ、ここでなにお楽しみしようとしてんだ? 初めての野郎共はお家のベットの上でギシギシ震えてろ。こっちはあんたらには用はねえんだよ、出来立てほやほやのエンジェルさん達、にはな」


 ザクロの最後の発言に、天使たちは驚愕した。

 エンジェル。それは、彼らを下級天使と表している。しかも出来立て、昇格したばかりということだ。

 明らかに先程までの見下した表情とは対照的に、天使たちの顔には恐怖さえ浮き上がっていた。意表をついたことに勝ち誇ったようにザクロが笑みを浮かべると、もう一言と、口を開く。


「・・・で、どうする?」


 だが、それは天使にではなく、仲間のハデルに向けられたものだった。


「なんで私に聞くわけ?」


「ほかに誰がいんだよ」


「さっきまで、私が眠りこけてたら、自分だけでここに行く気満々だったくせに」


「それはそれだろ?」


「おいッ————!」


 突然、男が叫んだ。


「私の質問には無視ですか? こちらは真剣に聞いているんですよ。なんなら、今すぐここであなた達を————」


「うっせえなッ?! こっちは作戦会議中なんだよ。わかったら話しかけんな、この手羽先がッ!」


 男の言葉を遮り、ザクロが叫んだ。

 一瞬の間の後「て、手羽先・・・」と、叫んだ天使が呟いた。




「・・・じゃ、全部俺に任せてくれるんだな」


 そう言うと、ザクロは肩を回し始めた。


「遠征での戦闘は極力・・・」


「最小限だろ? こいつはその最小で起きたことだ。それに、あっちはやる気満々だと思うけどな」


 ザクロが男を見ると、それに気付いた彼は再び眼鏡を掛け直して問う。


「交渉の余地は、ないということでしょうか・・・」


「無名なのが少し気に食わねえが・・・まあ、いいだろ」


 辺りに、いやな緊迫感が走る。


「私、知らないからね」


 ザクロにそう告げると、ハデルは自身の羽を大きく広げた。そのままどこか離れた場所に避難しようとした瞬間。「仕方ない」と天使が言うと、高々と手を上げた。


「「?」」


 何かの合図なのか、ハデルも飛ぶを一時止め、注目する。だが、その意味はすぐにわかった。

 上空に重い空気を感じ、上を見上げる。

 分厚い雲に覆われた空だったが、その隙間から太陽の光が漏れ、逆光のためよく見えない。だが、確かになにかがこちらに近づいてくる・・・

 それは銀色の騎士風の鎧に身を包んだ天使だった。盾と剣を構え、二体の悪魔に狙いを定め、落下してくる。

 軽く舌打ちをし、ハデルは大きく羽ばたき、ザクロもまた、攻撃範囲をぎりぎりで交わした。すると、武装した天使の剣はそのまま地面を砕ぎ、亀裂が走ると土煙が発生する。

 視界が不安定だが、なんとか地盤が崩壊していない場所を見つけ、そこに着陸する。すると、ザクロも遅れて背中合わせにやってきた。


「今のご気分は? ハデル様」


 後ろで、ニヤニヤとした面で問いかける。

 そんなの、わかってるでしょ?

 もはや手につくような状況じゃないことに、もっといい方法があったのでは? と後悔しながら、感情を言葉で表す。


「最悪よ、なにもかも」


 初めての出陣が。どうしてこんなことになってしまったのだろうと切実に思いながら、彼女はそう吐き捨てた。

 嗚呼。反省文書きたくないな—————・・・・。

アル「天使の先行攻撃により始まった小さな戦争。やり気ではないハデルは戦闘のことよりも、始末書を書くことに頭を悩ましていた! だが、そんな彼女達の前に新たにもう一体の天使が現れる。さて、ハデルは無事に始末書を書くことが出来るのか? 次回をお楽しみに!」


ハデル「いや、なんであんたが次回予告してんのよ。あんたの出番はまだでしょ?!」


アル「はあッ?! どうせ次ぐらいだろうが! 回想シーンとか流しやがって、一話目終わりそうで終わってないじゃないか!」


ハデル「ネタバレやめろっ!!」


次回も、よかったら読んで下さい。

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