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第10話 再び〝会合〟

ようやく投稿。楽しんでもらえれば幸いです。



 天文19(1550)年12月 安房国 久留里城


 年末。

 今年もあと僅かとなり、里見義堯の居城、久留里城には〝会合〟に参加する武将が集まっていた。

 が、いつもと様子が違っていた。


「あ~、幸せ……」


 どてらを着こんだ五郎はゆるゆるにたるんだ顔で、未来での冬の必需品、掘り炬燵にほおずりしていた。その言葉通り、実に幸せそうな表情であった。


 この時代の建築技術では断熱効果などは高くは無く、暖を取るには火鉢か、服を重ねて着るぐらいだ。また、温暖化とは無縁の時代である。比較的温暖な気候の房総半島でさえ、冬は吹雪くほど非常に寒いのだ。


 その点、掘り炬燵は良い。

 足元は暖かく、姿勢も楽。綿製のどてらを着こめば背中も寒くない。正に至福。

 後はみかんがあれば言うこと無しだが、流石に見つからなかったらしい。

 代わりに生姜飴と、干し柿が乗っていた。


「これじゃない感が半端なくありますが……」

「まあ良いのでは?お茶請けにもなります」

「これはこれで良いでしょう。久々の甘い物です」

「しかし妙な光景だな、これは」


 いつものメンバーがそう言っているのを聞きながら、和紙に包んだ生姜飴を1つ取り出し、口に放り込む。

 ほんのりとした生姜の辛さと、蜂蜜の甘さが口の中に少しずつ広がり、更にふにゃりとだれていく。


「だれすぎだぞ、五郎」

「まあ良いでは有りませんか、義舜様。暖かいうえ、甘味やお茶もあればゆったりできますから」


 そう言うのは〝槍大膳〟との異名を持ち、諸大名からも評価の高い武将、正木時茂である。

 時忠の兄であるだけ顔もよく似ていたが、此方は美丈夫といったところだ。


「殿も気に入ったようですね」

「うむ。この掘り炬燵は日常では使えないが、偶にはこういう贅沢も良いだろう」


 いつもよりも穏やかな顔で義堯は言う。


 本日の〝会合〟には転生者たちの他に、里見義堯、正木時茂を加えた一同が集まっていた。

 全員がどてらを着て炬燵で暖まっており、茶を飲んだり、菓子を食べたりとのんびりしており、傍から見れば田舎町の集会のようだった。


「日常では使えないのですか?」


 館山に戻ったら自室に掘り炬燵を導入する気満々だった五郎が訊ねる。


「五郎よ。この姿を周りに見せられんし、刺客に襲われたら咄嗟に動けないだろうが」


 至極もっともな意見であった。


「確かにそうですが、普段も使いたい……」

「気持ちは分かるが、駄目だ」


 義堯は口ではそう言うものの、冬の間は暇があれば此処でゆっくりする気であった。

 当主である以上、周りの目があって色々と面倒で煩わしい時もあるのだ。自分の居城だからこの部屋を使って何が悪いとも考えていたが。


「まあワシも少しゆっくりとしたいから、早く始めるとするか。五郎、報告を」

「わかりました」


 寒いから出たくない、と内心思いつつも自身の今後も含まれるため、五郎は真面目な顔になり炬燵から出て立ち上がる。身体から熱が引いていくのを感じながらも報告を始めた。


「えー、館山湾の開発ですが、既に職人街、造船所、桟橋などの湾港設備は完成しております。後は防衛拠点として館山城、州崎砲台、大房岬砲台の構築が完了すれば一先ず終了いたします」

「どれぐらい進んでいるのだ?」

「館山城はほぼ完成しております。州崎・大房岬の両砲台は駐屯所と倉庫のみで、現在は城壁と砲台の建設に取り掛かっています」


 館山湾の開発は、当初とは違う形となった。

 まず、乾ドックの建設は取りやめとなった。予算が無く、現在の引揚船台で十分な事、また調査の結果、建設に適した土地が無いなどの理由から泣く泣く中止となった。


 浮いた予算と資材はそのまま館山城、州崎砲台、大房砲台の建設に充てられることとなった。


 舘山城は丘の上にあった五郎の屋敷を麓に移設し、空いた場所に建設されているが、これは里見家の権威を示すための城であった。周辺の地形的に敵は海から来るものと考えていたため、また水軍基地と交易地なため敵に上陸される前に迎撃する必要があり、水軍の強化に重点が置かれていた。

