表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アフターカタストロフ  作者: 優
天魔境戦争編
2/33

ハデルの夢 -失わされた記憶ー

「どうして、殺しちゃいけないの?」


 まだ幼かった私には、何が正しいことで、悪いことなのかを理解するまでの意識はなかった。ただ、目の前の幸せに溺れ、時の流れに身を任せることで生き永らえてきてきた。本能のままに行動し、なんの罪悪感にも晒されず、自分よりも弱いと判断したもの達を手にかけて。

 いや、そう学ばされている?

 それを、自分と同じ命あるものだとも思わなかったし、思ったころで後の祭りだった。生命は生まれながらに犯罪者である。ただ、それを実感しない———実感できないのだ。

 それが、自身を成長させてしまう過程なのだから。



 ******


 ———夢を見ている。遠い、楽しかったあの頃の記憶。


 風に、(ほの)かに花の香りが漂い、少女の長い黒髪を通り過ぎていった。

 それは、まるでじゃれついているかのように、彼女の周りに吹き続ける。それが堪らず気持ち良いのか、瞼を閉じて、その感覚に浸っている。

 目を開けると、希望と光に満ちたその瞳の先には、壮大且つ、多彩で心奪われる景色が広がっていた。胸が一気に高鳴り、息を吸うことさえ忘れてしまいそうだ。

 地平線にまで続くお花畑。少女の瞳色によく似た青く澄んだ空。温かい空気に優しい風・・・。

 自分の生まれたところとは正反対。そう思うと、恥ずかしさで前が向けなくなった。



 気付いた時には、私は草原を一心不乱に駆けていた。走ることでの無心を貫いていると、前方からやや強めの風が吹き、壁みたいに行く手を阻む。

 私は瞬時に、くるりと体を方向転換させ、両手を広げ背中全体でそれを受け止めた。何が面白かったのか、満面に微笑んだ。もう何にムキになっていたかも忘れてしまった。

 すると、誰かが私の頭に手を当てた。それと同時に、私を取り巻いていた風が止む。

 懐かしい感触。今でもよく覚えている。ゴツゴツしてて大きい、それでもって、優しい手。

 私は大声で叫んだ。


「父さん!」


 紛れもなく、そこには最愛の父の姿があった。だが、その顔は鼻から上が白い(もや)らしきものに覆われていて、表情は完全には覗えなかった。

 父の手は、私の両手を持ってしても、親指と小指を握ることで精一杯だ。父の手はいつも私を優しく包み込んでくれる。それがなぜだか好きで、私が泣いているときや悲しんでいるとき、父にそっと撫でられるだけで、すぐに泣き止んでしまう。まるで私のためにいるようだ。



 父の股の間に座り、お花で作った王冠を頭に乗せていると、頭を撫でられた。


「私、大きくなったら父さんみたいな大きな手になる!」


 父の手を両手で握り締め言った。

 それが、私の初めての夢だった。

 しかし、父は褒めてくれるどころか、大口で高笑いをすると、私の頭をいたずらに揺すった。


「お前は女の子なんだから、こんなにはならなくていいんだよ」


そう言うと、父は私から手を離す。

よくは分からないが、初めての夢を実の父親に拒まれた瞬間だった。だが、あきらめたわけではない。

ならばと、私は乱れた髪のまま、「じゃあ、」と父から降り、向き直って次の夢を発表した。


「強くなる! いっぱい、いっっっぱい強くなって、私、いつか大魔王さまになるの!」


 頬が赤くなっていくのがわかった。この夢を種に話すのは初めてだ。だからか、急に心臓の鼓動が早くなって今にも飛び出してきそうだったし、こんなにも恥ずかしいものなんだなと、改めて実感した。


「あのね、大魔王さまって凄いんだよ? たくさんいた敵の群れをね、こうやってしただけでね、全員倒しちゃったの!」


 そう言って、右手で風を払ってみせる。

 大魔王。それは私にとって力の象徴であり、父と同じくらい、憧れの的だった。私の知る世界で一番。最強の存在。私はそれになりたい。そうすれば、皆が私を認めてくれるだろうし、褒めてくれる。

 それに、


「だからね、私も大魔王さまみたいに強くなりたいの、ううん、なるの! そしたら———」


「ハデル」


 突然、父に呼び止められ、私は口を閉めた。

 どうしたんだろう、と思っていると、私の頭の位置にしゃがみ、肩に両手を添えてきた。そのときの父の表情は、笑顔すら見せてはいるが、どこか悲しそうだった気がする。

 

「ハデル、いいかい? これから父さんが言う言葉をよく覚えておきなさい」


 その後、すぐに「これは父さんとハデルだけの秘密だよ」と、付け足した。父が『秘密』と口にするときは、必ずいやなことの前触れだ。この前だって、私がベットにおねしょをしたことが母にバレ、凄く怒られたことがある。あのときは怖くて夜眠れなくなったくらいだ。だが、今回はそんな比ではないと、心がざわつく。

 私はちょっとした恐怖を感じつつも、その問いにうん、と頷いた。

 すると、安心したように、父の口元が緩み、

 そっと、口が開く——————


 それが、最愛の父との最後の約束になることだとも知らずに。

 どうも、作者のすぐると申します。今日は私の小説にお手を運んで頂き、読んで下さり有難うございます。一週間に一回のペースで更新してこうと思っていますので、よかったら今後も宜しくお願いします。

 誤字、脱字、矛盾点などありましたら、コメント欄などで教えてください。まだまだ未熟者なので、アドバイスもしてくれたら嬉しいです。次回は第一話を投稿します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