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ユイネの花束  作者: uta
7/11



 夕刻を過ぎ、外は湖の深淵程も暗く、冷たいものとなっていた。防寒具が無いと厳しいぐらいに。

 だが、要塞内は天井に張り付いた空気口より熱を帯びた空気が排出されている。

 防寒具は必要ない。

 先ほど、この空気の出所を尋ねると機械の熱を利用しいているらしい。




「機械が好きなのか。」




 セクタは先ほどから機械をいじっている少女。

 両眼色の異なる少女。

 輝く右と澄んだ左。

 その少女に尋ねた。




「別に。」




「さっきからずっといじっているから、そうかと思ったんだが。機械はいいぞ。」




「そう。」




「教祖様は言うんだ。人には大切な物があります。信じる心です。信じる心があるのは人だけ。神に感謝を。おお、神よ。おお、神よ。どうか、どうか。神を信じる子らに、どうか救いの手を、とな。」




「信者?」




 胡散臭そうに、少女は尋ねた。




「俺は無宗教だ。よくでかい声で演説してるから頭に残っちまうんだよ。基本的に、少なくとも俺の知る限りでは、宗教に溺れる人間は弱い、絶望した人間だ。心のよりどころを求めているんだ。別に俺は入信するつもりは、ねぇよ。そもそも科学者が宗教なんて笑っちまうだろ。」




「ふうん。」




「信者は、科学も宗教も目指すものは同じだ。世界の心理であると言うんだ。だがな、仮にそうだったとしても宗教は何も生み出さん。生産性が無い。少なくとも科学は現時点でも成果をあげて、世の中のあらゆることの効率を上げている。」




