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――暗闇。
最初に感じたのは鼓動だった。体の真ん中。次に感じたのは熱だった。体の上の方。右側。次々に形成されていく器官。感覚が確かになっていく。いつからだろうか。聞こえるようになったのは。理解するのが遅かったのだろうか。聞こえていたのかもしれない。いつからか認識できるようになっていた。
その声が聞こえれば体を動かせた。ひどく疲れたが苦痛ではなかった。今思えば唯一のコンタクトだった。熱を持った体上方の右側の発達が顕著だ。初めて、視る、ということを知った。
おおよそ、その体上方の右側が発達したとしても、視ることは出来ない。視ていることを認識することは出来ない。通常は。だが、こと私に関しては視ることが出来た。情報が脳に刻まれていく。
いつしか言葉を覚えてしまった。未だ目の前にある柔らかい壁を叩くことしかコンタクトの手段は無かった。でも、あの声は聞こえていた。いつも聞こえていた。その声を聞くと落ち着いた。どこか安心していた。だが覚えてしまった。言葉を。
「お前なんか産まれてこなければ良いのに」
「そこで死んでくれたらどれだけいいか」
「捨ててやるからさっさと出て来い」
いつしか、いつしかその声からは安心とは違う物を感じるようになった。なぜだろう、なぜだろう。なぜ言葉を覚えてしまったのだろう。知らない方がいいこともある。知らない方がいいこともある。なんだろうかこの感覚は。形成された器官から鼓動が聞こえた。
"きっと望まれていないのだろう"
鼓動はいっそう早くなった。出来ることは相も変わらず柔らかい壁を叩くだけ。ただ、ただ声を聞くのが耐えられなかった。
いつしか自分に出来ることが壁を叩くことだけではないと気付いた。
私はもう、声を聞くのが嫌になってそっと頭を堕とした。