 そのため、館山城はそれなりの防御力があれば十分だと考えたためであった。


 今までの里見家の城らしく、岩盤を垂直に掘削した垂直削崖や曲輪、堀切を丘全体に巡らしており、コンクリート製の城壁と砲台を設置していた。

また、頂上には石垣を組み、4層の天守閣を含む複合式天守が建てられていた。住居を兼ねるために横に広く、ずんぐりした印象を受ける城となった。


 また砲台の建設される州崎、大房岬は海上交通の要所であったが、今までは誰にも見向きもされない場所だった。


 此処には簡素な灯台と灯台守の住む家屋だけがあったが、周りが断崖絶壁であり、特に州崎周辺は冬になると潮の流れが速く、現在の海図でも「激潮流注意」の記号が表示されているほど危険なため、水軍の基地には向かなかったのだ。


 しかし、館山湾の開発により、これを利用する計画が持ち上がったのだ。

どちらも館山湾の入り口にあり、船は全てこの周辺を通ることから航路防衛として最適な場所なのだ。

 煉瓦を積み上げ、型枠とし、これにコンクリートを流し込んだ分厚い城壁を設け、砲台を建設。岩盤を掘削した洞窟の中に倉庫や弾薬保管庫を設置した。

 兵たちが詰める家屋も煉瓦とコンクリートを使い、見た目的には横浜の赤レンガ倉庫のような感じになったが、これは五郎の趣味だった。


「また現在、造船所にて建造しているのは捕鯨用の弁才船[図南丸型]が2隻、捕鯨母船の[日新丸型]が1隻となります。就役次第、完全な西洋式帆船である[桜型]を建造しようと思います」

「現時点での捕鯨船の数は?」

「就役しているのは図南丸型が6隻、日新丸型が3隻となります。あと、捕鯨はやはり台風の時期を避けた方が宜しいかと。外海に出ている最中に嵐に遭遇して沈没でもしたら目も当てられません」


 実際に五郎たちが7月に調査を行った後、数回に渡って捕鯨船団が送られたのだが、その際に嵐に遭い、船が損傷し死者を出すなどの損害を受ける事態となったのだ。


「確かにそうだが、捕鯨期間が短くなるな」

「でしたら、図南丸型のみを日帰り出来る近場で操業するというのは?日新丸型も底引き網で漁をさせれば置物にはなりません」

「それならば低くとも安定した利益は出せるか」


 義堯も代案に納得する。

 ある程度の利益が見込めるならば、沈没の危険がある時期に捕鯨にこだわる必要もなく、弁才船の大きさは安宅船並みであり軍船にも使えるのだ。沈没でもしたら損失が大きいのは分かっていた。


「あとは捕鯨弩についてです。現場からの意見で鯨を捕獲するには威力と装填時間が問題とのことです。連装型か、捕鯨砲のように炸裂弾頭があれば捕鯨も容易になるかと」


 そう言って、五郎は実元を見やる。

 視線に気付いた実元は即座に頷き、話し出す。


「連装型は直ぐに取り掛かれますが、炸裂弾頭は無理ですね。水中で火縄式の時限信管は使えませんし、瞬発信管なら構造も比較的単純ですので研究と試作を重ねればどうにかなりますが……」

「連装型で対処するしかないだろう。金も時間も無いしな」

「では、職人たちに連装型の開発を命じます」


「ふむ。五郎、他には有るか?」

「いえ、有りません」


 五郎から一連の報告を聞いた義堯は軽く目を瞑り、考えを纏める。


「ふむ、聞く限りは順調のようだな。五郎、あとで新型帆船の設計図を持ってきてくれ。詳しい説明も聞きたい」

「はっ、了解しました」


 義堯としても、現状で里見家の利益となる行動をする五郎を評価していた。

 まだ元服しておらず、本人は面倒と考えているためか、当主になろうとする気も無い。また少数の家臣と共に館山に送られているため五郎を担ぎ出そうとする馬鹿もいないため、結果として分裂することも無い。