「まあそもそも科学者達は宗教信者共なんぞ相手にしていないんだがな。勝手に敵視しているだけだ。俺がなぜここで科学教の教えを論じたかと言うとな。」




「お前も俺よりの考えじゃないかと思ったからだ。」




「何。科学教って。やっぱり信者。」




「わたしは科学を信じます。シンジルモノハスクワレマス。」




 セクタは右手を挙げ、教祖風に言った。




「つまらない。」




「さいですか。」




「まあ、何が言いたいかというとだ。機械はいい、ってことだ。」




「どうしたら、そうなったの。」




 呆れ顔の少女。

 この男、何がしたいのか掴めないでいた。

 ただ、胡散臭かった。




「機械にも心があるとしよう。例えば機械にあれしろこれしろと命令文を入力する、とだ。必ず実行に移すよな。」




「当たり前。」




「そう、当たり前だ。だがな、人は違う。面倒だとか用事があるとかでな。ところが機械は忠実に、命令に従う。」




 セクタは、少女にグイッと顔を寄せた。触れてしまうかと思うぐらいに。




「な、何。」




「健気だと思わないか。」




「は?」




「だから、ちょっとかわいいと思わないか。」




「・・・なに言ってんだこいつ。」




「人に言うとそう言われんだよな・・・。同意してくれたのは王都最強の騎士だけだ。あいつにこれを言った時は握手を求められたもんだ。」




 少女はふう、とため息をつく。




「心が在ると思っちまえば命令出さないと動かないとかちょっと融通利かないところもおちゃめで許せちまうんだが。」




「どうだ?」




「何が。」




「入信しないか?機械溺愛教(マシンできあいきょう)に。」




「・・・寄らないで。」




「くっ。蹴ることないだろ。」




「きも。」




 足の脛を蹴られたセクタはじわりじわりと痛みを感じていた。

 そして誓った。

 いつか、いつか入信してやると。

 そう、心に決めた。




「覚えてやがれ。」




「・・・。」




 少女はセクタの言葉を無視し、食料保管庫に足を運んだ。







 食料保管庫、先ほどセクタに飲ませた(アルコール)の置いてあった場所。

 そこに全ての食料を保管していた。

 食料の製造は全て屋上で行っており、全てが機械依存だ。

 そしてその食料保管庫にはもう一つ役割があった。

 重要な役割だ。




「ここで調理も行うのか。他の部屋は生活感が皆無だったもんな。」




「勝手に入ってこないで。」




「別にいいだろ。貯蔵と調理専用の部屋だろ?機密がある訳でもあるまいし。」




「フン。」




 少女は適当に食物を取ると、調理用の機械に放り込んだ。




「ほう。入れるだけで調理してくれるのか。」




「これは、私が造った。」




 腕を前に組み、その小さい胸を張って少し得意げな少女。




「別にこれぐらいの機械だったらたくさんあるが。王都の邸宅には必ずあるな。」




「・・・。」




「あー。すまん。いや、そうだ。凄い。その歳で造るなんてな。大したものだ。大人でもなかなか造れないさ」




「別にどうでもいい。」




「いやいや。さっき凄い物を見せてもらったからそっちで驚いちまったんだ。そうだ。これだって凄いさ。よく考えてみると、大したもんだ。」




「フン。」




 少し穏やかな表情。割と扱いやすい。

 実際のところ先ほどの機械、脳移植を行った機械を見た後になるとどうしても見劣りしてしまう。

 あと、なんとなく出来がイマイチなように見えた。

 家庭用の機械には疎いのだろうか。




 会話が切れるとほぼ同時にガスッっと何かが落ちる音。

 調理機械から。

 調理が完了したのだろう。

 少女は機械からそれを取り出した。




「・・・なんだこれ。」




「食べ物。」




「・・・。」




「ん。」




 少女は調理機械から取り出したそれをセクタに突き出した。

 その黒い物体。

 まるで子供が作った泥団子。

 そのものだ。




「くれるのか?」




「ん。」




「いいよ。お前食えば?」




 少女の表情は歪んだ。

 ここまで表情を表したのは初めてだ。

 セクタと出会ってからは。

 それは怒り。

 明らかに怒りの表情。

 セクタは思った。ちゃんと表情があるんじゃないか。




「ああ、いただくよ。ちなみに食えるんだよな?」




「当たり前。」




「・・・では、いただこう。」




 セクタはその泥団子をかじった。

 口に広がる泥の味。

 まさしく、泥団子のそれだった。

 これは、これはいけない。

 セクタは本能的に思った。

 これは、人間の食べる物ではない、と。




「お前、これ毎日食ってんの?」




「うん。」




「・・・こ、これはいいから。今日は俺の持ってる物を食べよう。な?たまには違う物も食べたいだろ?」




「ん?うん。」




 どうにか押し切ったセクタはどうにも不思議で仕方がなかった。

 どうすればあの味になるのかと。

 何か天性の物を感じずにはいられなかった。




「ほらよ。」




「ん。」




 部屋に戻るとセクタの簡易鞄から携帯食料を取り出し、少女に投げ渡した。

 日持ちがよく、栄養価も高いが味がいまひとつ。

 あまり、好んで口に入れたくは無い物だ。

 が、改めて思った。

 携帯食料にしても、旨くはないが食べられる。

 その有り難みに。

 先ほどの泥団子と比べれば、むしろ旨くも感じるだろう。




「美味しい。」




 少女は口の端を緩めた。

 ようやく、子供らしさというものを見た気がする。

 子供だ。

 どれだけ聡明であっても、子供なのだ。




「もっと旨いものがいくらでもあるぞ。俺とここを出るというならいくらでも食わせてやろう。別に食い物で釣ろうというわけではないが。」




「そ、そう。」




 少女は知っていた。

 外に出れば自分の知らない物がいくつも、あるということを。

 知らない、というよりも、そう、自分の目で見たことがないというべきか。

 聡明な少女。

 知っていることも多かった。




「所用で明日辺り発とうと思うんだが、決められそうか。」




「・・・うん。」




「そうか。」




「あの・・・。」




 少女が、自発的に発言したのは初めての事だった。

 セクタは問う。




「なんだ?」




「外には何か、他にもいいものがある?」




「んー。ここでいるよりはあるんじゃないか?まあ、面白い事ばかりじゃない。目も当てられないようなことだって腐るほどある。」




 そう。アクスマグラにはそれこそ、目も当てられない。

 酷い惨事が有り触れている。

 屈強な者が多い。

 立っている者は。

 座っているものは常に這い蹲っている。

 地に寝ているものは順に朽ちていく。

 堕ちる者に関しては救いようもない。

 それでも、それでも皆、救いを求めているのだ。




「だがな、その中にだっていいことは、ある。推す訳じゃない。だが、特にお前はまだ恵まれている。」




「どうして?」




「俺はきっと、お前を見捨てないだろうからだ。独りになるほど危なく、厳しいことはない。この世で独りで生きている人間なんてもんは、極々少数だ。誰でも、出来ることじゃない。」




「そう。」




 少女は少し、口を結んだ。

 ほんの2,3秒。それだけ。




「行くわ。」




「ん?閑所(かんじょ)か?」




「死ね。」




「冗談だ。いいのか?今まで悩んでたんだろ?」




「もう、決めた。」




「食い物に釣られたのか。」




 少女はセクタを睨みながら傍に落ちていた工具を拾い、地面に叩き付けた。




「わ、わかった。じゃあ明日発とう。未だ早いが疲れたし、寝るか。明日にも備えて。」




 決心がついたようだ。

 どの言葉がトリガーになったかは不知ず。

 少なからず出てみたかった。

 心揺れていた。

 心残りは、在った。

 決めたのだ。

 後には引かない。

 それが、最期の夜だった。




「ねえ。」




「なんだ?」




「ちょっと外の話しをして。」




「ガキか!ああ、ガキか。」




 一人突っ込んで一人納得した。




「ガキじゃない。いいから。早く。」




「あー。そうだな。じゃあ、一つだけ。話しをしてやろう。とあるじいさんの話だ。」


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