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切りが悪かったので、今回のところは二つに分けることにしました。短めです。
静かな病室に、一つの怒号が飛んだ。
「いいか! もう二度と、金輪際! こんなことはするな!!」
肩を埋めるチサ、マーク、ミラ。そして病室のベットで横になるシオンは、アルの説教が終わるのを只々待った。聖堂であったときの口調とは違い、男勝りでこれでもかと張り上げられた声は、より彼らとアルの間に気まづい空間を作り上げた。
「てめえらの命は、残ってたかもわかんなかったんだぞ。もっと自分の行いに責任を持てッ!! 仲間が犯そうとしていたなら反対されても止めろッ! バカ!」
「ごめんなさい」シオンを除いた三人が、アルの威圧に耐えかねて頭を下げた。
「まあ、そんなに怒鳴らなくても。彼らが一番の今回のことで反省してると思うよ」
そう言って輪に入ったのは、アル達がここへ運ばれるところを偶然見つけたカイトだった。
「カイトは…」「さん、ね」
「甘いんだよ。起きてからじゃ遅いんだ…まあ、口で言っただけじゃあ伝わんないのは分かってる。いい経験になったと思うし、何よりその経験で死んでないのがもっといい経験だ。だから……次はないと警告してるんだ………」
そう言い、アルは治療のお陰で右腕を取り戻したシオンを見た。
「………わるかった……………」
流石のシオンも、今回の出来事で実感したのか、アルに反発することなく頭を下げた。だが、彼女は納得のいかない険相でシオンに問いた。
「それか? それだけか? んんー? お前が言うことは? ああ?」
反省はしているものの、流石に我慢の限界がやって来たシオンは、ばっとアルに顔を上げ何かを訴えようとした時「違うだろ。」とアルが先に出た。
「私じゃない。こいつらに言うんだ」
そう言い、シオンの前に正座させられたチサ、マーク、ミラの三人を指した。
「こいつらにも悪いところはある。仲間であるお前の行動を止められなかったんだからな。だが、その元凶であるお前が一番悪い。身勝手な行動をしておいて、さらに危険な目に会わせた上に、死にかけてるお前が一番悪い。」
一つ間を空けて、告げた。
「……もしだ。もし、私が助けにいけなかったらどうなってた? 私の助けが遅かったらどうした? シオン、お前はきっと切断された腕の出血で死んでいただろう。………だが、お前の仲間の、チサ、マーク、ミラはどうなった?」
言われなくてもわかっていた。シオンは俯きながら、自らの鼓動が強く脈打つのが分かった。
「生け捕りにされてたんじゃないのか? 殺されてた可能性もあっただろうが、私がお前たちを見つけたときは完全に持ち帰る気満々だった気がするが、………私は魔界に連れて行かれた天使がどうなるかは知らない。だが、敵である以上、歓迎されるわけがない。知らいものほど、恐ろしいものがあるはずがない。お前は、お前たちは自らその知る由もない恐怖へ進もうとしていたんだぞ」
淡々と話す彼女に、先程までの圧力はなかった。
それほどのことが起きようとしていたなんて、まだ幼い彼らは考えもしていなかった。それが自分達の命に関わることとも思わなかった。
自分はただ、すぐに次の階級に昇格できることだけを考え、そのためには大きな手柄を立てようと行動をしただけ。その先走った思考が、シオン自身の腕を切り落とした結果になったのだが。
今でも、この腕が存在するのが嘘のように感じるシオンは、包帯の巻かれた自らの右腕を見て、強く目を閉じた。
そして、再び開くと、マークやアル達に向き「ごめんなさい」と深々く頭を下げたのだった。
思いもしなかった姿に、彼を知る仲間は驚いた。
「分かればいい、分かればいいんだ。次また同じことを繰り返さなければ……」
何度も頭を上下に動かし、安心したかと思ったアルだったが、次の瞬間。「だがッ!!」
「私は許さん!! こっちは任務に加えて隊長まで押し付けられて、てめえらの援護セットだ! なのに……なぁあに軽ーく死にかけてんだよッ?! バツとしてお前ら全員笑い袋の刑だァア!!」
鬼の形相で今にも襲い掛かりそうなアルを、直前でカイトが止めに入った。
「その前に報告だ、今回の報告! ……じゃあ、君達は十分に休みたまえ。ではまた次の前線のとき…!」
と、アルを連れその場から離れようとする。
「覚悟しとけよぉお?!」と言うアルの一言と共に、出入り口の扉がバンっと強く閉められた。
「………」
少しの間の後、肩の荷が下りたのか勢いよくシオンが枕に背中を落とした。
「っなんだよ。こっちはマジで謝ってんのに、私は許さん、とか。相変わらず腹立つぜ……」
「それだけ、私達のことを思ってくれて言ったんだと思いますよ」
「ただ、自分の立場考えて私達を死なせたくないのかもよ?」
「そんなことないよっ! もし、そうだったら……あそこまで体張らないよ」
今回、初めてのアザレスでの支援の出来事。自分達の勝手な行動ながら、九死に一生をえた彼らは、チサに、返す言葉もなかった。
そして、もう二度とこんな事が起こらないよう、其々が心にある誓いを立てるのだった。
場所は病室の扉前。病室を後にしたアルとカイトの姿が、そこにはまだあった。
「なにも、あそこまで言わなくてもよかったんじゃないか? アル」
カイトの問いに、アルは背を扉に軽く寄りかけて小さく「………あいつらに、じゃない。」と呟いた。
「自分に言い聞かせてたんだ。あいつらにも非の打ち所がないわけじゃないと思うし、むしろ命令違反だし。」
扉の前にあるステンドグラスを見上げ、それよりも遠くを見据えるかのように、再び切り出した。
「何より、そんな彼らの側にいなかった……私の責任だ」




