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ユイネの花束  作者: uta
6/11



 足取りの軽くなった少女は、先ほど呼んでおいた運搬用の機械に指示して箱を持たせた。

 実験残骸の入った箱を。

 重苦しい事、この上は無かった。




「コンパクトになったな。」




「うるさい。」




「持ち運び楽々、ってな。」




「・・・。」




 少女は思った。

 なんて鬱陶しいんだろう、と。

 当の本人はというとニヤリと口の端をゆがめて少女を見ていた。

 頭は良さそうだと思っていたがネジが数本足りないようだ。

 直接脳にネジを差し込んでやりたくなった。




「やっぱり鬱陶しいからついてくんな。」




「ん。あー。不謹慎だったか。そういうことに疎くてな。気分を悪くしたなら謝ろう。すまん。」




「別に。なんとも思ってない。」




「ふむ。まあ俺の言う事は大体聞き流してくれ。ってお前はハナから聞き流してるか。」




「・・・はぁ。」




 じじぃも相当、変わり者だと思っていたが、こいつもかなりの変わり者、だと思う。

 恐らく。

 恐らくは自分もそちらの部類だろうという自覚もある。

 そもそも変わっているとはなんだろう。

 少女は考えた。

 無駄なことだ。答えなんて無い。

 それに気づいた少女はまた、考えることを止めた。




「ここか。さっき見たが少し気になっていたんだ。なぜ此処に、一本だけ木が植わっているんだ。」




「知らない。じじぃに聞けば。」




「知らんのか。・・・あの人、教えてくれそうにないな。」




 そこは要塞裏。

 緑の無いこの一帯に一本だけ木があったそこ。




「あの人のことだから何か理由がありそうだが・・・。まあいいか。世の中、理解らないことがあったほうが面白いもんだ。」




 セクタには思い当たる節がいくつかあった。

 溢れ出す湖、希望の崖、紅い森、止まった街。

 アクスマグラには未だ解明されていない謎が多くある。

 ここもまた。

 かつてはそうだった。




「小さいがなかなか立派な木だ。」




 セクタは木のすぐ近くにある岩に座り、木に触った。

 それを横目で眺める少女。

 機械に命令文を入力しながら。

 気づかれないように。




「あー。そういうことか。クリューシカさんらしいな。」




「ん?」




「理解ってるんだろ?」




「何が?」




「いや、それならそれでいい。」




「・・・。」




 セクタは理解した。

 おおよそのことを。

 そして少女が、理解していることも。

 口にする必要は無い、と判断した。





 ザクザクザクザク。

 機械が掘削を開始していた。

 枯れた大地の砂と岩。

 砂を掘り返し、岩を砕く。

 鋼鉄製の軸を中心に回転錐(かいてんぎり)は回る。




「なぜ、此処に埋めようと思ったんだ?」




「・・・なんで?」




「いや、別に埋める場所について意見するつもりはねぇんだ。何か理由があると、思っただけだ。」




「ここはじじぃが一人の時、よく居た場所。別に深い意味は無い。」




「何か思い入れがあるのはクリューシカさんのほうか。まあ、娘に死に場所ぐらい選んでもらったほうがあの人も浮かばれるだろう。未だ死んだと言い切れるかわからんが。」




「・・・私は、娘じゃ、ない。」




「ん?そうか。まあどう思うかは自由だが。クリューシカさんはそう、思ってるんじゃないか?」




「・・・そんな訳ない。私は拾われた子供。家族だなんて・・・思われているわけない。下らない。親なんて知らない。家族なんて知らない。私はただ、生かしてもらっていただけ。」




「卑屈な考え方だな。」




「放っておいて。」




 少女は若干、俯きながら箱を持ち上げた。

 掘削作業は終わっていた。

 仕事を無くし、いつの間にか機械は待機状態になっていた。

 少女はその機械が掘った穴に、その手にある箱を入れた。

 埋める。埋葬作業。機械がではない。少女が、その手で。




「はぁ。」




 セクタは溜息をつくと立ち上がった。

 歩く。その穴まで。

 少女の隣で、しゃがむ。




「くだらん意地張ってんなよ。」




「なにが。」




「・・・まあ、二人のほうが早いだろ。」




 二人で穴を埋める。

 その箱に、枯れた大地の土と砕けた岩。

 四本の手で埋められていく。

 脳以外の奇人の身体とそれが。

 ここで、終わりを迎えていた。これで。




「終わったな。」




「・・・。」




 おもむろに、無言の少女の頭を撫でた。

 別に、意味はない。

 なんとなく。

 今日は多いと。

 なんとなく、感情に任せることが。

 人付き合いは基本的に苦手だ。

 だが、こいつとはうまくやっていけそうな気がした。

 その行動に、むしろ、驚いていたのは本人だった。




「やめ。」




 少女は撫でている手を振り払った。

 鬱陶しい奴だ。

 こんなに鬱陶しい奴は初めてだ、と。




「そんな辛気くせぇ顔してんなよ。お前が埋めてやったんだ。いつか眠る日がくりゃちゃんと眠れるさ。」




 少女は鬱陶しい奴から離れたくて、しょうがなかった。

 要塞内へ。

 誰も居ないそこへ。

 駆けた。




「よく見てりゃわかりやすい奴なのかもしれないな。」




 要塞裏に一人になったセクタは視界の片隅で待機中の掘削用機械を捕らえた。

 律儀に待っていたように映った。

 ひたむきに、文句一つ言わずに待っていた。




「いい機械だ。」




 その機械に次の命令文を入力してやった。命令解除、と。


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