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第1話 何故、戦国時代?

なんとなく勢いだけで戦国時代風の物を書いてみました。

楽しんでいただければ幸いです。


里見氏 <さとみ-し> 名


戦国大名。安房里見氏。家系は新田氏の支流。戦国時代末期に強力な軍事力と技術を持ち、安房国、上総国、下総国を領有し、大きく繁栄した。


   *


  天文18(1549)年5月、安房国 岡本城


「さて、どうしてこんなところにいるのだろうか?」


 座敷の中央にひかれた布団から起き上がり、少年はそう呟く。

 変声期も迎えていない、高い声だ。肌着に包まれた身体は小さく、手足も貧弱である。

 ずっと寝ていたようで、節々が酷く痛むことが逆に夢でないことが分からせる。

 辺りを見ても、何と言うか、田舎の民家か古い旅館のような造りの部屋だ。

 高速道路の近くにいるようなごぉーっと音が鳴り響き、海が近いのだろう、開いた障子から生暖かい風と共に磯臭い匂いがする。


 一体どういう事なのだろうか?

 訳が分らない。


「はて?俺は誰だろうか?」


 何故か自分の名前を覚えていない。

 「記憶」の中には、家族や自分のしていた仕事、仕事の上司、部下、友人など、人の名前は出てくるのだか、自分の名前が思い出せない。


「そうか……、これが転生というのかッ!」


 いやこの場合、憑依というのか?

 何故か自分の名前は分らないが、他の事はしっかりと覚えている。


 そんな事よりも。

 転生、憑依である。

 小説や漫画にはよくある、異世界に転生や過去の日本に逆行するなど浪漫のある話である。

 ハーレムも剣と魔法の世界も興味はないが、己には一つだけやりたいことがあるのだ。


 現代の日本では間違いなく出来ないことだ。


 そのためにも自分の記憶を必死に辿ると、二つの記憶があった。此処が何処なのか、自分が何者なのかを知った。


 そして、愕然とした。


「なんで、なんでなんだ……」


 今の名前は、この身体の名前は五郎。9歳である。

 家系は新田氏の支流である里見氏。父は里見(さとみ)義堯(よしたか)。戦国時代の安房国大名。兄は義舜。他にも兄はいたらしい。

 此処は安房国、岡本城。その一室。今年起きた大地震で頭を強く打ち昏睡状態になる。

 安房里見氏の家臣、岡本(おかもと)左京亮(さきょうのすけ)通輔(みちすけ)の居城である。


「なんで戦国時代なんだっ!なんで明治時代じゃねぇんだよっ!!」


 ―――戦艦が設計できねえじゃねぇかっっ?!


 余りにも悲痛な叫び声に、何事かと様子を見に来ていた家人たちが集まってきてしまい、起き上がって頭を抱えて「Noォオオッ!」と号泣していた太郎を見て「若が頭の怪我で苦しんでいる」と大騒ぎとなった。


   *


 その後、色々あったが医者の問診が終わり、再び一人となった五郎(仮)。


 どうもこの身体の記憶によると、五郎はあまり活発な子では無く、常にボゥとしているような人物であったようだ。以前とは違う、落ち着きが無く、先程の叫び声を上げた様子も駆けつけた医者に「怪我から回復し、やや混乱しているようですが、悪夢を見ていたのでしょう」として念のため様子を見ることとなった。


「嘘だと言ってよ、バー○ィ……」


 何で明治じゃねえんだよ、戦艦の設計が……、巡洋艦が……、駆逐艦が……。

 布団の上に座り、俯き顔でブツブツと文句を垂らす太郎。

 余程近代の日本に転生したかったらしい。


 それもその筈、五郎の前世(?)は造船設計技術者だった。

 昔から船の、とりわけ軍艦の設計をしたいと願っていた。特に戦艦である。

 あの重厚な船体、長大で高威力の主砲、舷側に配置された副砲塔群、高い艦橋を持つ姿は国によって特色が違い、現代の艦船には無い、自国の理論を追求した独特の美しさがあった(アメリカ艦は除く)。

