ぼくのともだちが死んだ夜
ぼくのともだちが死んだ夜、
ぼくはこっそり森に歩いて行って、
ひとりぼっちで泣いていた。
満月みたいなぼくたちの心は、
きっと暗い水の底に沈んでしまったんだ。
ぼくは大声できみの名前を呼んだ。
すると片羽根のコウモリが、
楠のてっぺんからばたばた飛び立って、
水の中にぽちゃんと落っこちた。
なんてこと。
コウモリまで死ぬなんて。
涙が秋の雨みたいに音もなく降って、
水面にたくさんの光の輪を形作っていった。
それらはきらきらとアメジストの光を放ち、
やがて渦巻銀河のようにゆっくりと回り始めた。
中心に何かの影が見える…。
鰐だ。
大きな銀色の鰐が出てきた。
鰐はもみじの若葉のように、
静かに濡れた緑色の瞳で、
じっとぼくの両目をのぞき込んだ。
「ついておいで」
ふわり、
暗い地面をはね上がり、
鰐は夜空を飛んでいく。
星星はいっせいに集まって、
細い光の河となり、
ぼくたちの心のような、
あの満月へと流れていく。
ばくは鰐と共に、
月の世界にたどり着いた。
虹色の蛍が舞う、
永遠にたたずむ湖に。
風はしんとして、
青白い夜の底にうずくまり、
ぼくは水辺の柔らかい草を踏んで、
そっと湖の声を聴いた。
滑らかな細波の向こうに、
誰かの歌が聴こえる。
どこかで、
きみが歌を歌っている。
「ぼくの歌だ」
虹色の蛍たちはやがてはらはらと、
スノーフレイクのように溶けるだろう。
そして永遠に涸れない湖の、
光り輝く水になる。
太陽が東の空に灯る頃、
ぼくは暖かなうつし身の中で目が覚めた。
さようなら、銀色の鰐。
夢がさめる時、
きみは星星の間を流れる、
風のような歌になるよ。
この物語は絵本向けに書いたものです。シーンごとに絵のイメージがあるので、文章だけでこの物語を伝えることは難しいのですが、物語だけでも読んでいただきたいと思い、投稿しました。
この物語は「死んだ魂たちはどこに行ってしまうのだろう」という悲しい疑問から生まれました。そして死んだ魂たちは、歌のようなものになるかもしれないと私は考えています。何故なら、形を持たない歌は、人々の間で歌い継がれることで生き続けるものだからです。死んだ魂たちもまた、歌い継がれるように生き続けることができるのではないかと私は思います。