 この先はどうなるか分らないが、今のままなら安心できる、そう考えていた。


「では実元、兵器に関しての報告を」

「はっ」


 報告を終えた五郎と入れ替わり、実元が立ち上がる。


「まず、ミニエー銃である[十九年式小銃]の生産は500挺を超え、前線で使用する分は確保できました。また、大砲ですが山砲、野砲、榴弾砲の3種、弾種は通常弾、榴弾、榴散弾の3種類を使用します。口径は3寸(約91mm)、4寸(約122mm)になります」


 [十九年式小銃]は椎実型の銃弾を使用する施条銃であり、この時期の鉄砲の3倍の射程を持ち、命中率が高く、紙製の早合を使用すれば1分間に2発は撃てる高性能であった。


 大砲はライット・システムによる6条の施条が刻まれた施条前装式青銅砲であり、それぞれ[二十年式三寸山砲]、[二十年式三寸野砲]、[二十年式四寸榴弾砲]と命名された。

 砲弾に椎実型をした長形弾を使用する。これは砲弾の側面に施条に噛み合う突起があり、同口径の球体型の砲弾を撃ち出す滑空砲よりも2倍の重量の砲弾を扱え、長射程を持つようになった。


 「また性能試験の結果、小銃は最大440間(800m)、三寸山砲で最大1,430間(2,600m)は飛びます。他の砲は飛びすぎるので推定ですが、三寸野砲で2,200間(4,000m)、四寸榴弾砲で3,300間(6,000m)は行くでしょう」

 「ほほう、凄まじい性能だな。だが重いのか」


 どの火器も施条を行っているため高性能だが重く、高価であった。

 値段は3倍以上、重量も三寸山砲が67貫(251kg)、三寸野砲で186貫(698kg)、四寸榴弾砲で560貫(2100kg)はあった。


「主力となる三寸山砲と三寸野砲なら分解して馬に乗せるか、運搬車(リヤカー)で運ぶしかないでしょう。四寸榴弾砲は要塞砲として使用しますので特に問題は無いかと」

「ふうむ、五郎、軍船ならばどれくらい載せられる?」

「弁才船に載せられるのは四寸榴弾砲で最大6門でしょうか。三寸野砲ならば10門は大丈夫かと思います」

「しかし、銅は高いです。鉄でどうにかなりませんか?」

「鉄で製造した方が安いですが、試射中に砲身が断裂するなどまだ信頼性に問題があります。耐久性を上げようとすれば青銅砲より重くなりますし、流石にいつ暴発するか分らない大砲を使わせるわけにはいきません」


 青銅砲は鋳造で製造も楽だが、コストが高い。

 青銅砲が出る以前は鉄製の大砲は存在していたが、板状の錬鉄を溶接し、箍輪をはめ込んで筒状にする事で造られていた。密閉が十分ではなく、強度的にも難があり、鋳造は鉄を完全に融解出来るだけの高温に耐えられる炉が無かった。


 実元は火縄銃と同じ製法で大筒の生産も行っていたが、技術的に口径の大きさに限界があり、製造に時間がかかるなど問題が多かった。


「製鉄関係を強化すると聞いているが、そこはどうだ?」


 義舜に製鉄関係を聞かれた実元は憂鬱そうな顔になる。


「……平炉の建造、特に耐火煉瓦の製造に手間取っています。珪砂を混ぜたり、炉の内部に石灰で作ったクリンカー、セメントの原料を厚く貼って対処していますが、1、2回操業したら総点検、という具合でして採算が合いません。他に蒸気機関も必要ですので、予算も人も足りません」


 安房国は鉄を輸入に頼っており、銑鉄の形で入ってくる。

 そこで実元は平炉を建造しようとしていた。平炉なら銑鉄、鉄くず、鉄鉱石が原料であり、これを格安で手に入れた石炭から作ったコークスを用いれば一気に良質の鋼を安く手に入れられ、大砲の製造も出来た。