 主砲が爆炎を零し、衝撃で海面が抉れて艦は滑る。砲弾は轟音と共に飛び出し、敵艦を穿つ。

 実に素晴らしいじゃないか。


 それが今じゃどうだ。


 ぺっらぺらの船体に申し訳程度の小口径の艦砲、ミサイルとかいう邪道な兵器、レーダーを積むために何処を見ても同じ形状、同じ設計思想のつまらない軍艦しかない。


 前世(?)でも会社が軍艦の設計、建造をしていたため(勿論、軍艦が造りたかったから入社した)、そこで艦船設計部門に配属され、後に軍艦の設計を任されたときは大いに喜んだ。


 この国では法律上は専守防衛、つまり攻撃を受けてからでないと反撃ができない。

 其れなのに現状の艦はミサイル一発即撃沈であり、この国の事情と設計がかなりチグハグで高価な棺桶と変わらないのだ。


 そこで「ミサイルを数発喰らおうが沈まず、乗員を守る、防衛に適した艦」を設計したのだ。

 外見は旧日本海軍の重巡に似ており、重要防御区画に新設計の対ミサイル装甲を持ち、単装速射砲1門、対空機関砲4門を持った軍艦となった。

 ミサイルというのは貫通力があまり高くない。命中するたびに死傷者が発生し、場合によっては火災が発生することもあるが、これならば数発では沈まず、VLS(垂直発射装置)を持つために対潜、特に対空では十分に活躍するだろう。


 個人としては中々良い出来であったため、意気揚々とこの設計案を提出したが、時代に逆行した設計とコストの問題で却下されてしまったのだ。

 せめて装甲だけでも、と食い下がったが上司に「どのみちミサイル一発で船は沈む」と鼻で笑われてしまった。

 それ以来、嫌われて窓際に追いやられ、軍艦の設計は出来なくなった。


 だからこそ、近代の日本へ転生をしたかった。

 思う存分、軍艦の設計をしたかった。

 自分の設計した戦艦が砲撃し、巡洋艦が縦横無尽に動き、駆逐艦が敵船に肉薄し、輸送船は物資を輸送し、海防艦が航路を守る。

 あ、空母?あまり興味ない。あんな蒲鉾(かまぼこ)の板が浮いているような物の何処が(ry。

 ただ其れだけなのに。


「なんで戦国時代なんだよ~、海防艦すら造れねえじゃねえか……」


 そもそも、鉄製船殻を持った船が出るのは19世紀初頭であり、それまでは部分的に鉄を使用(竜骨や装甲など)した、もしくは木骨木皮の船だった。

 鉄製船殻が出たのも石炭の使用、蒸気機関、新たな製鉄法の発見により安価な鉄が製造でき、また木造船の限界によるものだった。


 この時代では木造帆船、しかもガレオン船が出てくる時ぐらいなのだ。

 鋳鉄製の竜骨すら影も形も無い。


 機材も、技術も、人員もいないこの時代では最先端技術の塊である超弩級戦艦など、ましてや高張力鋼板すら製造は出来なかった。


「いや待て、前向きにだ。ボジティブに考えろ」


 戦国時代の技術では超弩級戦艦は造れない。これは確かだ。

 ――ならば、強引にも技術を発展させて、戦国時代最強の戦艦を建造するしかない。


「これだ……」


 自分が生きている間――五十年と考えて――に建造可能な最高の軍艦を考える。


 まず機関。

 これが決まらないと何もできん。蒸気タービンが良いが、レシプロ機関ですらいけるかどうか微妙。暫くは帆船を、そして装甲艦「扶桑」の様な機帆船とする。

 勿論、建造できるならば蒸気タービン機関を搭載した戦艦を。


 船体。

 帆船では鉄骨木皮まで。あまり重くすると速力が遅くなる。

 蒸気機関単体で動かせるようになれば(少々、いやかなり不満だが)鋳鉄製の竜骨と船殻にする。装甲は錬鉄製だろう。

 当然だが電気溶接など出来ないのでリベット打ち。知識はあるが、現代では廃れた技術の為、研究が必要。ブロック工法も使えば工期の短縮は可能。

 凌波性に優れたクリッパー型艦首が望ましいが、この時代は衝角攻撃、白兵戦が主体。

 敷島型戦艦をモデルとするか。塗料はこの時代でも製造可能だ。


 艦砲。

 後装式ライフル砲が望ましい。帆船だと中心線上には配置しにくいため砲郭式にする。

 口径は材質の問題(ニッケル、クロムなどが抽出できない)からあまり大きくは出来ない。

 機材が揃えばアームストロング砲だと何とかいけるか?勿論、砲弾は銅帯弾とし、尾栓は改良する。それで大分良くなる筈。駐座複退機は無理か?

