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帰還



「風香ちゃん自分で弁当作ってるんだ!すげえ!」

女子が3人と洋平1人で昼食を食べている。基本的に何をするのも洋平は男子は呼ばない、健太だけは特別で良く呼ばれるがほとんど断っていた



「そうだよ、いつも早起きして作るの!…あれ?健太君?」


その言葉に反応して洋平が下駄箱の方を見ると校庭の隅へと歩く健太の姿が映った。スポーツバッグを持って歩く健太の姿を見て洋平は何かを悟ったように微笑む




「健太君ってうちのクラスの久保君?かっこいいよね」

風香の隣に座る背の大きな女子が突然の告白をする。この時、密かに洋平はもう二度と健太を誘わないと決めていた



「なにするんだろ、スポーツバッグ持ってたってことは運動かな?部活何入るって言ってたっけ?」

風香の言葉が聞こえていないのか、聞こえていて答えないのか分からないが洋平は健太の方を見て満足気な顔をする







「やっと戻ってきたか…おかえり、エース」









「お前まじで球種カーブだけなのか?」


「すいません…」


マウンドで打ち合わせをする原田と健太。健太の球種はカーブのみなのは中学時代からずっとそうだった



「3試合連続完封ってカーブだけでできるのな…まあいい、あいつの弱点教えろ」





「透の弱点ですか…女子じゃないですかね…」


「ジョシ?!なんだそりゃ!どんな球種なんだ?!」



「いやいや女の子ですよ…」


「なんだよ!新種の球種かと思ったじゃねえか!」

そんな球種あるわけないでしょ。という突っ込みは心の中にしまいつつ、色々な思考して村澤の弱点を探す





「…ないですね。」



完結、シンプル、それ以外に答えが見つからなかった






整備されたマウンドのプレートの前方に穴を掘って自分の投げやすいように調整していく。久しぶりの本物のマウンド、確かに戸惑いはあるが怖くはなかった。むしろ体が求めていた場所、興奮からくる震えがある



バッターボックスで構える村澤も何度も何度もスイングを確かめるようにして振り込んでいる。左バッターボックスで立つ村澤から感じるプレッシャー、並大抵の打者からは感じることはない威圧感。どこに投げても打たれる、そんな思考が頭を過ぎる




高校生のキャッチャーってでかいんだな。いやこのキャプテンがでかいのか、ありがたい、それだけでずいぶんとストライクゾーンが広く見える


大きく命一杯構えた原田から出たサインはストレート、外角低め








一息ついてからプレートを踏む



思わず出る言葉




「おかえり、俺…」







指を離れていくボールは体重を乗せて勢いよく飛び出していく。球速にすれば120km程度だがコースは完璧に外角低めへと向かう






殺気…






それ以外に形容のしようが無い何かを感じ取り、健太の体がこわばる




ミットへと収まるはずだったボールが村澤の綺麗なフォームによって繰り出されたバットに巻き込まれて空高く舞っていく。外角低めの球に逆らわずに完璧に捉えられたボールはレフト方向へと上がり、上昇しながら進んでいく、打たれた瞬間、いや、バットが振り出された瞬間にホームランだと分かる。そんな表現が正しいのだろう




「あちゃー…派手に飛ばすな、村澤」


キャッチャーの原田も立ち上がりボールの行く末を見定めている。体育館に当たって跳ね返り、花壇へと入ってしまったのだろう、飛距離にすれば130m。初見のピッチャーから早々打てるものではない




予備に持ってきていたボールを拾い上げると、体育館の方を見て呆けている健太を呼び投げつける



「落ち込むな!球筋は悪くない、あとは投げ込みと、筋トレ積んだら来年が楽しみだ!ほら、もう一丁いこうぜ!」









一瞬、打たれた瞬間に蘇ったのはあの敗戦だった。いやなイメージが頭の中をぐるぐるとまわる。思考が停止して、同じ場面が頭をめぐる。吐き気にも似た何かがこみ上げてきてしゃがみこむ



キャッチャーの原田が心配して駆け寄ろうとした瞬間であった






「バッチこーい!!!」



先程ボールが入り込んだ体育館横の花壇の方から声がして健太が振り向く。そこには3人の女子を控えさせた洋平が立っていた。健太が振り向いたのを見ると手を振ってくる、女子の一人、おそらく風香も手を振る



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