 が、一番重要な耐火煉瓦が中々製造できずにいた。


 現代では耐火煉瓦は砕いた耐火煉瓦を使用して製造される。

 じゃあ大本はどうやって作るんだよ、というと、現代ではジルコニア、アルミニウム、マグネシアやドロマイトを使用する。


 そんなもん何処に有んだよ、という話である。ジルコニア、アルミニウム、マグネシアなんて物は日本では手に入らず、ドロマイトに関しては石灰と見分けがつかない。


 また輸入している鉄、特に南蛮鉄にはリンやケイ素、マンガンといった不純物が含まれており、スラグとして除去するためには塩基性の耐火物が必要で、炉内に酸性の耐火煉瓦は使えないのだ。


 そのため、入手しやすい珪砂を混ぜた酸性の耐火煉瓦で大部分を作り、炉の内側を塩基性である石灰とドロマイドらしき石で作ったクリンカーを塗り付けていたのだが、鉄を融解させる温度まで耐えられないのだ。

 炉の構造が悪いのか、製造法が悪いのか、混ぜている成分の比率が悪いのか、それとも全部駄目なのか、さっぱり分らなかった。


 一応、従来の鍛冶に使う炉の改良にはなり、鉄の質は上がったがまだまだ大砲の製造には程遠かった。


「耐火煉瓦さえ出来てしまえば、あとは順調に開発も進みますが……」

「ふうむ、そうか。まあ青銅砲でも十分な性能だろう。煉瓦の開発も続けてもらうが、暫くは青銅砲の開発に注力してくれ」

「はっ、畏まりました」


 そのあと交易、陸海での前線での案件が報告される。

 交易は堺の商人たちがこぞって鯨や木綿を買い集めており、貸し出した水夫たちによって沖乗りで一気に時間が短縮されることによって交易は活発になっていた。

 値段はかなり吹っ掛けているそうだが、それでも売れている状況。もうウッハウハらしい。


 前線では変わらず小競り合いのみ。水軍では通商破壊作戦を行っているが、北条方は護送船団を編成するなど対策を講じ、既に経験も十分に積んだことから引き揚げることとなった。


「外交関係はどうなりましたか?同盟を新たに結ぶとのことでしたが」


 安泰の言葉に、外交を担当している時茂が答える。


「外交関係ですが、まず鯨肉は鶴谷八幡宮、佐竹氏、宇都宮氏らに贈呈したところ、大変喜ばれました。佐竹氏との同盟は維持され、特に宇都宮氏は同盟の締結に前向きだそうです」

「まあ当然だろうな。あちらは少しでも仲間が欲しい状況だからな」


 時茂は塩漬けにした鯨肉を氏神である鶴谷八幡宮、同盟関係である常陸国の佐竹義昭、下野国の宇都宮広綱に贈呈していた。

 佐竹氏は北関東でも有力な大名であり、史実では一度同盟を結べば裏切らない大名であった。

 そして宇都宮氏は現在、内乱で滅亡寸前であった。


 天文18(1549)年に当主であった宇都宮尚綱が戦により死去。宿老であった壬生綱房が下剋上で宇都宮城を乗っ取ってしまう。この時、嫡子の広綱は幼少であり、家臣の芳賀高定(はがたかさだ)に守られて真岡城にて高定の補佐を受けていた。

 時茂は直接、真岡城に赴き、広綱と家臣である芳賀高定に鯨という高級品を贈呈し、国は遠くとも復帰に協力すると約束したのだ。


 高定は傍から見れば滅亡間際の大名に、無関係の里見家が同盟を申し出ることに怪訝に思ったものの、里見家が提示した物資関係の支援は魅力的であり、時茂の「北条方に対抗するため」との言葉に一応の納得は見せていた。


 これも史実では来年の天文20(1551)年には父の仇である那須高資を殺害し、弘治3(1557)年には宇都宮城へ復帰し、滅亡が回避されたことを知っているためであった。


