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今作品の第7部における「アルの生存代償ー始まり」を大きく改稿させて頂きました。振り返りということで、読んでいて下さい。
看護部長と別れた後。上への報告を済まし、カイトは次の仕事があるからと、二人はその場で一旦別れた。一人で歩くには少し広い廊下で、アルは先程マタニティが教えてくれた悪魔と、アザレスで会った長い黒髪の悪魔を重ね合わせていた。
(あいつが……)
その時の彼女の様子を思い浮かべながら、アルの問いかけに告げた言葉を、未だに忘れられずにいた。
別に、仲間じゃない。
そのセリフを思い出すだけで腹が立つ。知らず知らずのうちに包帯の巻かれた両方の拳を握り締め、廊下の十字路を真っ直ぐ通ろうとした時だった。
その曲がり角の横から、小さな影が飛び出してきたのだ。下を向いていたこともあり、反応に遅れそのまま影とぶつかっていまう。
「っあ、すいませ……」
見た目から子供か、体格差もあることから倒れると思った。
その通りに、そのフードを被った子供は接触によりバランスを崩し、転倒の道を歩み出していた。その時、ひらっと浮いたフードから、こちらを飴色の瞳が覗いた。
そう思うと、途端なにかに弾かれたかのように、子供はバランスを崩した方の足を回転させ上体を前へと戻し、床を強く踏みつけ、アルを見上げた。
「———っ?!」
あまりの唐突の出来事に、アルは肩をすくめた。
「………あ、あの……」
「あなた、いい匂いがする。」
男性とも女性とも言い難いその喋り方に、戸惑いを覚える。流石に気まづいと、距離を置こうとするが、途端、両腕を掴まれる。外見から想像もつかないような腕力で、いくら力を入れてもびくともしなかった。
「…っ」
その後も、いくら腕を引き離そうと無言にもがくが、その小さく細い手が離れていくことはなかった。そうしているうちに、地面から足が浮くんじゃないかというまでに背を伸ばし、アルの顔に近づいた。
「…っ」
不気味さを感じ、思わず顔を引きつるアルに、フードの主は小声で呟いた。
「血のにおい」
その一言に、思考が停止する。
そして、それを見計らうかのように相手は続ける。
「でも、あなたのだけじゃない。家族? 友達? それとも、恋人?」
肌と肌が接触するぎりぎりまで間を詰めてくる。
「教えてちょうだい、あなたの全部……」
そこで、アルは縦に鋭く尖った瞳孔の瞳を見た。
「お前っ———!」
悪魔だと直感した瞬間。体が動かなくなったのを感じた。その見てか、敵の口角は徐々に上がっていき、
「キュイ———っ?!」と甲高い声と同時に、小さな影は視界から消えていった。一気に体に力が戻り、逆に床にヘタレ混んでしまう。
その小さな体は何かに衝突したのか、その反動で奥の壁に突き飛ばされていた。
(なにが———)
そう思うと、ばさっとアルの前を、黒いスーツを着こなした何者かが着地した。
それはゼフだった。息一つ乱さず、壁に叩きつけられた敵を見た。
その姿に安堵の表情を見せ、「ゼフ、さ——」と、すぐさま話しかけようとして留まった。彼から今までに感じたことのないようなただならない空気を感じたからだ。
ゼフはこちらを呼びかけることなく、亀裂の入った壁に寄り掛かるイデアに近づていった。
その後ろ姿を見ながら、アルは心の中で、一瞬、怖かった。と呟いた。
壁に頭から叩きつけられ、僅かに額から血を流しながらも、イデアは、それでもゼフに微笑み返した。その表情には、どこか喜びを含んでいるようにも見えた。
「懐かしいわね、あなたのその表情……久々に高ぶっちゃっ——」———ジャアッッ!!
ゼフが横に左腕を振り払うと、何かが切り裂かれる音と共に、彼らのいる壁と床に赤い液体が稲妻の如く飛び散った。
その音と光景に、アルは思わず身震いし絶句した。
後になり、イデアは自身の視界が暗転し、股の付近に生暖かいものがそのから滴り流れ落ちていることに気が付いた。
「あアァ……」
「二度はない」
冷静に告げるゼフに、先程の衝撃音を聞きつけてか、なんだなんだと、廊下の周りには人だかりが出来ていた。
「あら、随分賑やかになったわね」
視界が使い物にならなくとも、イデアは聴覚だけで周りがどういった状況下にあるのかを聞き取った。
「おい、あれって十三部隊副隊長のゼフじゃね?」
「なんか、あったのか」
「なに、喧嘩?」
「壁に寄りかかってるやつは誰だ?」
その声とともに何かが近づいてくる音を察知し、むくりとイデアは上体を起こした。
そして、前にいるであろうゼフに微笑みかけ言った。
「あなたとの追いかけっこももうちょっと楽しんでもよかったけど、お別れね。」
その時、再び彼の体が霞みがかり背景と同化し始める。
「……ハズレを引いたけど、いいものも見つけたから来てよかったわ。じゃあね、赤目のお兄さんと可愛い天使ちゃん♡」
手を振りながら、イデアはそのまま消えていった。
やはり、部屋で最初に見たのが本体。そう思った頃には、時はすでに遅かった。
取り残されたのは、ゼフとアルそして十字路に敷き詰められた野次馬達だけだった。
「今のは…」
未だに状況が把握できず、アルは床に座り込んだまま血液が付着した壁を眺めていた。
「悪魔だ」
こちらに歩み寄りながら、返り血を浴びた左手を、懐から出したハンカチで拭きながらゼフが答えた。その素顔には、先ほど感じた恐怖感はなく、いつものゼフがそこにはいた。
「悪魔…? ……っなんで。ここは、中ですよ……?」
「知らん。だが、入ったことに変わりはない。誰かが手引きしてたこと以外考えられない……」
「それって、」
言おうとしたそのとき、野次馬たちがいっそう騒がしく動き出した。その群れが真ん中から左右に別れると、三人の黒いラインの入った白装束を身に纏った天使が現れた 。
「おい、あれって……」
廊下の端へ避けた天使の一人が呟くと、先頭を行く鋭い形相をした男は、ゼフとアルの前で足を止めた。
最後まで読んでくれてありがとうございました!
今回で、第4話は終わりになります。そして、いよいよ次から第5話ということですが、その前にここまでに登場した子達や専門用語などを紹介しようと思っております。
次回も、アフタカをよろしくお願いします。