 一先ずは四斤山砲といった前装式青銅砲を使用する。


 帆。

 木綿が良い。安房国でも栽培が必要だが、商人に掛け合って種を購入するしかない。

 栽培方法、織り方は知らないため、農民や職人たちに頑張ってもらうしかない。

 上手くいけば重要な資金源にもなる。


 此処までで必要な機材。


 旋盤。

 まずは足踏み式から始める。工具は鋼製。加工精度を上げるためにも水車、蒸気機関と発展させていく。


 織機、紡績機。

 足踏み式織機と手動ミュール紡績機を作る。ただし、構造はうろ覚え。


 動力ハンマー。

 最初は水車動力で。燃料と精度の高い部品加工の確保ができてから蒸気ハンマーを。


 溶鉱炉。

 この時代の鉄は需要を満たすために明やポルトガルなどから輸入した銑鉄が多い。千葉県は鉄鉱石が採れないので、高炉はいらない。酸性平炉が良いか。硅石レンガと内部に石灰とドロマイドを使えばどうにかなる、か? 


 蒸気機関。

 これが一番難しい。鋳鉄で単純な物を最初に作ってみる。後は鋳鋼か、鋼材を削りだして造るしかないか。


 圧延機。

 小型の物ならば人力で可能。レオナルド・ダ・ヴィンチも確か作っていた。本格的な圧延機は蒸気機関が出来てから。鋼製のロールを使う。


 他、機械油、バネ、製図用のペン、定規、紙など。

 そして、これを実行するだけの多数の熟練工と金銭と時間。


 ……ざっと思い付く限り上げてみたが。


「かなり厳しいな……」


 この時代には無い、百年以上は先に行く技術を再現するのは相当難しい。

 時間と資金と研究が必要だ。

 まだ関東の雄である北条氏や尾張の織田家とか、加賀百万石の前田家とか、金持ちの大名に生まれたかった(といっても、武家のしきたりや兵力の維持、部下の給料などで大抵の大名の財政は火の車だったそうだ)。


 そして現在、五郎がいる里見家。記憶によると現在は安房国と上総国南部を領有。

 凡そ20万石ほど。

 里見家と敵対する北条家。伊豆国、相模国、武蔵国、下総国、残った上総国。

 凡そ150万石ほど。


 ……つまるところ、そこまで回すほど金が無い。


「よくまあ、これで北条と敵対できたなあ……」


 単純に石高が多ければ多いほど、兵の動員数は多く出来る。

 今でこそ20万石はあるが、確かその後、家臣の裏切りや北条との戦で大敗し、安房国一国(9万石)だけとなり、片や北条は200万石を超える関東最大の大名となった。

 北条氏は敵対していた大名が多く、また里見氏の領地である安房国は山だらけで攻めにくい、里見水軍が精強だったとはいえ、これは純粋に凄いと思う。


「まあとにかく、手っ取り早く金を稼がないといかんな」


 最初はなるべくお手軽で、効果の高いことをしなければならない。

 農業は専門外だが、海や船に関する事ならどうにかできる。

 まあ、取り合えず。


「寝るか」


 今日は疲れた、まだ身体がだるい。

 明日からは頑張らなければ、そう、己が最高とする戦艦を造るためにも。


 そう決意して、彼は次第に眠りに落ちていった。



作中で主人公は「五郎」と出ていますが、里見氏の資料が殆ど無いため、仮の名前としています。

見つかったらそちらに変更いたします。


※2014/9/2 指摘された誤字の修正を行いました。


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