「私自身、史実での芳賀高定の活躍を聞かされましたが、どうやら本当のようです。かなり頭が切れる男でした。佐竹氏も江戸氏を従属させてからでしょうが、宇都宮氏に協力する模様です」

「そうでなければ滅亡は回避できない、ということだろう。これで北条方と対抗する大名が少しでも増えれば戦いやすくなる」


 この言葉に全員が頷く。

 いくらミニエー銃やら大砲やらを製造しても、いつかは真似される。また北条方が多方面から同時攻撃すればこちらは圧倒的に兵数も少なく、物量に押されて負けるのが分かっていたためだった。


「上総の酒井両氏は引きこまないので?」

「奴らは我々と北条を天秤にかけている。家を残すためにな。話をすればどちらにも兵を出すだろう」


 上総酒井氏は上総国北部を支配しており、東金城、士気城の二流に分かれており現在は北条方についていた。

 しかし、この一帯は北条方の領国化も進んでおらず、また里見氏にも近いことから同盟関係も不安定であった。

 史実でも天文22(1553)年には東金城城主の酒井胤治が北条方の城である庁南城を攻め、天文23(1554)年の久留里城の戦いには東金城城主の酒井敏房は里見氏に味方として出陣し、土気城城主の酒井玄治は北条方に属していたが、里見氏に代将を送っていた。


「今の奴らは板挟み状態だ。この状況で同盟を結んでも意味が無い」

「確かにそうですな」

「ところで、真里谷信隆はどうだ?」


 急に話が変わり、義堯の言葉に事情を知らない五郎たちが困惑した顔になる。


「家臣らが必死に隠しているようですが、病気で床に伏せているとの噂が有ります」

「……まさか、一気に上総国を制圧するのですか?」


 意味が分かった義舜がそう訊ねると、義堯はにやりと笑う。


「そうだ。史実通りに来年の8月に病死するのに合わせて北上する」


 義堯は天文20(1551)年8月21日に真里谷信隆が後継者を立てることなく病死するのを史実として聞いていた。

 真里谷氏は上総武田氏とも言い、甲斐武田氏から分かれた家系である。この上総武田氏から庁南城に拠点を置く庁南氏、真里谷城に拠点を置く真里谷氏と分れ、かつては上総国一帯を治めるほど隆盛を誇っていたが、現在は相次ぐ内紛で既に力は無かった。

 そこで、義堯は8月に北上開始し、笹子城と久保田城を攻め立て、占領。水軍は江戸湾に侵入し、陸海から椎津城を攻撃する。更に真里谷氏のもう1つの本拠地でもある庁南城(ちょうなんじょう)を攻め落とす。

 北条方が本格的に動く前に一気に占領し、上総国を制圧しようと考えていた。


「しかし、兵力が足りるのですか?」

「なに、新兵器の実戦運用をするし、庁南城攻略には東金酒井氏からも兵を出させる。それに、五郎の初陣には丁度良い」


 そう言うと、全員の視線が五郎に集まった。


「……え、初陣?」

「そうだ。五郎は来年には齢11になる。ちと早いが、まあ良い機会だろう」

「つまり、元服ですか?」

「そうだが?」

「……髪型、せめて五分刈りになりませんかね?」


 五郎の発言に転生者たちはお互いの頭を見て、ああ、と頷き合う。


「無理に決まってんだろうが」

「皆が通る道ですから諦めてください」

「結構涼しくて良いですよ」

「まあ、諦めてください」

 

