大作戦失敗
「なあ、クボケン…」
「なんだ」
体操着姿で校庭に集合させられる体育の時間。一年で一度己の成長を測る【体力測定テスト】の時間である。この日は【1500m走】【ハンドボール投げ】など外の種目があり、この前やった50m走の測り直しもできる。体育会系男子のアピールの場であり、女子に注目される大チャンスである
「俺なんか、今日いける気がするわ」
真顔でこちらを向き、言葉を放つ洋平は正直きもい
「やめとけよ、50m走の時みたいに天狗の鼻を折られるだけだぞ」
この前の50m走で洋平は1位を取れるであろう5.99秒という記録を生み出し意気揚々としていた。しかし、翼の見事な速さに当校新記録を出され、洋平の【女の子の人気を村澤から奪っちゃおうぜ大作戦】は終わった
しかし、その第二弾が始まろうとしているのである
正直やめてほしい、翼に負けただけで落ち込み過ぎてお昼をまともに食べなかったほどである。めんどくさすぎる
「1500m走は自信あるんだよ!毎日、毎日、馬のように走らされてるからな!【ダントツ1位でゴールして目立っちゃおうぜ大作戦】ってことで!」
そして、その野望も無駄に終わる
「てめぇ!」
終わったあと洋平は怒りながら健太に詰め寄る
「なんだよ」
「速すぎだろ!1500m走は5分切ったら満点の10点を取れる種目なんだぞ!俺が4分32秒なのにクボケンがどうして4分6秒なんだ!早すぎるだろ!」
いつも当然のように走らされてきていた健太にとって1500mなど全力で走ったとて疲れやしない。現に人数の関係で2回に分けた走者たちの2回目のグループに分けられていた健太は1回目に走った洋平と変わらず平然としている。他の者は地面に倒れたりしているのだがさすがである
「まだだ、まだチャンスはある!【各種目1位】と【総合得点1位】は廊下に貼り出されるのだ!総合得点1位は俺に決まってる、なにせムラが無い!ほとんどの種目で満点だしな!」
そんなことを言っていた洋平は今は、机に突っ伏していじけていた
【1年生・総合得点1位:村澤 透】
これはさすがに酷である。どの種目でも1位は取れなかったものの全種目通じて最悪でも学年10位以内に入っている洋平の名前は廊下に貼り出されることはなかったのだ。しかも一番勝ちたい相手に負けた。村澤は全種目で順位こそそこまで高くないが、全種目において満点を取るという偉業を成し遂げたのであった
「凄いよね、星野さん」
突然名前を呼ばれたことにより、窓から顔を出して未来と話していた真奈美は顔を徐々に赤らめていく。しょうがないなという顔をして未来が代わりに口を開く
「凄いでしょー!真奈美はバドミントン部きっての運動神経の持ち主だからね!女子1位とか余裕だよ余裕!」
ね!と背中を叩かれて俯いたまま頷く真奈美を見て、健太は不思議そうにしていたがそのあとも洋平抜きで楽しい談話が行われたのだった