 要するに、月代にしたくないのだ。

 五郎に残る現代人の感覚だと、禿にしか思えないためだった。


「大丈夫だ。ウチは毛を抜かないで剃るだけだから、頭も腫れにくい」

「それに歳を取って髪の毛が後退しても分りづらいですよ」

「フォローにもなっていない気がする……」


 さめざめと泣く五郎に、既に大人になった方々が諦めろ、と念仏のように呟く。


「まあ話を戻そう。五郎の元服は後だ」


 既に場慣れしてしまった義堯の言葉にコントを止め、居住まいを正した。


「軍勢はどうなさいますか?」

「ワシと義舜、時茂、為頼、実元、そして五郎だな。五郎は安泰と共に水軍を率いてもらう」


 為頼とは上総国の国人であり万喜城城主、土岐為頼(ときためより)の事である。

 里見家の重臣で〝万喜少弼〟の異名を持ち、戦上手。また為頼の娘は義堯の後室であり義堯が信頼する1人であった。


「となると、椎津城の攻略戦が初陣ですか」

「そうだ。あちらも水軍を出してくるだろうが、数は少ない。安泰、五郎の補佐を頼む」

「はっ、畏まりました」

「あと、何か報告はあるか?」


 他の面々は静かに首を振り、義堯は議論が出尽くしたと判断した。


「無いようだな。さて、良い時間だ、飯にしよう」


 義堯が〝会合〟の終了を宣言すると、時茂と時忠、実元、安泰の4名が退出し、暫くして、料理を持ってきた。

 野菜を盛り付けた皿に、新鮮な魚、そして出汁と具の入った土鍋。

 座卓の上に横に平たい特製の七輪を置き、土鍋を乗せ、人数分の小鉢と箸を配り準備をしていく。


 冬の定番と言えば、鍋である。


「鍋料理は久々だな」

「こんな機会でもない限り、気軽に暖かい料理を食べられませんからね」

「普段の料理は毒見で冷め切っていますからな」


 念のため、毒見役代わりに料理を持ってきた4人が食べてから他の人たちもいそいそと食べ始めた。


「しかし、殿が食べたいと言うとは思いませんでした」

「ワシだって冷めた料理を食べたいとは思わんさ。普段は酒ぐらいしか楽しみがないしの」


 そう言いながら、義堯は美味そうに大根おろしと醤油をかけた魚を食べながら話を続けた。


「しかし、未来ではこんなにも美味い料理と酒があるのか。そこは羨ましいがな」

「飽食国家なんて言われていましたからね。働いていれば食うに困らない時代でしたね」

「個人的には牛肉や豚肉も食べたいですがね」

「そこは我慢だろう。流石に未来の和牛や三元豚は無理だ」

 

 食うのに困る時代で、鰹節や醤油、味噌などの調味料を再現して良い物を食べているが、未来の味の濃い食事に慣れた面々にはまだまだ物足りない部分が多かった。


「俺としては十分に贅沢な食事だがな」

「まあ折角の鍋だ。今日ぐらい楽しもうじゃないか」


 そして、久々に仕事を忘れて夜中まで鍋料理と酒を楽しんだ後。


 天文21(1552)年、五郎改め、里見義頼は初陣となる。


今更ですが、本来ならば里見義頼は1543(天文12)年生まれで、作中では3年早く生まれていることになります。

申し訳ありませんが、このまま書かせてもらいます。


誤字・脱字が有りましたら、ご報告をお願いたします。


ついでに10分で考えた砲の要目を乗せてみました。

かなり適当なので、本気にしてはいけません。


[二十年式三寸山砲]


口径   3寸   (91mm)

砲身長  3尺6寸 (1.09m) 12口径

総重量  67貫  (251kg)

最大射程 1,430間 (2,600m)


・モデルは四斤山砲。


[二十年式三寸野砲]


口径    3寸 (91mm)

砲身長   6尺 (1.82m) 20口径

総重量   186貫(698kg)

最大射程 2,200間(4,000m)(推定)


・モデルは四斤野砲。


[二十年式四寸榴弾砲]


口径   4寸 (約122mm)

砲身長  10尺 (約3.05m) 25口径

全重量  560貫(2100kg)

最大射程 3300間(約6,000m)(推定)


・モデルはカルバリン砲


四寸榴弾砲の射程長すぎだろ、と思うかもしれませんが、カルバリン砲自体にばらつきは有りますが、4,000~6,000mは飛ぶようなので、高い数値ではありません。実際に大阪の陣で徳川家康が購入したオランダ製のカルバリン砲は6,000mは飛んだようです。

有効射程は2,000m程ですが、それでも砲台に配備すれば館山湾内は射程圏内になります。


2014/9/20 誤字・脱字の修正を行いました。


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